第6章 初めての失敗
洞窟の奥へ進むほど、
空気は重くなる。
湿った匂い。
鉄のような血の気配。
エナは、
胸の奥がざわついていた。
これまでと、
違う。
理由は、
わからない。
ただ、
嫌な予感だけが
膨らんでいく。
歩きながら、
いつも通り
魔法を重ねる。
軽量化。
持続回復。
疲労軽減。
集中補助。
小さな魔法。
小さな消費。
それを、
何度も。
気づかぬうちに、
魔力は減っていた。
自覚は、
なかった。
通路が、
広くなる。
天井の高い空間。
中央に、
大きな影。
オーガ。
二メートルを超える
巨体。
棍棒を握っている。
「……やばいな」
ガルドが、
低く言う。
中級以上の魔物。
この依頼には、
想定されていない相手だ。
「逃げるか?」
ロシュが言う。
ミレイアは、
首を振る。
「背後が、
狭い」
「ここで、
やるしかない」
エナの喉が、
からからになる。
怖い。
それでも。
「軽量化」
声が、
少し掠れる。
「集中補助」
魔法が、
いつもより弱い。
オーガが、
咆哮する。
耳が、
びりびりする。
突進。
ガルドが、
受け止める。
衝撃。
後ずさる。
「……重い」
ロシュが、
側面から斬る。
刃が、
浅く入る。
ミレイアの矢が、
肩に刺さる。
だが、
止まらない。
エナは、
必死で魔法を放つ。
「小治癒!」
光が、
かすかに揺れる。
その瞬間。
視界が、
ぐらりと歪んだ。
足の感覚が、
なくなる。
エナは、
膝をついた。
魔力切れ。
頭が、
真っ白になる。
「エナ!」
ミレイアの声。
だが、
体が動かない。
魔法が、
使えない。
オーガが、
ガルドを吹き飛ばす。
壁に、
叩きつけられる。
「ぐっ……」
ロシュが、
前に出る。
だが、
動きが鈍い。
さっきまでの
軽さがない。
ミレイアの矢も、
わずかに逸れる。
――私が、
止まったから。
エナは、
理解する。
自分の魔法が、
止まった。
だから。
胸が、
締め付けられる。
「ごめ……」
声にならない。
オーガが、
棍棒を振り上げる。
ロシュに向かう。
ガルドが、
必死に立ち上がる。
間に合わない。
エナは、
歯を食いしばる。
体の奥を、
無理やり探る。
何もないはずの場所から、
絞り出す。
「……小治癒!」
声が、
かすれる。
光は、
ほとんどない。
それでも。
ロシュの動きが、
一瞬だけ戻る。
致命打を、
避けた。
ミレイアの矢が、
オーガの目を射抜く。
ガルドが、
渾身の一撃。
首を、
斬り落とす。
オーガは、
崩れ落ちた。
静寂。
エナは、
その場に倒れた。
意識が、
遠のく。
――私のせいで、
死ぬところだった。
その思いだけが、
胸を占めていた。




