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金曜日のライオン

大学入学と同時にできた彼氏と3年時の春に破局してしまったメグ。彼のいない世界にはもう生きる価値なんてないと思っていた。

だから、もう死ぬんだ。そう心に決めていたのだけども。


その時のメグは、生きることに疲れ果てていた。

もう死ぬのだから、最後にやりたいことをやろうと思った。せっかく女に生まれたのだから、誰かの腕の中で思い切り愛されたかった。愛されているかどうかっていうのは、結局のところメグにはわからない。そう思っていた割にはくたびれたおじさんとかそんなんじゃだめだった。かっこよくてやさしくて話を聞いてくれる人がよかった。そんな時、メグはなぜか運命の彼と出会った。

-今度、どこかで会いませんか? いつ頃なら会えるとかそういうのありますか?-  

 パソコンを立ち上げてみるとメールが来ていた。なんで彼からのメールにだけ返事したのか自分でもわからない。ただ、150人もの寂しさを抱えた男たちがネットの向こうにいたということだけだ。

 メグは予定の時刻より前に、ジーパンと、ちょっと女の子らしいブラウスを着て到着した。日差しは厳しく、メグは日陰を探した。ギリギリの時刻に軽自動車で現れた彼は、メグを助手席に乗せるとわざと遠回りをして自分のアパートに向かった。車の中でメグは自分の身の上話をしていた。メグは親と不仲で、大喧嘩をして一人暮らしを始めた。メグの決めたことは親が全部否定した。大学生になったメグはひとり暮らしを始めたが、連日受ける男子学生からのセクハラにひどく憔悴していた。

「君はそうやって追いつめられているみたいだけど、君が女の子だからそういう目に遭っているんだよ」

 と彼は説明した。女の子として魅力的だと言われているだけなのに何をそんなに傷ついているのか、と。  

 メグはどこにも居場所がなかった。あったかもしれなかった居場所も、自分で手放してしまった。まだ10代だったメグにとって、女の子として生きることは、単純につらかった。

 彼の部屋に到着すると彼は当たり前のようにメグのブラウスに手をかけた。一つ一つ丁寧にボタンを外していくとレースのブラジャーに包まれた小さな胸があらわになった。彼はメグのブラジャーを下にずらし、あらわになった乳首を唇で挟み込むようにキスをした。唇で刺激されるとメグの中の隠されていた本能があらわになっていくのがわかった。なぜかメグの目から涙がこぼれてきた。なんで愛してもいないこの彼に感じてしまうのかメグにはわからなかった。誰だって乳首を吸われたりすれば気持ちよくなるんだろう。そこに愛なんて必要ない。顔さえよれば誰だっていいのかと言われたら、そうだというしかなかった。だって、メグはもう死ぬつもりでいるんだもん。自分を大事にする必要なんて今更ないんだ。興奮した彼がメグの服を脱がしていくと、メグはパンツ一枚だけ履いた姿で泣き始めた。

「どうして泣くの」  

 そんなことわからなかった。わからなくてもよかった。理由など何もないのだ。メグは温かく優しい彼の身体にしがみつくと、自分の身体に彼の体温が移って来るのがわかった。彼は急いで自分の服を脱いで、メグのパンツを脱がそうとして手を止めた。

「ごめん、無理みたいだ。だって、君の人格みたいなものが見えてしまったから」  

彼は元気の出ない様子で言った。 「おかしいな、さっきまでちゃんとなってたのに」彼は少し考え込んでいた。 

「こんなこというものなんだけど」

 と彼が言った。「今度はいつ会える?」

「え?」

 メグはびっくりした。布団の中で出会ったばかりの彼と裸のままで抱き合っていると、さっきまで青白かったメグの身体はだんだん血色よくなっていった。男の人の気持ちはわからない。男なんてみんな、ただセックスがしたいだけだとメグは思っていた。

でも、女の子よりも男のほうが、もしかしたらよっぽど繊細なのかもしれないと思った。

メグには、彼の気持ちはわからなかった。


 あの日以来、メグは彼の仕事が休みの日に彼の家まで行って、ふたりでテレビを観たり、パスタをゆでたり、抱き合って眠った。そして毎回同じように、彼はメグの服を脱がすところまではいくが、セックスだけはうまくやれなかった。死ぬほど恥ずかしい思いをして買ってきたコンドームは一度も開封されないままになっていた。彼とメグの身体は結ばれることはなかった。それでも、メグは彼の家に行くと安心した。

 長い長い大学の夏休みのことだった。メグはバイトのない日はすべて彼と過ごしたいと考えるようになった。彼は平日は仕事だった。そして、お盆休みに入ったころ、メグは彼の家に数日間泊った。いつものようにキッチンで簡単な食事を作っていると、彼のメモ書きが棚の上に置いてあるのがわかった。女の子の名前と、会う場所。これが何を意味しているのか、メグにはすぐに分かった。ふーん、そういうことか。メグはもう、こんなことも悲しいとは思わなかった。愛なんてなくていいと思っていたのは、メグも同じだったから。結局、大学3年生の夏休み中彼と会っていて、いちどもセックスはしなかった。メグはいったいいつまで自分は処女なんだろうと思った。と同時に、不思議と死にたいという気持ちが薄れてきている自分にひどく驚いてもいた。



それは大学二年生の時も同じだった。一年生の頃からずっと好きだった先輩に、「セックスしたい」と言われた。告白もまだなのになんでそんなことを言うのだろうと思った。「付き合おう」ではなく、「セックスしたい」だった。どうしてあんなに愛していたのに、セックスが怖かったんだろう。

言われた瞬間、メグは怖くなって泣いた。そして「さよなら」と告げた。


 もし出会ったのが彼ではなく『別の誰か』だったら、もしかしたらメグはもうこの世には存在しなかったかもしれない。彼は、メグとセックスすることはあきらめたようだった。この夏休みに彼はメグの服を合計3回脱がせた。そして1回目と2回目はメグのからだ中にまるで雨のようにキスをした。しかし3回目はキスは唇だけになっていた。とても手慣れた様子で彼はメグにキスをした。とても温かく気持ちの良いキスだった。4回目、メグの服を彼が脱がすことはなかった。きっとプライドが傷ついたんだろう。彼は電話の向こうにいる別の誰かとセックスをしているみたいだった。それもいろんな女とだ。メグには、彼が何を考えているのかわからなかった。もしメグが自分の心を彼に見せることをしなければ、メグも今頃、彼の腕の中で声をあげていたことだろう。

 

「ありがとう」


なんでお礼を言うのかよくわからなかったが、メグは彼の部屋のダイニングテーブルにメモ書きを残して、彼の知らない間に部屋を抜け出し、そして2度と彼と会うことはなかった。


メグは死ぬのをやめた。

 

この作品に出てくる彼は、いい人でもなんでもない。ただの顔がいいだけのその辺にいくらでも落ちているようなくだらない男だ。なのにメグはその彼に居場所をもらっている。そしてそれがメグの命をこの世につなぎとめている。恋ってそんなにみんなが思っていたほど難しくもないし、逆に期待するほどすばらしくもないっていう話。

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