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一翼のハイマヴィス  作者: かる
芸術祭
19/27

⑤道案内は音痴ゆえ

 「しっ、静かに」

 突然シキが人差し指を口の前に立てた。皆思わず静止する。緊迫した空気の中で、カツーン……と微かな音がこだました。カツーン……カツーン……と、それはまた繰り返され、だんだんと大きくなっていく。

「誰か来るね……」

 ヤクが小声で囁くと、シキは黙って頷いた。どうやらこの上__先程の爆発の被害を免れた廊下のあたりを誰かが歩いているらしい。

「よかった! 助けてもらお……むぐ」

「声を出すな、様子を見るんだ」

「む、むんめ?」

 口を塞がれたヤクがもごもごと問う。

「爆発の起きた場所にわざわざやって来るなんておかしいだろ。救助目的なら複数人で来るはずだし、誰かを探しているのなら呼びかけがあるはずだ」

「え、じゃあ今来た人って、もしかしたらこの爆発の犯人かもってこと?」

「犯人だと⁉︎」

「しッ」

 セナとハツがにわかに声を上げたのでシキは二人をキッと睨みつけた。

「だ、誰かいるの?」

 案の定と言うべきか、降ってきた声にヤクは背筋がヒヤリとした。シキが目線で沈黙を促す。ヤクたちは緊張した面持ちで頷いた。

「い、いや、誰もいないよねこんなとこ……気のせい、か……どうしよう……ここ、どこだよぉ……」

 四人は怪訝そうに首を傾げた。犯人にしてはあまりに情けないセリフだ。それにこの頼りない声には聞き覚えがある。と、メレシアスが半ば呆れたように上へ呼びかけた。

「カラカラ。きみ、ここで何してるんだい?」

 怯えたような声が返ってくる。

「え、え⁉︎ なんで僕の名前⁉︎ 誰かいるの!? どこ、どこから……」

「こっちだよこっち、きみが二度にわたって案内してくれた第一会場の下だ」

「第一会場……あ……ここが……ひぇ、なんだこれ⁉︎」

 少しして、上からひょこっと人影がのぞいた。

「……あ! メレエさん! と、えっと、えー皆さん! どうしたんですか!?」

「……」

 救助があればと願いはした。だがお前かよ。とシキは思った。


 「カラカラさん、ありがとう! もうどうなるかと思ったよ……それに、えっと……」

「ムレイスだ。カラカラの方向音痴が役立つことがあるとはね」

「ムレイスさん、ありがとう!」

 ヤクたちを発見したカラカラは思いがけず適切な判断をした。すなわち、自分以外の誰かに助けてもらおう、と。そこで彼はルームメイトのムレイスを連れてきたのである。この学園祭の係員であるというムレイスは、準備用の梯子を拝借してきて五人を救出してくれた。

「時間がかかってすまなかったね。本当はもっと人を連れて来たかったんだけど、人手がなくて」

「ううん、あっという間だったよ! それに爆発が起こった後じゃ片付けが大変だもんね」

 ヤクの言葉にムレイスはちょっと驚いた顔をして、それから歯切れ悪そうに言った。

「いや……駆り出されてるのは爆発の片づけじゃなくて……この後のコンサートの準備さ」

「え?」

「何言ってんだ、爆発が起きたんだぞ?コンサートなんてやってる場合かよ」

「なるほどな。やっぱりそういう方向にしたのか」

 混乱するヤクとハツの横でシキが苦々しそうに呟いた。

「どういうこと? シキくん」

「この国のお偉方の来るような国王直下の学園で爆発が起きたなんて不祥事にも程があるだろ。だから、これは裏方で片付けて表向きはなかったことにする……例年通り、芸術祭は無事終了したと」

「な、なんだよそれ!」

 ハツは憤慨して叫んだ。

「そういうものさ。この芸術祭の目的は芸術鑑賞でも人脈強化でもない。権威を示すことだ。だからスキャンダルを隠すためならなんでもやる。客だってそれをわかってるから、今頃口止め料をいかに高くふんだくるか計算中だろうさ」

「……なんで? ……だって、怪我した人も……きっと、死んじゃった人も、いる、のに……」

 爆発直後の光景が今になって蘇ってきて、ヤクは顔を歪めた。

「……だから、そういうものなんだ。入学式の時の爆発事件にしたって、あれだけ大勢の前でホールが壊れたのに見事に隠蔽されたんだからな」

「君の言う通りだよ。コンサートホールはここと正反対の場所に位置している。カラカラのように爆発を知らなかった人だって多いだろう。だから学園は、予定通りコンサートを開催することに決めたんだ」

 ムレイスが補足する。そこではっとヤクは顔を上げた。

「そうだ! ムレイスさん、それでもコンサートはやっちゃダメだよ、だって爆発が……」

「え?」

「落ち着けヤク」

 シキは手短に自分の推測を話した。ムレイスは少し考え込んでから、なるほど、と呟いた。

「コンサートホールも爆発か……確かに、校舎の片側だけ爆破というのも奇妙な話だ。そうだな……コンサートを取りやめるなら僕に考えがある。ついて来てくれ」

 言うなりムレイスは走り出した。慌ててヤクたちも後を追う。

「やれやれ、慌ただしいねぇ……」

 どたどたと去っていく六人を見送って、メレシアスは肩をすくめた。

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