第11話 風呂場にて
午後6時を回ったところで風呂に入ることにした。
部屋は男女混合だったが、さすがに風呂は分かれていた。
風呂は露天であった。
ちょうど今日は新月(というか新月の日を選んだんだけど。)なので、星が奇麗だ。
ただ、ちょっと雲がかかっているので天の川までは見えなかった。
そうやって沙耶が星空を見上げながら歩いていたら・・・
「ぎゃっ!」
風呂の淵に足をひっかけて頭から湯船に突っ込んでしまった。
しかも風呂の底に頭をぶつけて非常に痛かった。
それを見た愛花は爆笑し、葵は「大丈夫ですか!?」とこっちへ向かってこようとしてシャワーに頭をぶつけ、悶絶していた。
頭の痛みも引き、愛花の笑いも収まって落ち着いたところで、せっかくだし葵に色々聞いてみることにした。
「葵ちゃんって学校とかは行ってないの?」
「今は行ってません。メイドとしての修業をしなくちゃいけないんで。」
葵はぶつけた頭を撫でながらそう言った。
相当痛かったようだ。
「中学校までは義務教育のはずだけど・・・」
「はい。ですから小学校の頃に飛び級で全て終わらせました。」
サラッとすごいことを言う葵。
へえ、飛び級なんて制度あるんだ・・・
メイドといい、飛び級といい、葵には色々と驚かされる。
それから風呂に入ってる間、沙耶は葵と色々と話をした。
メイドという職業をやっていると言うので葵にはちょっと堅い印象があったのだが、話してみると口調は堅いものの意外と普通に話せた。
「そういえばさ〜」
珍しく今までおとなしかった愛花が壁のある部分を指して言った。
「あそこに扉あるのわかる?小さい扉。何であんなところに扉があると思う?」
たしかにそこには顔くらいしか出せないくらい小さな扉がある。
別にあそこに扉があっても意味無いじゃん、と思いながら沙耶が答える。
「さっき店の人に聞いたんだけど、あそこは恋人同士があそこで話せるように、ってことらしいよ。ちなみに女湯側からしか開かないから変な目的で使われることはないみたい。」
「しかし、相手が恋人しかいないとは限らないじゃないですか。わざわざ大声で聞くのも気がひけますし。」
と葵の至極もっともな質問。
「だから店員は、現実にやる人がいるかはわからない、って言ってた。」
「もしやる人がいないとするとものすごく意味無いね、この扉。」
沙耶は言った後、すごく後悔した。
さっきから愛花が何を言おうとしているのか、わかってしまったから。
そして、沙耶の悪い予感は外れることなく・・・
「じゃあ、せっかくだし開けてみようか?」
愛花が提案する。
「何でそうなるんです!」
葵が反論する。
「だって使わなきゃ意味ないし。」
と愛花。
「じゃあ、開けるよ〜〜、準備はOK?せーの!」
普通だったら冗談だと思うだろう。
しかしこれを言ったのは愛花である。
沙耶も葵も躊躇いなく愛花を押さえつけた。
そして、愛花を更衣室まで運んで行った。
更衣室内で。
「もう〜、二人とも本気にしちゃって。冗談よ、冗談。」
「「嘘つけ!!」」
二人の声が更衣室内に響き渡った。