第12話 天体観測
夕食を食べた後はいよいよの天体観測である。
とはいえ、今日は特に目標を設定したわけではないので、結構皆ダラダラやっていた。
本番は3日後の獅子座流星群である。
で、星の見えやすい新月の日を狙って今日から3泊4日の合宿というわけなのだ。
だから、今日・明日・明後日は特にすることもなくただ星を眺めるだけだ。
参加も自由である。
今日は少し曇っていて、また登山で疲れ果てていたので、大半がもう眠っていた。
だから観測場所も自由で、沙耶・愛花・銀河・雄二の4人は合宿所から歩いて3分くらいのところにある高台の芝生の上で寝転がりながら星を見ていた。
葵は銀河の部屋の片付けをすると言って合宿所に残った。
4人とも、もちろん望遠鏡などは持ってきていない。
沙耶は芝生に寝転がりながらぼーっと星を眺めたり、時々愛花と雄二の方を見ていた。
雄二は合宿に来る前、「愛花に星座を教えるんだ〜〜」と張り切って星座や星の名前などを覚えていたのだが、今は逆に愛花に教えられていた。
まあ、当然だろう。
愛花は中学時代も天体部に入っていて、同じ天体部だった沙耶に色々教えてくれていた。
そして、愛花目当てで天体部に入った男達が、愛花の話についていけずに困惑している姿を沙耶は何度も見てきた。
そのことも一応雄二に言っておいたはずなのだが、「いや、橘にもきっとわからないこともある」とあきらめず勉強していた。
でも、愛花の話に何とかついていけているということは、一応その努力も無駄ではなかったようである。
愛花の話についていくこと自体、奇跡に近いのだ。
雄二は愛花と話ができて嬉しそうだし、愛花も星に関しての話し相手ができて楽しそうだった。
沙耶が二人の方を見ていると、銀河が隣に座って話しかけてきた。
「仲良いんだね、あの二人。一緒にいる時多くない?しかもあの愛花さんと話が続くなんて・・・。もしかして付き合ってるとか?」
「う〜ん、とりあえず付き合ってはいないかな。今はまだ雄二の片想い中。一緒にいることが多いのは雄二が積極的に『愛花を誘ってくれ』と私に頼むから。だから最初は私がいて途中から二人になることが多いかな。」
「雄二君、積極的に動くのは感心なんだけど、動き方がすごく格好悪いなあ・・・。」
銀河が至極もっともな突っ込みを入れる。
「まあ、それだけ聞くとすごく格好悪く聞こえるけど、結局愛花と話し続けることができてるのは雄二だからね。私がいなくなったって話題が無くなったりすることはほとんどない。それは雄二自身の力なんだよ。まあ、自分で誘えたらもっといいんだけどね・・・」
沙耶はそう言って微笑んだ。
銀河も顔に微笑を浮かべながら言った。
「沙耶さんってすごいね。」
「へ!?」
突然の銀河の言葉に沙耶はそれしか言葉が出なかった。
銀河は淡々と続ける。
「だって沙耶さんって、友人の長所とか短所をしっかり把握してるんだもん。しかも短所などを話すときに忘れず長所を強調する。なかなかこんなことできないよ、普通。」
「え、いや、その・・・」
沙耶は言葉が出なかった。
嬉しいような、恥ずかしいような、照れたようなそんな感情が一気に押し寄せてきて頭が混乱しているのだ。
どんどん自分の顔が赤くなっていくのがわかる。
何なんだろう、この気持ちは。
今まで沙耶が経験したことのない気持ちだった。
こうして二人の間にしばらく沈黙が続いた時。
「バキッ」
背後の茂みから木の枝が折れる音が聞こえた。
そしてそれに続いて洩れる男女の声。
沙耶は黙ったまま立ち上がり、バッと茂みを開いた。
沙耶の予想通り、そこには聞き耳を立てた雄二と愛花の姿があった。
沙耶は二人に言った。
「で、何か言い残すことはある?」
咄嗟に逃げだす二人。
沙耶は「待ちなさい!待て〜〜!!」と叫びながら二人を追いかけて走って行った。
内心、ちょっと助かったと思いながら。