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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
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II 矜持

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

1216年、秋。

バラサグン。

グチュルクが、玉座に座っていた。

「今日より、俺が西遼の皇帝だ」

グチュルクが宣言した。

配下の将兵が、跪いている。

ブラクが、横に立っていた。

「陛下」

ブラクが言った。

「耶律直魯古は、必ず軍を送ってきます」

「来ればいい」

グチュルクが笑った。

「返り討ちにしてやる」

「七万の兵がいる」

「恐れることはない」

グチュルクの目が、光った。

かつてチンギスに敗れた男。

だが、今度こそ。

(俺が、皇帝になる)

(そして、チンギスを倒す)


虎思斡耳朶。

耶律直魯古が、報告を受けていた。

「グチュルクが...反乱を?」

「はい」

楊安仁が答えた。

「バラサグンで、自ら皇帝を名乗ったと」

「...」

耶律直魯古は、黙った。

だが、怒りは見せなかった。

ただ、静かに言った。

「楊安仁」

「はい」

「お前が、行け」

「...!」

「禁軍を率いて、グチュルクを討て」

禁軍。

西遼の近衛軍だった。

精鋭中の精鋭。

三万の兵。

「ですが、陛下」

楊安仁が言った。

「禁軍が首都を離れれば、守りが手薄に」

「分かっている」

耶律直魯古が答えた。

「だが、グチュルクを放置すれば、国が割れる」

「それよりも、反乱を鎮圧する方が先だ」

「...」

楊安仁は、迷った。

だが。

「承知しました」

楊安仁が頭を下げた。

「必ず、グチュルクを討ちます」

「頼んだぞ」

耶律直魯古が微笑んだ。

「お前は、朕の最も信頼する臣だ」

「ありがとうございます」

楊安仁が出ていった。


数日後。

楊安仁は、禁軍を率いて出陣した。

禁軍総司令、アリハンが横を走っていた。

四十代の歴戦の将軍だ。

「宰相」

「うむ」

「本当に、首都を空けてよろしいのですか?」

「陛下の命だ」

楊安仁が答えた。

「従うしかない」

「ですが...」

「アリハン」

楊安仁が言った。

「陛下は、分かっておられる」

「モンゴルが来ることを」

「...!」

「その上で、グチュルク討伐を優先された」

楊安仁が続けた。

「国が分裂すれば、モンゴルに勝てない」

「だから、まずグチュルクを討つ」

「それが、陛下の判断だ」

アリハンは、黙った。

副将のベクゾドが聞いた。

「では、我らが戻る前にモンゴルが来たら?」

「...陛下が、一人で戦われる」

楊安仁が答えた。

「それを、避けねばならん」

「急ぐぞ」


モンゴルの陣営。

チンギスが、報告を受けていた。

「グチュルクが、反乱を?」

「はい」

クビライが答えた。

「バラサグンで、皇帝を名乗ったそうです」

「そして、楊安仁が禁軍を率いて討伐に向かったと」

「...」

チンギスは、考えた。

そして。

「これは、好機だな」

「...!」

将軍たちが理解した。

「禁軍が首都を離れた」

チンギスが続けた。

「今、虎思斡耳朶は手薄だ」

「攻めるなら、今だ」

「全軍、虎思斡耳朶へ」

「はっ!」


遼舜は、この展開を記録していた。

(グチュルクの反乱が、西遼を滅ぼす)

(内部分裂が、最大の敵だ)

遼舜は、思った。

(だが、耶律直魯古は分かっていたはずだ)

(それでも、グチュルク討伐を優先した)

(それが、皇帝としての判断だったのか)


