もしも、生まれ変われるならば
血に濡れた王城を、ルイスは歩く。
途中、ルイスを見つけた兵士が立ち向かうも、指一本触れることもなく倒れる。
鉄の匂いが充満した。
ルイスが目指すのは玉座の間だ。
恐らく、そこにはとある人物が待ち構えているのだろうと確信しながら__。
「__ここから先は行かせない」
(あぁ、やっぱり__)
想定通りの展開にため息をつく。
「やぁ、レオ。今晩は新月だから星がよく見えて綺麗だよ」
いつものように、愛称で呼びかける。
「⋯⋯戦火のせいでよく見えん」
窓の外を見る。
レオンハルトのいう通り、よく見えていたと思った星空は燃え盛る炎にかき消されていた。
「⋯⋯途中、私の部下がいたと思うのだが」
「あぁ、彼らの相手は僕の部下がしているよ」
「そうか⋯⋯」
硬い表情に少しの安堵が混じったのをルイスは見逃さなかった。
「騎士団長ともなると、可愛い部下の心配を出来なくて大変だね」
「いや、そんな心配はしていない。あの二人は強いからな。簡単には負けん」
レオンハルトは不敵に笑って見せる。
「お前は部下の心配をしなくていいのか?魔道士団の団長よ」
「心優しい騎士様は敵の部下の心配もしてくれるのかな?嬉しいね。お生憎様、彼らは僕が気にしなくても平気さ」
遠くから、鬨の声がかすかに聞こえてくる。
「⋯⋯無駄口を叩くのも、ここまでにしよう」
レオンハルトは腰に帯びた剣を抜く。
「君とは仲良くなれそうだと思っていたのに⋯⋯残念だ」
レオンハルトは言葉を紡ごうと口を開くも、一度閉じる。
数瞬、間を置いたあと、言葉を選びながら話す。
「⋯⋯同盟が解消されたからな。もともと、私の国と貴殿の国では折り合いが悪かったのだから、遅かれ早かれ戦争になっていただろう」
元来感情表現の豊かな彼の胸中を想像し、胸が締め付けられる。
「__君さえ良ければ、こちらに寝返らないかい?僕が後ろ盾になってあげるし、君みたいな人材は歓迎だから、不可能ではないと思うのだけど?」
ルイスの提案に目を瞬かせる。
「__それができたら、どんなに楽か⋯⋯」
場違いにも、ふっ、と口元を緩ませる。
「オレは、この国に大切な、守りたいものがたくさんあるんだ⋯⋯」
目を閉じる。
次の瞬間には、迷いの消えた瞳がルイスを捉える。
「だから、すまない」
「そうかい⋯⋯」
想定のうちの返答だった。
「こんな形で君と敵対することになるなんてね⋯⋯」
二人の間の緊張が高まる。
臨戦態勢に入る。
友になれなかった敵国の騎士を見据える。
「__もしも、来世があるのなら、生まれ変われるならば、その時は友達になりたいね」
「__同感だ」
戦いの火蓋が切られた。
レオははっと目を覚ます。
寝汗がひどい。
閉め忘れたカーテンから真っ暗な夜空が見えた。
「__夢⋯⋯?」
妙に生々しい夢だった。
結末もバッドエンドで、後味が悪い。
どうせ見るならばハッピーエンドが良かったのに。
「はぁ⋯⋯」
二度寝する気にもなれず、寝返りを打つ。
シーツの冷たい感触が今は心地よかった。
ふいに、枕元に置かれたスマホが着信音を奏でる。
(こんな時間に⋯⋯?)
不審に思いながらも手を伸ばす。
ルイスからだった。
夢の中の魔道士を連想した。
すぐに応答し、冷たい画面を耳に押し付ける。
「もしもし?」
『__レオ?』
消え入りそうな声にただ事ではないと直感する。
『こんな時間にごめんね』
「大丈夫だ、さっき夢見が悪くて目が覚めてしまってな⋯⋯」
『レオもかい?』
「もしかして、ルイスもなのか?」
『うん⋯⋯。夢に、レオが出てきて⋯⋯僕達は戦うんだ』
「__!」
レオは息を飲む。
「ルイス、オレも同じ夢を見たんだ」
『えっ?』
「ルイスと、敵対していて、大切なものを守るために感情を殺して⋯⋯もしかしたら、どこかであり得たかもしれないオレたちの話だったのかもな⋯⋯」
沈黙が続く。
レオはベッドを降り、窓際へ移動した。
シャッ、とカーテンを開く。
冷気が頬を撫でる。
「ルイス、空を見てみろ。今晩は新月だから星がよく見えて綺麗だぞ」
『⋯⋯本当だ。オリオン座が見えるね』
「へぇ、凄いな、オレには見分けがつかない⋯⋯あれだろうか⋯⋯?」
電話越しに夜空を共有し、心のささくれを舐め合う。
こうして夜は更けていった。




