第10話 合宿
「では一旦5分ほど休憩する。」
山岳天体部部長の鈴木先輩が、休憩用のベンチを見つけて号令をかけた。
今山岳天体部は合宿所へ行くための登山中である。
この合宿は自由参加であるにも関わらず、ほとんどの部員が参加していた。
沙耶は登山は苦手だ。
登山は景色がよくていいと言う人はいるが、本当に景色が見えてるのは最初だけである。
ある程度以上疲れると景色を見る余裕がなくなってくるのだ。
しかも一人や二人で登るわけではなく、団体で登っているので、皆とペースを合わせなきゃいけない。
ここの部活は元々登山部と天体部が合併した部だ。
だから、半分は登山専門の方々なわけで。
明らかにペースが早かった。
「よし、5分経過したぞ。出発だ!」
鈴木部長が再び号令をかける。
「うわ〜〜、もう出発かよ・・・そんなに急がなくても山は逃げないぜ?」
雄二が汗を拭いながら言う。
雄二も銀河も愛花も登山は苦手らしい。
そんな中一人元気なのは・・・
「銀河様、早く行きましょう。何なら荷物お持ちしましょうか?」
銀河のお付きメイド、葵である。
いったいあの小さい体のどこにそんな体力があるんだろう・・・
「いや、いいよ。自分で持って登んなきゃ登山の意味がないから。」
そう言って銀河が立ち上がる。
大した信念だ。
「葵ちゃん、俺の持ってくれない?代わりに。」
という雄二の情けない提案を、
「なんで私が斉藤さんの荷物を持たなきゃいけないんですか?」
葵が容赦なく切り捨てた。
「うわ〜〜、何この対応の違い・・・」、とブツブツ言いながら立ち上がる雄二を見て、
「じゃあしょうがない、行きますか。」
愛花もお気に入りのスカートについた土を払いながら立ちあがった。
本日の愛花の服装は、白いシャツに白いスカートという極めて普通の格好だった。
最初、元山岳部部員たちに文句を言われるんじゃないかと思っていたが、大丈夫だったらしい。
ちなみに沙耶は普通の登山服・ズボンに麦わら帽子を被っただけの簡素な服装である。
文句言われないんだったら普通の服着てくれば良かったなぁ、と思う。
この登山服は昨日父親から拝借したもので、デザインがちょっと古いし男物なのだ。
これを皆に見せるのにあまり乗り気はしなかった。
「了解。」
最後に沙耶が立ち上がる。
こうして再び登山が始まった。
結局頂上に着いたのは、昼の3時くらいだった。
登山&天体観測が活動内容なので、夜9時までは特にやることはない。
というわけでとりあえず宿に入ってくつろぐことにした。
部屋は適当に決めた。
ちなみに女子が3人しかいないので、部屋が男女で別れることはなかった。
だから当然部屋のメンバーは愛花・沙耶・葵・銀河・雄二と、いつものメンバー+葵になった。
そして、夕飯までの間雄二が持ってきたトランプで時間をつぶした。
時間は刻々と過ぎていき、午後6時の鐘がなろうとしていた