バラサグン近郊。

楊安仁の軍と、グチュルクの軍が対峙していた。

禁軍三万。

グチュルク軍七万。

数では、グチュルクが上だった。

「楊安仁!」

グチュルクが叫んだ。

「お前も、俺に従え!」

「断る」

楊安仁が答えた。

「お前は、反逆者だ」

「反逆者?」

グチュルクが笑った。

「耶律直魯古こそ、無能な老人だ」

「あの男では、モンゴルに勝てない」

「俺が皇帝になれば、モンゴルを倒せる」

「...お前では、無理だ」

楊安仁が冷たく言った。

「お前は、チンギスに敗れた」

「一度ならず、二度も」

「そんな男が、どうやってモンゴルに勝つ?」

「くっ...」

グチュルクが歯噛みした。

「言わせておけば...」

「攻めろ!」

グチュルク軍が、突撃した。


禁軍が、迎え撃った。

アリハンが、先頭で戦う。

「禁軍の誇りを見せろ!」

アリハンの剣が、敵を斬る。

ベクゾドが、槍を振るう。

「宰相をお守りしろ!」

禁軍は、精鋭だった。

一人が、三人を相手にする。

グチュルク軍が、押される。

「くそ!」

グチュルクが叫んだ。

「数で押せ!」

だが。

禁軍は、崩れなかった。

楊安仁が、冷静に指揮を執る。

「右翼、前へ」

「左翼、包囲しろ」

禁軍が、グチュルク軍を包み込む。

「ぐあっ!」

グチュルク兵が倒れていく。

ブラクが、グチュルクに言った。

「陛下、このままでは...」

「分かっている!」

グチュルクが剣を抜いた。

「俺が、直接行く」

グチュルクが、戦場に飛び込んだ。

剣を振るい、禁軍兵を斬る。

「どけ!楊安仁はどこだ!」

グチュルクが叫んだ。


楊安仁が、前に出た。

「ここだ、グチュルク」

二人が、対峙した。

「楊安仁...」

グチュルクが剣を構えた。

「お前を倒せば、勝てる」

「来い」

楊安仁が剣を抜いた。

二人が、激突した。

剣と剣が、火花を散らす。

グチュルクの剣が、楊安仁の肩を掠めた。

血が流れる。

だが、楊安仁は止まらなかった。

楊安仁の剣が、グチュルクの腕を斬った。

「ぐっ...!」

グチュルクが後退する。

「貴様...」

「グチュルク」

楊安仁が言った。

「お前は、野心だけの男だ」

「国を思う心がない」

「だから、負ける」

楊安仁の剣が、グチュルクの胸を貫いた。

「...!」

グチュルクが、倒れた。

血が、大地に流れる。

「俺は...」

グチュルクが呟いた。

「皇帝に...なりたかった...」

グチュルクは、息絶えた。

ブラクが叫んだ。

「陛下!」

だが、もう遅かった。

グチュルク軍は、総崩れになった。

「退け!」

「逃げろ!」

兵たちが、散り散りに逃げた。


楊安仁は、剣を納めた。

「終わったな」

アリハンが来た。

「宰相、お怪我は?」

「かすり傷だ」

楊安仁が答えた。

「それより、急いで首都に戻るぞ」

「はい」

だが。

斥候が駆けてきた。

「宰相!」

「何だ」

「モンゴル軍が、虎思斡耳朶を包囲したと!」

「...!」

楊安仁が青ざめた。

「まさか...もう?」

「はい。三日前から、包囲が始まったそうです」

「くっ...」

楊安仁が歯噛みした。

「急げ!全軍、首都へ!」


虎思斡耳朶。

モンゴル軍、八万が城を囲んでいた。

チンギスが、城壁を見上げていた。

「耶律直魯古」

チンギスが呟いた。

「お前は、覚悟の上だったのだろうな」

城壁の上。

耶律直魯古が、立っていた。

七十を超える老皇帝。

だが、背筋は伸びていた。

「朕は、逃げん」

耶律直魯古が言った。

側近のサルドルが心配そうに言った。

「陛下、南門から脱出を」

「いや」

