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第1章 最底辺の治癒師


冒険者ギルドの受付前は、

朝からざわついていた。


剣を背負った男。

杖を握る女。

革鎧を着た若者。


皆、自分の力を誇るように、

胸を張って立っている。


その中で、

一人だけ俯いている少女がいた。


エナは、

胸元で手を組み、

視線を床に落としていた。


腰に下げているのは、

短い杖。

先端に小さな青い石が埋め込まれた、

安物の魔導杖だ。


服も古い。

何度も繕われた跡があり、

色はもうくすんでいる。


「……あの」


エナは、

かすれた声で声をかけた。


目の前にいるのは、

三人組の冒険者パーティだった。


大剣を背負った男。

弓を持った女。

短剣を腰に差した少年。


見た目だけで、

戦える集団だとわかる。


「治癒師のエナです」

「補助魔法が使えます」


必死に言葉を紡ぐ。


男は、

ちらりとエナを見て、

鼻で笑った。


「攻撃魔法は?」


「……使えません」


「じゃあいらねぇ」


それだけ言って、

視線を外した。


エナは、

何も言えなくなる。


まただ。


今日で、

何度目だろう。


補助魔法しか使えない。

その事実だけで、

エナは切り捨てられる。


回復ができても、

攻撃ができなければ価値がない。


それが、

この街の常識だった。


エナは、

そっとその場を離れた。


背中に、

冷たい視線を感じる。


――役立たず。

――荷物持ちにもならない。


聞こえないふりをする。


慣れている。


ギルドの掲示板の前に立つ。


貼られている依頼は、

ほとんどが討伐。


スライム。

ゴブリン。

狼型魔獣。


どれも、

戦闘が前提だ。


エナは、

視線を下へと移す。


掲示板の一番下。


「倉庫の清掃」

「薬草の仕分け」

「水運び」


雑用ばかり。


それでも、

仕事があるだけましだ。


エナは、

倉庫清掃の紙を剥がした。


その時だった。


「……人手が足りねぇな」


低い声が聞こえた。


エナが振り向くと、

大剣を背負った男が立っていた。


筋肉質で、

顔に小さな傷がある。


怖そうだ、

とエナは思った。


「なあ嬢ちゃん」

「治癒師だって言ってたな」


「……はい」


声が震える。


「攻撃はできねぇんだよな?」


「……はい」


男は腕を組む。


少し考えてから、

舌打ちした。


「まあいい」

「とりあえず来い」


「え……?」


意味がわからない。


男の後ろには、

弓を持った女性と、

少年がいる。


「人数合わせだ」

「期待はしてねぇ」


そう言われても、

頭が追いつかない。


「え、あの……」


「死にたくなきゃ、

後ろにいろ」


それだけ言って、

男は歩き出した。


エナは、

その背中を見つめる。


胸が、

ぎゅっと締め付けられた。


――また迷惑になるかもしれない。


それでも、

足は動いた。


ついていくしか、

なかった。


ギルドを出ると、

冷たい風が吹く。


エナは、

自分の杖を強く握る。


「……がんばらないと」


誰に聞かせるでもなく、

小さく呟いた。


自分には、

これしかない。


小さな治癒。

小さな強化。

小さな支援。


それでも、

何もしないよりは、

ましだ。


そう思わなければ、

立っていられなかった。


エナは、

気づいていない。


その小さな魔法が、

やがて戦場を支配するほどの力に

なることを。


まだ、

誰も知らない。


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