第3章 小さな魔法
森の奥へ進むにつれ、
木々は密度を増していった。
陽の光が、
細い筋になって差し込む。
地面は湿っており、
足を取られやすい。
エナは、
転ばないよう、
必死で歩いていた。
「休憩する」
ガルドが言った。
倒木に腰を下ろす。
ミレイアとロシュも、
それぞれ武器を置いた。
エナは、
少し離れた場所に座る。
自分が近くにいると、
邪魔になる気がした。
胸の奥が、
きゅっと縮む。
「さっきの魔法」
ミレイアが、
水袋を飲みながら言う。
「小治癒、だっけ」
「……はい」
「他にも使えるの?」
「えっと……」
エナは、
指を折りながら考える。
「少しだけ、
体が軽くなる魔法と」
「集中しやすくなる魔法と」
「あと……
疲れが溜まりにくくなる魔法」
ミレイアは、
眉を上げた。
「全部、
小さい効果?」
「……はい」
ガルドが、
鼻で笑う。
「しょぼいな」
エナは、
俯いた。
やっぱり、
そうだよね。
「でもな」
ガルドは、
続けた。
「さっきから、
妙に体が軽い」
「気のせいかと思ってたが」
ミレイアが、
ちらりとエナを見る。
「あなた、
歩きながら使ってる?」
「……はい」
エナは、
正直に答えた。
戦闘の前から、
ずっと少しずつ。
癖のように。
ミレイアは、
しばらく黙る。
「……重ねがけ」
「え?」
「小さい魔法を、
何度も使うと」
「効果が、
積み重なる」
エナは、
目を丸くする。
そんなこと、
考えたこともなかった。
「普通は、
効率が悪いからやらない」
「でも、
あなたは自然にやってる」
ガルドは、
腕を組む。
「つまり?」
「つまり、
地味だけど」
「役に立ってる」
エナの胸が、
どくんと鳴る。
役に立つ。
その言葉が、
頭の中で何度も響く。
「……ありがとうございます」
声が、
少し震えた。
休憩を終え、
再び歩き出す。
しばらくすると、
森狼が現れた。
二匹。
ガルドが、
前に出る。
「行くぞ」
ロシュが、
横から走る。
ミレイアは、
後方で構える。
エナは、
深呼吸した。
怖い。
でも、
やるしかない。
「軽量化」
仲間の体が、
わずかに光る。
「集中補助」
ロシュの剣に、
淡い光。
ガルドが、
一歩踏み込む。
いつもより、
速い。
一撃で、
狼を叩き伏せる。
もう一匹が、
ミレイアに飛びかかる。
「小治癒!」
矢を放つ瞬間、
ミレイアの腕が安定する。
矢は、
正確に喉を貫いた。
戦闘は、
一瞬だった。
「……早かったな」
ガルドが言う。
ミレイアは、
エナを見る。
「やっぱり、
あなたの魔法」
エナは、
首を横に振る。
「わ、私なんて……」
言いかけて、
止まる。
ミレイアの目は、
真剣だった。
「自分の力を、
ちゃんと見なさい」
胸が、
ぎゅっとなる。
エナは、
小さくうなずいた。
まだ、
よくわからない。
それでも。
自分の魔法が、
仲間の動きを変えている。
その事実だけは、
否定できなかった。
小さな魔法。
でも、
確かに。
ここにある。




