Ⅴ 飛行
時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。
舜がテムジンと出会っていた時から遥かに時は流れ、高校1年生の高梨星歌はニュージーランドへの留学で成田発オークランド行きのニュージーランド航空の便に乗っていた。
(舜、元気にしてるかな...最近連絡つかないけど)
3日前くらいの通話で「何かあったら絶対連絡して」って言ってくれた彼の声を思い出す。あれから連絡は一切繋がらない。
「高梨ーぼーっとしてないでシートベルトちゃんと締めた方がいいよー」
隣の同級生に注意され、慌ててシートベルトを締めた。
カチッと音が鳴り、その音と風景で今から自分は海外に行くんだなと改めて思った。
「まもなく成田発オークランド行きの本機は離陸いたします。シートベルトを締めー」
アナウンスが流れ始めた。窓がそばにない座席で残念だったが、席を一つおけば通路側だが外の景色が見えることは良かった。部分部分しか流れない英語のアナウンスが流れ始め、今更ながら外国なんて大丈夫だろうかと不安になる。
「ニュージーランドかぁ。安全な国だといいな。」
隣の子が独り言を言っているのをよそ目に MP3プレイヤーの電源を入れた。
イヤホンをつけると大好きなアーティストのYOSABOIが流れ出した。
小学校の時からずっとファンで携帯は飛行機の中で使えないから2年前に仕舞った押入れの中から引っ張り出してきた。こう聞くと意外と最新の曲ばっかりがいいわけでもなく、昔の好きな曲も流れてきて嬉しかった。
「お、離陸した。」機体は音楽に浸っている間に空中に飛び立っていた。この音楽さえあれば、留学なんて絶対大丈夫だと信じることができて安心した。
19時前に離陸したのであまり夜更かしが得意ではない星歌は3時間も経つと眠くなってきたのでシートを少し後ろに倒し、雲が満ちる機体の外を眺めながら眠りに落ちた。
―――
(ここは...?)
星歌は公園のベンチに座っていた。
自分の家の近く。いつも通る公園。
真昼の日差しが暖かい。
「...夢?」
でも、やけにリアルだ。
風の感触。鳥の声。ベンチの硬さ。
「すみません」
声がして、振り向いた。
十歳にもなっていなさそうな子供が立っていた。
不思議な雰囲気。日本人のようで、そうでないような。
「...はい?」
「この本を読んでくれませんか」
子供は一冊の本を差し出してきた。
緑色の表紙。題はない。
「これ...は?」
「あなたが読むべき本です」
子供の目が、まっすぐに星歌を見つめる。
星歌は戸惑いながらも、本を受け取った。
ずっしりと重い。古い本のような匂い。
「なんの本なんですか?」
「読めば分かります。そして―」
子供は優しく微笑んだ。
「もう一人、同じ本を持っている人がいます」
「...え?」
「その人と、必ず会えますよ」
星歌が聞き返そうとした瞬間―
―――
ガタン!!
激しい揺れで目が覚めた。
「きゃあ!」
機内がパニックになっていた。
警告音。酸素マスク。悲鳴。
「全員シートベルトを!衝撃に備えて!」
CAの必死の声。
星歌の心臓が激しく打つ。
(嘘...墜落する...!?)
窓の外を見ると、地面が異様に近い。
海が見える。山が見える。
隣の同級生は泣き出していた。
(死ぬ...?)
舜の顔が浮かんだ。
(ごめんね...もう話せないかも)
そして―
ふと、膝の上に何かがあることに気づいた。
見ると、緑色の本があった。
「...え?」
夢で受け取った本。
なぜここに?
本を握りしめた。
温かい。不思議と、恐怖が少し和らぐ。
(この本...何...?)
機体が大きく傾く。
悲鳴。
光。
星歌は本を抱きしめた。
「もう一人、同じ本を持っている人がいます」
子供の言葉が蘇る。
(その人...誰...?)
そして、世界が光に包まれた。
―――
「...ん...」
星歌はゆっくりと目を開けた。
青い空。
白い雲。
草の匂い。
「...ここは?」
起き上がると、見渡す限りの草原が広がっていた。
飛行機はない。
乗客もいない。
ただ、果てしない緑の大地。
「嘘...でしょ...」
そして、気づいた。
手に、しっかりと本を握りしめている。
緑色の表紙。題のない本。
「...なにこれ...」
遠くで、馬の嘶きが聞こえた。
星歌は立ち上がり、本を抱えて、その方向を見た。
(ここは...どこ?)
(私...生きてるの?)
(この本は...一体...?)
草原の風が、星歌の髪を揺らした。
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