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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
臥竜、雲を掴む
6/21

Ⅴ 飛行

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

舜がテムジンと出会っていた時から遥かに時は流れ、高校1年生の高梨星歌はニュージーランドへの留学で成田発オークランド行きのニュージーランド航空の便に乗っていた。


(舜、元気にしてるかな...最近連絡つかないけど)

3日前くらいの通話で「何かあったら絶対連絡して」って言ってくれた彼の声を思い出す。あれから連絡は一切繋がらない。

「高梨ーぼーっとしてないでシートベルトちゃんと締めた方がいいよー」

隣の同級生に注意され、慌ててシートベルトを締めた。

カチッと音が鳴り、その音と風景で今から自分は海外に行くんだなと改めて思った。


「まもなく成田発オークランド行きの本機は離陸いたします。シートベルトを締めー」

アナウンスが流れ始めた。窓がそばにない座席で残念だったが、席を一つおけば通路側だが外の景色が見えることは良かった。部分部分しか流れない英語のアナウンスが流れ始め、今更ながら外国なんて大丈夫だろうかと不安になる。

「ニュージーランドかぁ。安全な国だといいな。」

隣の子が独り言を言っているのをよそ目に MP3プレイヤーの電源を入れた。

イヤホンをつけると大好きなアーティストのYOSABOIが流れ出した。

小学校の時からずっとファンで携帯は飛行機の中で使えないから2年前に仕舞った押入れの中から引っ張り出してきた。こう聞くと意外と最新の曲ばっかりがいいわけでもなく、昔の好きな曲も流れてきて嬉しかった。


「お、離陸した。」機体は音楽に浸っている間に空中に飛び立っていた。この音楽さえあれば、留学なんて絶対大丈夫だと信じることができて安心した。

19時前に離陸したのであまり夜更かしが得意ではない星歌は3時間も経つと眠くなってきたのでシートを少し後ろに倒し、雲が満ちる機体の外を眺めながら眠りに落ちた。


―――

(ここは...?)


星歌は公園のベンチに座っていた。

自分の家の近く。いつも通る公園。

真昼の日差しが暖かい。

「...夢?」

でも、やけにリアルだ。

風の感触。鳥の声。ベンチの硬さ。

「すみません」

声がして、振り向いた。

十歳にもなっていなさそうな子供が立っていた。

不思議な雰囲気。日本人のようで、そうでないような。

「...はい?」

「この本を読んでくれませんか」

子供は一冊の本を差し出してきた。

緑色の表紙。題はない。

「これ...は?」

「あなたが読むべき本です」

子供の目が、まっすぐに星歌を見つめる。

星歌は戸惑いながらも、本を受け取った。

ずっしりと重い。古い本のような匂い。

「なんの本なんですか?」

「読めば分かります。そして―」

子供は優しく微笑んだ。

「もう一人、同じ本を持っている人がいます」

「...え?」

「その人と、必ず会えますよ」

星歌が聞き返そうとした瞬間―

―――


ガタン!!


激しい揺れで目が覚めた。

「きゃあ!」

機内がパニックになっていた。

警告音。酸素マスク。悲鳴。

「全員シートベルトを!衝撃に備えて!」

CAの必死の声。

星歌の心臓が激しく打つ。

(嘘...墜落する...!?)

窓の外を見ると、地面が異様に近い。

海が見える。山が見える。

隣の同級生は泣き出していた。

(死ぬ...?)

舜の顔が浮かんだ。

(ごめんね...もう話せないかも)

そして―

ふと、膝の上に何かがあることに気づいた。

見ると、緑色の本があった。


「...え?」

夢で受け取った本。

なぜここに?

本を握りしめた。

温かい。不思議と、恐怖が少し和らぐ。

(この本...何...?)

機体が大きく傾く。

悲鳴。

光。

星歌は本を抱きしめた。

「もう一人、同じ本を持っている人がいます」

子供の言葉が蘇る。

(その人...誰...?)


そして、世界が光に包まれた。


―――


「...ん...」

星歌はゆっくりと目を開けた。


青い空。

白い雲。

草の匂い。

「...ここは?」

起き上がると、見渡す限りの草原が広がっていた。

飛行機はない。

乗客もいない。

ただ、果てしない緑の大地。

「嘘...でしょ...」


そして、気づいた。

手に、しっかりと本を握りしめている。

緑色の表紙。題のない本。

「...なにこれ...」


遠くで、馬の嘶きが聞こえた。

星歌は立ち上がり、本を抱えて、その方向を見た。

(ここは...どこ?)

(私...生きてるの?)

(この本は...一体...?)


草原の風が、星歌の髪を揺らした。

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