第9章 自覚なき才能
翌朝。
エナは、
早く目を覚ました。
宿の天井を見つめる。
胸の奥が、
そわそわしていた。
昨日の言葉が、
頭から離れない。
――優秀な補助魔法使い。
そんなはず、
ない。
でも。
ミレイアの目は、
本気だった。
エナは、
布団から起き上がる。
杖を手に取る。
部屋の中。
誰もいない。
小さく、
唱える。
「軽量化」
何も、
変わらない。
見た目は。
「持続回復」
「集中補助」
淡い光が、
すぐ消える。
本当に、
意味があるのか。
エナは、
自分に問う。
――ある。
昨日、
皆が言った。
エナは、
目を閉じる。
ゆっくり、
呼吸する。
魔力の流れを、
感じ取ろうとする。
今まで、
考えたこともなかった。
なんとなく、
使っていただけ。
胸の奥に、
小さな温かさ。
それが、
魔力だと
気づく。
「……ここから、
出てる」
不思議だった。
ずっと、
自分の中に
あったのに。
「重ねる……」
ミレイアの言葉を
思い出す。
小さい魔法を、
何度も。
エナは、
同じ魔法を
続けて唱えた。
「軽量化」
「軽量化」
「軽量化」
三回。
四回。
五回。
足が、
少し軽い。
気のせいじゃない。
エナの目が、
大きく開く。
「……え?」
もう一度。
「軽量化」
軽さが、
増した。
エナは、
息をのむ。
重ねると、
強くなる。
本当だった。
胸が、
どくどく鳴る。
怖い。
同時に、
嬉しい。
「私……」
声が、
震える。
「できる……」
その時。
扉が、
ノックされた。
「起きてる?」
ロシュの声。
「……はい」
扉が開く。
ロシュが、
顔を出す。
「朝飯、
行こうぜ」
エナは、
少し迷ってから言う。
「……ロシュ」
「ん?」
「私の魔法」
「重ねると、
強くなります」
ロシュは、
一瞬きょとんとする。
それから、
笑った。
「だろ?」
「ミレイア、
言ってた」
当たり前みたいに。
エナの胸が、
じんとする。
信じている。
そう、
感じた。
宿を出る。
朝の空気は、
冷たい。
でも、
気持ちは
前より温かい。
食堂で、
ガルドとミレイアも
待っていた。
ミレイアが、
エナを見る。
「顔、
違うわね」
エナは、
少し照れる。
「……少しだけ」
「自分の魔法、
試しました」
ミレイアは、
うなずく。
「どうだった?」
「……強くなりました」
ガルドが、
口の端を上げる。
「ほらな」
その一言で、
胸がいっぱいになる。
エナは、
まだ自信はない。
でも。
自分の中に、
何かがある。
それだけは、
はっきりした。
自覚なき才能。
それは、
少しずつ
形を持ち始めていた。




