第2章 拾われた居場所
森へ続く街道は、
朝露に濡れていた。
土の匂いと、
若い草の香りが混じる。
エナは、
少し後ろを歩いていた。
前を行くのは、
大剣を背負った男。
ガルドという名前らしい。
その後ろに、
弓を持った女性。
ミレイア。
さらに後ろ、
短剣を腰に下げた少年。
ロシュ。
三人とも、
歩き方に無駄がない。
エナは、
必死でついていく。
「なあ」
ガルドが、
歩きながら言った。
「言っとくが」
「本当に期待してねぇ」
「……はい」
「足手まといになったら、
置いてく」
「……はい」
胸が、
ちくりと痛んだ。
それでも、
うなずくしかない。
ミレイアが、
ちらりと振り返る。
「緊張しすぎ」
そう言って、
視線を前に戻した。
慰めなのか、
ただの事実なのか。
エナには、
わからなかった。
ロシュは、
何も言わない。
ただ、
エナを一度だけ見て、
すぐ前を向いた。
森に入ると、
空気が変わった。
鳥の鳴き声。
枝の擦れる音。
静かなのに、
落ち着かない。
「今日は、
森狼が相手だ」
ガルドが言う。
「数は少ない」
「だが速い」
エナは、
ごくりと唾を飲む。
初めての、
実戦だ。
足が、
少し震えた。
「来るぞ」
ミレイアが、
小さく言った。
草むらが揺れる。
灰色の影が、
飛び出した。
「うおおっ!」
ガルドが、
大剣を振るう。
重い音。
狼が、
弾き飛ばされる。
「二匹目!」
ロシュが、
前に出る。
短剣が、
鋭く閃く。
エナは、
動けなかった。
何をすればいいのか、
頭が真っ白になる。
「後ろだ!」
ミレイアの声。
三匹目の狼が、
ガルドの脇をすり抜けた。
「……っ!」
エナは、
反射的に杖を掲げる。
「小治癒!」
淡い光が、
ガルドの背中を包む。
狼の牙が、
かすめた傷が塞がる。
ガルドは、
一瞬だけ、
目を見開いた。
「……助かった」
それだけ言って、
再び前に出る。
エナの胸が、
どくんと鳴った。
役に、
立った。
それだけで、
涙が出そうになる。
戦いは、
すぐ終わった。
狼は、
すべて倒された。
エナは、
その場にへたり込む。
息が、
苦しい。
「魔力、
使いすぎ」
ミレイアが、
そう言った。
「……すみません」
「謝るな」
ガルドが、
剣を肩に担ぐ。
「さっきの治癒」
「なかったら、
面倒だった」
面倒。
それだけの言葉なのに、
エナの胸は、
温かくなる。
ロシュが、
小さく言った。
「……ちゃんと、
仕事してる」
エナは、
顔を上げた。
三人とも、
もうエナを見ていない。
前を向いている。
それでも、
拒絶の空気はなかった。
それだけで、
十分だった。
エナは、
杖を握り直す。
――ここにいても、
いいのかもしれない。
そう思えた、
初めての瞬間だった。




