第7章 いないと困る存在
暗闇の奥で、
エナは微かな光を見る。
揺れる炎。
鼻をくすぐる、
焦げた匂い。
「……生きてる」
誰かの声。
ガルドだ。
エナは、
ゆっくり目を開ける。
天井は、
洞窟の岩肌。
体は、
毛布に包まれていた。
「……あ」
声が、
ほとんど出ない。
喉が、
ひどく渇いている。
ミレイアが、
水袋を差し出した。
「ゆっくり」
エナは、
少しずつ飲む。
冷たい水が、
喉を通る。
生きている。
それを、
実感する。
「……すみません」
思わず、
口から出た。
ガルドが、
眉をひそめる。
「またか」
「お前さ」
「なんで、
自分のせいにする」
エナは、
何も言えない。
ミレイアが、
静かに言う。
「あなたが倒れた瞬間」
「はっきりわかった」
エナは、
ミレイアを見る。
「私たち、
急に動けなくなった」
「体が重くなって」
「集中できなくなって」
ロシュが、
うなずく。
「正直、
めちゃくちゃ焦った」
ガルドは、
腕を組む。
「つまりな」
「お前がいないと、
困る」
エナの胸が、
ぎゅっと締め付けられる。
困る。
その言葉は、
重かった。
必要とされている。
初めて、
そう言われた。
「……私」
声が、
震える。
「役に、
立ってますか」
ミレイアは、
即答した。
「立ってる」
ロシュも、
すぐ言う。
「めちゃくちゃ」
ガルドは、
照れたように
顔を背ける。
「……だから」
「勝手に倒れるな」
涙が、
あふれた。
止まらない。
「ごめんなさい……」
「……ありがとう」
同時に出た。
洞窟の奥で、
小さな焚き火が揺れる。
その前で、
四人は座っていた。
言葉は、
もういらなかった。
エナは、
胸に手を当てる。
ここが、
温かい。
生まれて初めて、
居場所だと
思えた。
しばらくして、
ガルドが立ち上がる。
「戻るぞ」
「今日は、
十分だ」
ミレイアが、
うなずく。
ロシュが、
エナに手を差し出す。
「歩ける?」
エナは、
少し考えてから、
その手を取った。
「……はい」
立ち上がると、
足は少し震えた。
それでも、
倒れなかった。
ガルドが、
前を歩く。
ミレイアが、
後ろを警戒する。
ロシュが、
エナの横。
隊列が、
変わった。
エナは、
最後尾ではない。
真ん中だ。
そのことに、
胸が熱くなる。
いないと困る存在。
その言葉を、
エナは
何度も思い出しながら
歩いていた。




