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一翼のハイマヴィス  作者: かる
芸術祭
26/33

⑫初仕事

 「あーらら、犯人逃しちゃったの」

 ヤクたちの報告を聞いたアキュレイトは残念そうに言った。

「ごめん……せっかく協力してもらったのに……」

「うん? いーよいーよ謝んなくて。俺あんま関係ないし、楽しかったし」

「え?」

「あんな歌い方したの初めてだったからね」

「そりゃ、あなたは記憶覗き放題で楽しかったでしょうね」

 横から入り込んできたシキの嫌味にアキュレイトはふふっと軽く笑った。

「これは失礼、君は死にかけたんだものね? シキ君」

 セナの治癒の特能は目を見張るほどの威力で、瀕死の重傷を負ったシキも今では以前と変わらずに動き回ることができた。

「しかしあの子、彫刻の腕は見どころがあったんだけどなぁ……まあボマーだからこそ生まれた逸材か……」

 未練たらしそうにぶつぶつ呟くメレシアスの横で、カラカラがさぁっと青ざめた。

「そ、そういえば……名無しの彫刻に爆弾が入ってたんですよね……? ぼ、僕がちゃんと確認していれば……」

「気にしないでよカラカラさ……先輩。結局、メレシアスさんのおかげで僕たちは無事だったんだし」

「え?」

 ヤクのフォローにカラカラはきょとんとした。

「いや……そうじゃなくて……どうしよう、僕が任された仕事だったのに……ムレイスに怒られる……」

「相変わらずだねぇカラさん」

 頭を抱えてうずくまるカラカラを見下ろして、アキュレイトは苦笑した。

「じゃ、僕はそろそろお暇しようかな」

「俺も。またねみんな、カラさん」

 メレシアスとアキュレイトは玄関の方へ足を向けた。とそこで、アキュレイトがふと振り向いてヤクを手招きした。

「え? 僕?」

「そう僕」

 あの作戦会議の時と同じようにちょいちょいと手を振られて駆け寄ると、アキュレイトは声を顰めて言った。

「君って、本当にこの国の人なの?」

「……え?」

「コンサートホールの南口付近にいたのって君だろ? 歌は聴こえていたよね?」

「? うん」

「それなのに君の記憶だけ覗けなかった……ってことは俺が歌った曲をどれも知らなかったんだろ? 有名なのを選んだつもりだったんだけどなぁ……」

「え? 全部知ってる曲だったけど……」

(そういえば前にも他の人の特能が僕には効かなかったっけ……)

 アキュレイトは腕組みして首を傾げた。

「そうなの? じゃあ勘違いかなぁ……でもそれじゃ、君はこの国の人なんだね?」

「うん。なんでそんなこと聞くの?」

「いや別に……ちょっと気になっただけだけど……」

 口籠るアキュレイトにヤクはふと思い出したことを口にした。

「そういえばアキュレイトさん、前に自分が楽しいからお客さんの記憶を覗いてるって言ってたけど……あれって嘘だよね?」

「え?」

 アキュレイトは困ったように笑って前髪を掻き上げた。

「参ったな、バレてたか……よくわかったね?」

「だってアキュレイトさん……全然、楽しそうじゃなかったよ」

 シキにあの説明をしていたアキュレイトの横顔を思い出して、ヤクは顔を曇らせた。アキュレイトは目を見開いてそんなヤクをじっと見つめていたが、しばらくしてため息をひとつついた。

「ふふ……なるほどね。そうだよヤク君、俺は別に楽しいから人の記憶を覗いてるわけじゃない」

「なら、どうして……」

 アキュレイトは目を細めて微笑むと、すっと前を見やった。あの時と同じ横顔で。

「人を探してるんだ。俺の、大事な人を__」



◯◯◯

 


 「ルーヴィン。初仕事で張り切っちゃうのはわかるけど、命令違反は良くないなぁ」

 フードの男はそう言ってコートを脱いだ。町人風の簡素な服の上でカールした白い髪が揺れる。

「うるさいですよ、アスサ……。僕の仕事なんだ、口出ししないでください」

 侵入者ことルーヴィンはそう言って唇を尖らせた。身を包んでいた煌びやかなドレスや茶髪の鬘が取り払われた今、そこにいるのは黒い服に身を包んだ銀髪の少年だった。

「僕の仕事ぉ? ははっこりゃ傑作だ、なぁミグ?」

 ミグと呼ばれたもう一人のフードの男は邪魔そうにコートを脱ぎ捨てて、ああ、と気の抜けた返事をした。こちらはアスサとは対照的に、黒々とした髪が褐色に近い肌に被さっていた。相方の生返事には慣れっこなのか、アスサは気にせずルーヴィンに向き直る。

「君、自分がしたことわかってる? そもそも今回の目的はテロじゃない、あの学園の地下を調べることだ。あそこの校舎のどちらかの端っこに地下通路に繋がる場所があるらしいとわかったから、リーダーは君に両端の__あの第一会場とコンサートホールを爆破するよう命じたんだ。有象無象の貴族たちを殺すためじゃあない」

「どうせ死ぬんだからいいでしょう」

「そう、どうせ死ぬ……俺たちの目的が達成されればね。だからこそ今回の君の行動はこだわりすぎとしか言いようがない」

 アスサは芝居がかった仕草で髪を掻き上げると、高飛車に問いかけた。

「なぜ二回もコンサートホールへ行った? 入場の直後に入って爆弾を仕掛ける手筈だっただろう?」

「…………」

「どうせ第一会場の爆発を見て、支給された爆弾の威力が足りないとでも思ったんだろ? コンサートホールは第一会場なんかより収容人数が多い……爆弾を追加で仕掛けて、全員殺すつもりだったな? おまけにあいつらとの接触のリスクを冒してまで学園長の息子に爆弾を仕掛けたようだけど……残念ながらアルトニヤお付きの治癒特能者のせいで今頃全快だろうさ」

 なおも黙りこくるルーヴィンを一瞥して、アスサは相方を手招きした。

「俺たちが助けに入らなきゃ、君あのアルトニヤに真っ二つにされてたってこと、おわかり? 今度身勝手な行動をしたら君に火薬を詰めて飛ばしてあげるよ」

 靴音を高く響かせて、アスサは去って行った。相方も黙って後を追う。ルーヴィンは2人の上官の後ろ姿を睨みつけて舌打ちした。

(今に見ていろ。キサマらもあの学園の奴らも全員殺して、そして…………)

 懐から笛を取り出すと、そっと唇を当てた。木造りのそれは体温を持つかのように温かい。

(それにしても学園の奴ら、なぜ僕だと……なぜ僕の居場所がわかった……? )

 日の落ちた路地裏の先をじっと見つめる。風はだいぶ冷たくなっていた。鼠だろうか、不意にカサリと小さな物音がした。ルーヴィンは笛を懐へ戻すと、裾についた埃を払いながら立ち上がった。

「まあいいさ。次に会ったときがキサマらの最期だ、舌足らずの邪教徒共……!」

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