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第3話 最西端

その英雄は 孤独であった

誰からも語られることなく影に潜んだ

しかし、確実なのは「誰か」の残滓が

体の深層で芽吹いていたことであった。


『夏風の伝承』吟遊詩人より



森を抜けるとそこは森であった!


ひどく薄暗く、四方八方から魔物の呻き声が聞こえる魔境である。


一度、足を踏み入れたら最後、抜け出すのには苦労する。


ここで手に入れた貴重なものを最西端ウェスタリアまで運び、売り捌き、金を稼ぐのが、冒険者の定石だ。


さて今晩も、あの勇ましい冒険者に酒でも奢ってもらうとしよう・・・


『五大陸周遊記』作者レブン・ファドラーン より



僕が母と別れ生家を旅立って、二週間ほどが経過しただろう。


ここはウェステ大陸の西の果て。


失われた森と呼ばれる森である。


鬱蒼とどこまでも続く生い茂った森と貴重な生態系が有名な場所だ。


ここで得たものは近くの街で高く買い取ってくれるらしいので、冒険者にとって人気のスポットだ、と家の書斎で読んだことがある。


尤も、僕のいるであろうこの中間部は誰も人は入ってこない。


森の入り口辺りでないと本格的に遭難するからである。


失われた森というネーミング自体のオリジンは定かではない。


しかし、一説によれば「人命が多く遭難で失われた」ことが由来だとか。


それほど過酷な環境らしい。


僕にとっては生まれも育ちもこの森のため、特段迷いやすいとか、そんなことは一切ない。


魔物は多いため、厄介ではあるが、森というのは落ち着く。


心理的にせせらぎのようなものを感じる。


しかし、こんな魔物だらけのところによくレヴァリアは家を構えたものだ。


彼女はこちらに住むようになったのは、僕が生まれてからだ、というが正直すごい。


僕は慣れてしまっているが、危険だらけの森である。


そこを最新部まで行って、家を建てて10年以上暮らしてるとなると驚いてしまう。


まあ彼女は世界五大英雄の一人であるから無理はないが。


五大陸五大英雄とは、かつての神との戦役で人間・魔族連合軍として、世界を救った際の五人の英雄のことである。


それを強い順番で並べると、緋眼・青眼・遵守・緑狼・翠嵐である。


つまりレヴァリアは英雄の中で最も強い人物だったのだ。


彼女は、よく他の英雄たちの話をしていた。誰がどうだとか、そんな他愛もない話。


だけど、話をしている彼女は何だか楽しそうだった。


まぁ強さに関しては納得がいく。


今思えば獄級の剣術使いなんて有り得ないほど強い。


少なくとも僕が閲覧した本にはそう書いてあった。


実戦で剣をかわしていた僕なら尚更理解できる。


この世の中の魔術・剣術のランクは大きく分けて九つある。


強い順に極、神、獄、帝、王、聖、上、中、初である。


極や神は存在が確認されないらしく、人類史上観測されているのは獄が最大値らしい。


僕が使えるのは魔術は王級と蒼流の帝級までである。


レヴァリアは生前、僕の事を凄いと褒めてくれた。


だが、自分より三ランクも上の人に褒められても恐れ多いだけである。


とはいえ、まだ16歳で帝級まで使えるのならば良いかと考えている。


ポジティブに生きていこう。


そんな瑣末な事を考えていたら魔物が顔を出した。


「ガルルル…」


あぁ。アイツは…王狼(キングウルフ)


