水学部医学科三年生の少女の話。
何やら忙しそうな保険委員が頑張るけどもう無理なようです。
〈今回の登場人物〉
・清水さん
…紙飛行機や焚き火に再利用される学校新聞を読む真面目な子。スライム好きの弟がいるらしい。
・天野さん
…色々たいへんな子。今日も良い笑顔である。
昨日、男子禁制の場所に進入しようとして、あのガーゴイルに挑んだ生徒たちが四名ほどいた、と校内新聞に載っていました。
彼らは『ただ単に最高の性能と名高いガーゴイルに男として勝負を挑みたかっただけだ』と主張しているものの、前科持ちのため無罪放免とはならず、無駄な成績の良さから奉仕活動行きの処分が下されたらしいです。
残念な方々もいたものですね。
新聞には下手人の写真がモザイクありで掲載されています。
……約一名、どこかで見たことのあるようなスライム好きが混じっているようですが、
気のせいでしょう。
ところで来月に今年度の体育祭が迫っていることが主な原因で生徒の怪我が増えているようです。私は保険委員をやっていることや治癒が得意なこともあり、最近目に見えて忙しくなっています。
来月がハラハラ。もちろん悪い意味で。
さて、体育祭についてですががこれは、基本四つに分かれた学部同士で優勝を目指して争う、というもの。
優勝学部にはその学部だけ、一年間、食堂や購買部など校内の買い物が1割り引きされる特権が与えられます。
この1割引は生徒間での物品の売り買いにも含まれるため、実験などで材料費がかかる学生らは血なまこになって体育祭に参加してしまうのです。
そのためか競技の練習はエスカレートし、本番に至っては場外乱闘なんてざら。私も去年実際に見てしまいましたが、どう考えても古典科でない人たちの間に入り、本格的な古典魔法で攻撃しようとする輩がいるので体育祭実行委員や私たち保険委員は過労で倒れそうになります。
ちなみに争いの種となった何でも1割引制度を導入したのは校長らしいです。
去年私が入学したとき入学式で喧嘩が起こらないような落ち着きのある優秀な生徒の教育に全力を尽くしたいと言った言葉は嘘だったのでしょうか。
放課後、私が校長への不満や体育祭に関する重労働をつらつらと生徒会への要望書に書き殴っていると、体育祭の実行委員をしている風学部の友人が訪ねてきました。
友人に用件を聞くと、
「大変なの!競技の練習をしてた先輩たちがどっちからかはわかんないけど、いちゃもんの付け合い始めてそのまま喧嘩!さらにさらに野次馬も参加し始めてもう大乱闘なのよ!怪我人がでそうだから保険委員を召集しろって今委員長に言われて……」
で、とりあえず私を呼びにきたのこと。
なんだか外が騒がしいかな?と思っていたのですが気のせいではなかったようです。
それと一つ気になったこと。
「そういえば当の実行委員長はなにしてるの?」
友人は私の問いに
「乱闘止めに行ったよ」
と先ほどの焦った表情とは一変、惚れるような笑顔で答えてくれます。
「……あれ委員長って」
オカシーナー、委員長って火学部古典科在籍で相当なバトルジャンキーだった気がする。
「うん、その場にいる人成敗するから保険委員召集って朗らかに笑って言ってた。あっはっはー」
素直に怪我人増やしに行きましたって言えよ……
というか去年古典科じゃない生徒に攻撃魔法ぶちかましたのは委員長ですよね?!