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一翼のハイマヴィス  作者: かる
芸術祭
18/28

④再演

「いっ……たぁ……」

 腰をさすりながら涙目で上を見ると、分厚い氷像越しにぽっかり空いた穴が見えた。どうやら天井は崩壊しきったらしく、板の軋む音も止んであたりは静寂に包まれていた。

「なんとか助かったようだな」

 シキがほっと息をつく。

「でもよかったんですか? 大事な作品なんじゃ……」

 セナが尋ねると、メレシアスは軽く笑った。

「大事? そりゃあね、君たちみたいな芸術と程遠い人間の隣に埋葬されるには勿体無いけど、新しいコを国に残してきたこの僕が命を張るにも勿体無い駄作だよ」

「だ、駄作……?」

「本当に大事なコを、こんなお粗末な展示場で大衆の見せ物になんてするわけないじゃないか」

 王都に位置するこの王国一の学園に対して、平然とそう言ってのけるメレシアスにセナは不満を通り越して尊敬すら感じた。シキはムッとしたようだったが口を挟むことはなく、代わりに現実問題を切り出した。

「いいか、ここから出ることができなければ完全に助かったとは言えない。どうにかして出る方法を考えないと」

「そういえば……ここってどこなんだろ」

 ヤクは辺りをぐるりと見渡してみた。埃っぽく薄暗いここには窓一つもなく、扉も見当たらない。

「あの会場の下……つまり地下だな」

「この学園に地下なんてあったか?」

 氷像を壁に立てかけていたハツが眉を顰める。

「少なくとも地図上はない。だが、一階がやや高めに作られているとはいえ、この空間は高さがありすぎる。意図的に作られた地下室のようだが……」

「でもここ、何もないよ? 扉もないなんて……何のために作ったんだろ?」

 セナが首を傾げる。

「さぁな。ただ今はここから出る方法を考えないと」

「そうは言っても出口ったって穴空いた天井ぐらいなもんだし、出るに出れないぜ? 大人しく助けが来るのを待ってるしかねぇと思うぞ」

「そんな悠長なこと言ってられるか!」

 シキがイライラしてそう叫んだので、ヤクたちはびっくりしてしまった。

「シキくん、なんか焦ってない? どうしたの?」

「お前たちこそなぜ……!」

 そこでシキは一息つくと、いくらか落ち着きを取り戻して再び口を開いた。

「この爆発は事故じゃない。それに多分、これで終わりじゃない」

「……どういうこと?」

「そもそもあの部屋に爆発するようなものなんて置いてなかっただろ。氷像を保護するために明かりは極力抑えてあったし、部屋は寒いくらいだった」

「そういえばそうだったね」

「それに、学園外の人間が入場できるこの日に起こった爆発を事故と考える方が無理がある」

「そりゃ確かに偶然にしてはできすぎだけどよ、まだ終わりじゃないってのはなんでだよ?」

 ハツの問いに、シキはポケットから糸くずのようなものを取り出した。

「これを見てみろ。ヤクがさっき、あの部屋の中央付近で見つけたものだ。弦のようなものだろう」

「弦? なんでそんなものが?」

 恐らく、と前置きしてシキは意味ありげに人差し指を立ててみせた。

「あの爆発を起こした爆弾は特定の音に反応するように作られていたんだ。この弦は爆弾の一部であり始動部分……爆弾起動のきっかけとして、弦の振動が利用されたんだろう」

「糸くず一本でそれは言い過ぎじゃね?」

「確かにこれは想像の域を出ない。だが思い出してみろ、爆発の直前に日常生活では到底聞かないような音があっただろ?」

 ヤクははっとして顔を上げた。

「そっか! メレシアスさんが氷を砕いた時の音だ!」

「それなら、爆発がいつ頃起こるかも大体予想できるね。仕掛けた犯人も安心だね」

 セナも同意する。

「つまり実質、時限式爆弾ってワケだな」

「まあ論より証拠。メレシアスさん、お願いがあるんですが」

 成り行きを見守っていたメレシアスはひらひらと手を振った。

「いいよ、実演ってことね。ショーの続きとするか」

 袂からショーの時と同じ道具を取り出して、彼はいつでもいいというように目で促した。

「じゃあヤク、この弦の両端を持っていてくれ。弛まないようしっかりな」

「わかった!」

 ヤクが弦を持って立つと、シキはすぐそばでパチンと指を鳴らした。だが、弦はぴくりともしない。

「次にハツ、大声で叫んでくれ」

「はぁ? なんでオレが」

「いいから早く」

 ハツがすぐそばで奇声を発したのでヤクは目を白黒させた。しかし弦は動かない。

「最後に、メレシアスさん」

 カーン…と、あの透き通った甲高い音がこだまする。すると、

「……!」

 弦が弾かれたように勢いよく揺れ動いた。やがて振れ幅が小さくなり、あたりに静寂が戻る頃には完全に一直線の糸となっていた。

「決まりだな」

「すごい、本当にこの音だけ……こんなことができるなんて……」

「そういう特能なんだろう。この弦自体に作用しているから、特能者から離れても作動するんだ。さっき落ちてきた時も、氷像に瓦礫が当たった音にこいつが反応していた。どんな能力も使いようだな」

 それで、と口を挟む。

「これのどこが爆発がまだ続くって話に繋がるんだよ?」

「なんだ、まだわからないのか」

 シキはくるりとハツの方に向き直ると、再び人差し指を立てて説明を始めた。

「爆発の起きた第一会場はこの学園の端で、爆弾の威力は部屋一つ吹き飛ばした程度……これだけのためにわざわざ危険を犯して学園に侵入するとは考えにくい。それに音といえばぴったりのイベントがまだあるだろう」

 ここ幾晩かで読み込んだイベント一覧の表を思い出して、ヤクはあっと声を上げた。

「アキュレイトさんのコンサートだ!」

「そういうことだ。スケジュールでは氷像のショーの後に予定されているはずだ」

「じゃあこのままコンサートが行われれば、また爆発が……?」

「ああ。そうなる前にここを出てやめさせるんだ」

 ハツはため息混じりに穴の空いた天井を見つめた。

「でもどうやったって出れねぇぞこれ……」

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