S級の魔物だ。


ヤツは近接での攻撃力が高く、かといって魔術耐性も持っている為、割と手強い敵ではある。


しかしどれ程魔術耐性を持っているのかは気になる。


やはり実戦での経験は強い。机上の空論ではダメだ。


「【影王級魔術・影衝撃】」


僕がそう唱えた瞬間、右手に宿る禍々しい影が轟音を立てながら段々と巨大化していき、2,3mほどになる。


それを王狼キングウルフに向けて圧縮し、高速で発射する。


「ガゥ!ガァァァ!」


圧縮された禍々しい影の塊は直撃したものの、寸前で魔法陣のようなもので防がれ、大ダメージとはいかなかった。


しかしながら傷は被っており、流石のSランクの魔物の耐性であっても王級魔術は防ぎきれない…ということがよく分かった。


「じゃあこれなら!【蒼帝剣技・六連星斬】!」


剣で魔物を六芒星のような剣筋で切り刻む。


魔物は断末魔をあげながら地面に倒れ込む。


そのようにして、魔物の討伐などをしていると、森の木々の密度が薄まってきた。


つまり、今は森の中心部から、入り口に近い方に来たのだという大方の予想ができた。


さて、道中で多くの魔物を倒したことで、自分がレヴァリアから鍛えてもらった手ごたえが実感される。



「おや・・街が見えてきたな」


遠目に白く聳える城壁が視認できた。


かなり遠いが、それなりに大きいので、はっきりとわかる。油断せずに歩みを進めていきたい。


さて、数日経ってかなり目的地に近づいてきた。


最西端(ウェスタリア)という都市の城壁が目の前に広がる。


失われた森から最も近い都市。かつ、ロイヒル帝国でも指折りの都市。


白く高いそれは天まで届いている様相で、城壁の古傷からかつての戦争の残り香を憶える。


城壁の門は常に開かれていて、門番が両端に二人ほど待機している。


どうも。という感じの会釈を交わしつつ、城門の中に進んでいく。


その白壁をくぐり抜けると、眼下には圧巻の城下町が広がる。


僕の愛読書には、「寂れた街」なんて書かれていたけど、僕にはそうは映らなかった。


いや、僕が田舎者すぎて補正がかかっているのかもしれないが。


僕は真っ先に冒険者ギルドへ向かった。


冒険者ギルドとは、世界中で浸透しているシステムで、冒険者となって依頼を受注したり、依頼主として依頼したりすることもできる。


当然世界で公認のようなものなので、配布されるギルドカードは強力な身分証になる。


僕は街に生まれた訳でも、村に生まれたわけでもない。


戸籍登録の機会はなかった。


その為、身分証があったほうが今後動きやすい。


冒険者として活動するかそうかは知らないが、ここで作った人脈は今後活きるかもしれない。


デメリットが無い。


その為真っ先に向かっている。


賑わう市場の通りをぬけて、街の中心部のような広場に出る。


そこにはロイヒル語で冒険者ギルドと書かれている。


僕はレヴァリアの英才教育を受けていた。


失われる森や最西端(ウェスタリア)があるロイヒル帝国の言語であるロイヒル語はもちろん、彼女の故郷のケイヒル教国のケイヒル語はかなり流暢に喋ることができる。


幼少期からトレーニングしていたので、不思議ではない。


彼女には言語も大事だからな!としつこく言われて勉強させられたものだ。


「入るか・・・・」


そう思い、木製の扉を開ける。


中は昼間だというのにどんちゃん騒ぎの様相を呈しており、体格の良さそうな男どもが集って酒盛りしている。


僕はそんな光景を眺めながら、ギルドの受付嬢の元へいく。


「こんにちは!受注ですか?依頼ですか?」


百点満点の営業スマイルで接客される。


「どちらでもないんです。ギルドカードを発行したくて」


「新規の方ですか!?冒険者としての概要などや注意点をお話しさせていただいた上で、ギルドカードの作成、冒険者として登録という流れですが、宜しいですか?」


「お願いします」


そうすると彼女は資料を出しながら懇切丁寧に説明してくれた。


冒険者とは命が伴うものであるということ、揉め事を起こした場合は喧嘩両成敗で処罰が下ること、などの注意事項を話された。


どうしても収拾がつかない場合は闘技場を使用して欲しいとのこと。


闘技場は隣の酒場の更に奥に行ったところにある。


つまりギルド内での乱闘騒ぎは処罰だが、闘技場ではOKとのことだろう。


「注意事項はこんなところですね。門戸が広い分、どうしても争いや諍いは耐えないんです」


「その為、ルールが若干厳しいのですがご留意ください。ではランクについて説明させていただきますね!」


彼女はルールについての説明を終えて会釈した後、笑顔で冒険者ランクについて話し始めた。


どうやらX・S・A・B・C・D・E・Fの八段階で、最初期のスタートはEらしい。


Fは問題を起こしたり、一定期間活動がないと落とされたりしてしまうランクらしく、訳ありだ。


Bもあれば、基本的に複数人ならSランク魔物の討伐体にも参加することができるらしく、多くの人はBの維持をするとのこと。


なるほど、僕もとりあえずは暇だし、Bまで目指してみるか。


Xは世界でも数えられるほどしかおらず、伝説級らしい。


ちなみに冒険者ギルドを新設できるのはXランクに到達したものだけらしい。


それで冒険者ギルドの乱立を防ぎ、身分証としての信頼や運営の安定化を図っているらしい。


SやAもかなり冒険者として活動しなければならない。


Aになるのには約10年かかるらしい。Sは才能がないとなれないということだ。


当面の目標として、情報収集がてらBランクまで進めることにした。


自分の名前と年齢を書いて、ギルドカードを発行してもらった。


カードを受け取り、受付嬢のお姉さんに手を振られ、ギルドから出る。


これで身分証の確保はできた。住所は書かなくていいのかと思ったけど、街は殺人事件なども多く、住所を明記してしまうとトラブルの元になるので記載しないのが主流らしい。


まあ住所を持たない遊牧民もいるし、妥当か。


てなわけで、自分はギルドを一旦出て、図書館に来た。


情報収集のためである。


本はやはり貴重で高価だ。一々手書きなため、生産コストは当然のように高い。


当然ではあるがとても何冊も買えない。だから図書館が貴重な情報源だ。


この世界のことは本を見て情報を得ている。


ふとあるものが目にとまる。『ロイヒル情報局紙』という新聞だ。


どうやら定期的に発行しているらしく、幸いその図書館には約50部近くのバックナンバーもあった。


なんか面白そうだ。


そうおもって、ページを捲る。それを夢中になって読んでいたら日が暮れてしまった。


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