Ⅶ 聖地
時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。
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なんとか手綱を操ってなんとかアーチャイについていくと、10分ほどで眼前に小さな集落が出てきた。
「ここは何の場所なんですか?」星歌がアーチャイに聞く。
「ボオルチュ殿の主、テムジン殿がお生まれになった地だ」
「...え?」
星歌は驚いた。
(テムジン...チンギス・ハンのこと?)
ボオルチュは集落の中心にある小さな石碑の前に立っていた。
何か祈りを捧げているようだ。
「ボオルチュ様は、ふとした時にここを訪れる。殿への忠義だ」
アーチャイが説明する。
星歌は石碑を見つめた。
(ここが...歴史の始まりの場所)
石碑の前に膝をついた。
「イェスゲイ様。テムジン様はモンゴルをほぼ統一したようです。」
風が吹く。
まるで、イェスゲィが答えているかのようだ。
「ここまでのことは全てイェスゲイ様のおかげです。これからもお助けください。」
ボオルチュは立ち上がり、集落を見回した。
変わらない風景。
だが、もうすぐ全てが変わる。
(殿が、世界を変える)
思い返すと9歳の時に孤児になりかかって草原を彷徨っていたところをイェスゲイに拾われた。
12歳の時、父とも仰いでいたイェスゲィが亡くなり、その後はテムジンと共に旅をした。
あの頃は2人しかいなかったが、自分の人生で一番充実していたと思う。
寒い夜、火を囲んで語り合ったこと。
獲物を追って草原を駆けたこと。
全てが宝物だ。
その後、テムジンが旗を挙げた後、ボオルチュは主に内政を担当したので、千軍万馬の中にいたテムジンとはあまり会うことが少なくなったが、心はいつも通っていると信じている。
「ボオルチュ殿」
「礼拝の時だ、邪魔をするな。」
「いえ、殿が昨夜からずっと拾った漢人と喋り通してるとのことらしいので。少し引っかかって。」
「漢人が、、、?」
テムジンは自分の知る限りでは漢人は好きでもないが嫌いでもないという風である。それも嫌い寄りというか、今までも側近に置いたことなど一度もなかったので気になった。
「何を話しているかは知っているか?」
「いえ、人も近づけず、奥方と3人でいると言うことです。」
「殿は面妖なことをなさるな。すぐ急行する。変な知識でも吹き込まれてはたまらんからな。」
「他に他国の情勢が変われば、お伝えします。」
七星の者がひっそりと姿を消した。周囲の一般人に紛れて近づくことができるのはさすがのものである。
(漢人、か。)
「アーチャイ殿、少し説明してくれませんか。」星歌は言った。
とりあえず状況を把握しておいた方がいい。
「何を?」
「えーっと、この草原はそもそもどこですか?」
「お前はどこから来たんだ?」少し不満げにアーチャイが言った。
ここは怖くとも怯えると踏み出せない。一歩進まないと。
「ここまでのことを覚えてないんです。」
「は?」
「本当です。」
「頭でも打ったのか?」
「いえ、起きたらなぜかいて」
「お、おう。うーん、タリゲーン殿と話してくる。」
そう言ってアーチャイはここに来て初めて困惑したように見えた。
何やらタリゲーンがアーチャイと 2人で話し込んでいる。
「星歌、とりあえず説明する。」タリゲーンが言った。
「ボオルチュ殿の警護はよろしいので?」
「あの方は1人でも身を守れる。」
「わかりました。お願いいたします。」
「うむ。まずあの方、ボオルチュ殿は今この草原を支配下に置いておられるテムジン殿の第一の側近だ。内政などを担当しておられる。」
「などとはなんだ。などとは。」いつのまにかタリゲーン達の背後にボオルチュが立っていた。
「内政や兵站、情報収集と。私は忙しいのだぞ。」ボオルチュが不服そうに言った。
「申し訳ありません。ボオルチュ殿。」タリゲーンが半笑いで謝っている。
すかさずボオルチュが蹴りを入れるが、かなり余裕を持ってタリゲーンはかわした。どうやらいつものやりとりのようだ。
「もういい。お前はここに置いていくぞ。タリゲーン、お前がここにいて星歌を少し見ろ。」
「そんなー。」タリゲーンが言った。
「ボオルチュ殿、ここは私が残ります。」アーチャイが言った。
「アーチャイ、お前が星歌を見るのか?」
「はい、半月でアウラガに行きます。育てば連れて行きます。」
「おお、そうか。頼むぞ」
ボオルチュが珍しそうに言った。どうやらアーチャイが要望を言うのは珍しいらしい。
「はっ」
「タリゲーン、乗れ。」ボオルチュが命じた。
「はっ」タリゲーンが答え、2人が近くにあった馬に乗った。
「じゃあ、行くぞ。星歌、達者でな。」
「はい、すぐ行きます。」本当に星歌はすぐ行くつもりで答えた。
ボオルチュは少し振り向き、その後、石碑を一瞥した後駆けて行った。
「星歌、よろしくな。」アーチャイが少しぶっきらぼうだが言った。
感情を表に出さない人は少しわかりにくい。
「殿、急いでおられるのですか?」
「なんだ、タリゲーン」
「いえ、少しそんな気が。馬を腿でずっと締め付けておられるので、普段はもう少し優しくされるのに。」
ボオルチュははっと気づき、足を緩めた。
「ふん。何もない。」
「そうですか。」アーチャイと星歌、仲良くなれるといいですね。」
「そうだな。」
風で草が流れるように動いた。
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