火学部古典科二年生の少年の話。
何やら野次馬精神はよろしくないようです。
〈今回の登場人物〉
・帆波くん
…レーザーはできないそうです。
・砂原くん
…相変わらずゴーレム大好き。退場しました。
・清水くん
…一応彼も魔法生物科ではある。
・竜田くん
…魔法では細かな操作が得意らしい。最近新たな守備範囲を開拓した。
・ゴレム子2
…設定上は女性らしいが区別がつかない。ご主人様のために頑張る健気な子。
・先輩さん
…特にゴーレムに恨みがあるわけではない、決して。瞬間移動ができるのではという噂が最近立った。
「なぁ」
来月に控えた実力試験の勉強のため俺の寮室にて集まって勉強しているうちの一人、風学部の変態、竜田がふと顔を上げる。
「なんだ」
そいつの目の前に座る清水(一応友人)が迷惑そうに言った。
「外、うるさくねーか」
帆波は少し顔を歪め、空気の動きでも感じているのか、目を閉じた。
「気のせいだろう」
俺は嫌々と雨が降り竜の踊る外の見える窓を見つつそう言って、
「いやいやいや」
いやいやいやいや、何かがおかしい全てがおかしい。
「どうかしたのか?」
おおっと友人(仮)、窓を見る、固まる!
不動の変態動かない、びくともしない。違う、寝ている!何やってんの?!
この部屋にいる最後一人は
「いいよ、サイコーだよっ。ゴレム子2……!」
「お前はサイコ野郎だ、畜生」
試験勉強に息詰まったこともあり野次馬精神で寮の外に出てみた俺たちは今、非常に後悔していた。ちなみに現在位置は学校の敷地内の端、林みたいなところである。
「なんか狙われてねぇぇぇええっ?!」
「気のせい気のせいっ!」
「それには無理あるわー」
眺めていたらうっかり目があってしまいそのままロックオンからの追尾。笑えない。
というわけで全力疾走しているのだが……。
「ん、なんかあれ小さくなってないか」
ちらっと振り返ったらしい竜田がいう。それを聞いた清水は、流石は魔法生物科か、あの疑似風水竜らしき物体を考察しているようだ。
「たぶん、どっかの生徒が試験的に使い魔でも作ろうとして大成功しちゃったんじゃないか?だったらこのまま逃げきれば、生徒作成レベルの向こうはエネルギー切れでこちらの勝ちだ」
それを聞いた竜田は
「なら、エネルギー切れを狙うために攻撃してみたらどうだ」
と言う。
「よし、こういうときにこそ古典科が頑張るときだ」
と清水。
「ああそうだな」
竜田は俺の肩に手をぽんっと乗せる。
「今日雨なんですけど、雨なんですけど!」
火属性が専門の俺には無理です。
清水は人差し指をくるくる回し
「こう、運実の委員長みたいに雨にも負けずレーザービームを」
「無理無理あの人レベル違うから!」
あれね、簡単にレーザーとか言うけど違うから、光じゃないから!雨にも負けない炎の固まりだから!本当は訳わかんないけど!
結果は似てても過程は全く別物、ここテストに出るよ!
「ていうか、竜田も清水も体育大会の時ばんばん古典魔法使いまくってたじゃねーか!」
「「なんことやら」」
「貴様らぁぁぁああっ!」
こいつらマジで殴りたい。本気と書いてマジと読むくらいに殴りたい。
しかし未だに追跡されている身なので容易に他の行動には移れない。
どうしたもんだかと考えていると清水が
「ここは、もう平和な学校じゃない。すでに被害者がでている事件現場だぞ。ほらあれ見てみ」
と後ろを指さす。
つい振り返ると、いつの間にか消えていた砂原が疑似風水竜の口からちらっと見えていた。
「なんだ、砂原か」
「お前、反応薄いな」
だって簀巻きにされたことは未だに根に持ってるし。
そのときついにしばらく無言だった竜田が初歩的な風属性魔法を軽くぶつけた。もっと早くにやってほしかった。
しかし、
「……まるで効いてない」
わずかに動揺した声で竜田が言う。
そこに清水は次のように言った。
「これ下手すると魔法攻撃じゃ吸収される気がしてきた」
「ちょ」
こうしているうちにもどんどん距離が縮まっていく。
やばい、追いつかれるっ!
そう思ったときだった。
俺たちの横を風が駆け抜ける。
次の瞬間には疑似風水竜が吹き飛ばされていた。
呆然としながらそこをみると
「ゴレム子2、タダイマサンジョウシタ」
一体のゴーレムが雄々しく立っていた。
「ゴレム子ぉぉぉおお?!」
「ゴレム子2デス」
ごめんなさい、今までなめた口きいてすみませんでした。
ゴレム子2が吹き飛ばした方から物音が聞こえる。どうやらまだヤツは倒れていないようだ。
「追撃シマス」
「ゴレム子2頑張れー」
「応援してるぞー」
「なんかめっちゃ他力本頑だなー」
しかしあの砂原のゴーレムはすごい。相変わらず見た目はアレだが。
ゴレム子2さんがゆらりと体勢を整え、構える。
「ゴ主人ノカタキ、トラセテイイタダキマス」
僕生きてるからっ!という声がどこからかしたが気のせいだろう。
しかし、ゴレム子2果敢に突撃した瞬間、いきなり衝撃がこの場を襲った。
爆風のため思わず閉じてしまった目を開けるとそこはまるでえぐられているようだった。ついでに砂原は煙を上げて倒れていた。
そして延長線上には一人の女子生徒が立っており、
「えー、縮んだ疑似風水竜と焼きゴーレムはいらんかねー」
……と、いつの間にやらゴーレムが豚の丸焼きのごとくにつるされた木の棒を持っていたのであった。