耶律直魯古が首を振った。

「朕は、西遼の皇帝だ」

「首都を捨てて、逃げるわけにはいかん」

「ですが...」

「サルドル」

耶律直魯古がサルドルを見た。

「お前は、若い」

「生き延びて、楊安仁に仕えろ」

「陛下...」

「これは、命令だ」

サルドルは、涙を流した。

だが。

「...承知しました」

サルドルが頭を下げた。

「陛下のご武運を」

サルドルは、南門から脱出した。


翌朝。

モンゴル軍の攻撃が始まった。

投石機が、石を放つ。

城壁に、次々と当たる。

西遼の兵は、わずか五千。

禁軍が去った後、残った兵だけだった。

だが。

耶律直魯古は、動じなかった。

「守れ」

耶律直魯古が命じた。

「朕が、ここにいる」

「恐れるな」

兵たちが、勇気を得た。

「陛下がおられる!」

「守り抜くぞ!」

必死に戦った。


数日後。

城門が、破られた。

モンゴル軍が、雪崩れ込む。

「敵だ!」

西遼兵が迎え撃つ。

だが。

数の差は、圧倒的だった。

次々と倒れていく。

耶律直魯古は、剣を抜いた。

「朕も、戦う」

側近が叫んだ。

「陛下、お逃げを!」

「逃げん」

耶律直魯古が答えた。

「朕は、西遼最後の皇帝だ」

「この地で、死ぬ」

耶律直魯古が、宮殿を出た。

モンゴル兵が、襲いかかる。

だが。

耶律直魯古の剣が、敵を斬った。

七十を超える老人とは思えない動きだった。

「陛下!」

西遼兵が、皇帝を守ろうと集まる。

だが。

モンゴル兵の数が、多すぎた。

一人、また一人と倒れていく。

耶律直魯古も、傷を負った。

肩から、血が流れる。

だが。

まだ、剣を握っていた。

「来い、モンゴル!」

耶律直魯古が叫んだ。

「朕は、遼の末裔だ!」

「簡単には、倒れぬ!」


その時。

チンギスが現れた。

「止めろ」

チンギスが命じた。

モンゴル兵が、攻撃を止めた。

チンギスが、耶律直魯古の前に立った。

「耶律直魯古」

「...チンギス・ハンか」

二人が、対峙した。

「お前は、立派な皇帝だ」

チンギスが言った。

「首都を守り、最後まで戦った」

「敬意を表する」

「...」

耶律直魯古は、黙っていた。

だが。

「チンギス・ハン」

耶律直魯古が言った。

「お前は、強い」

「だが」

耶律直魯古が剣を構えた。

「朕は、降伏せん」

「分かっている」

チンギスが頷いた。

「だから、俺が相手をする」

チンギスが剣を抜いた。

二人が、激突した。

老皇帝と、草原の覇者。

剣が、ぶつかり合う。

だが。

耶律直魯古は、傷が深かった。

動きが、鈍る。

チンギスの剣が、耶律直魯古の剣を弾いた。

そして。

チンギスの剣が、耶律直魯古の胸を貫いた。

「...!」

耶律直魯古が、倒れた。

血が、大地に流れる。

「よく...戦った...」

耶律直魯古が呟いた。

「西遼は...誇り高き国だった...」

耶律直魯古は、息絶えた。

チンギスは、剣を納めた。

「立派な皇帝だった」

チンギスが呟いた。

「丁重に、葬れ」

「はっ」

モンゴル兵が、耶律直魯古の遺体を運んだ。


数日後。

楊安仁が、虎思斡耳朶に到着した。

だが。

街は、すでにモンゴルに占領されていた。

「...」

楊安仁は、言葉を失った。

「宰相」

アリハンが言った。

「陛下は...」

「...分かっている」

楊安仁が答えた。

モンゴル軍が、近づいてきた。

「楊安仁」

チンギスが馬に乗って現れた。

「...チンギス・ハン」

「耶律直魯古は、勇敢に戦って死んだ」

チンギスが言った。

「お前も、戦うか?」

楊安仁は、迷った。

だが。

「いや」

楊安仁が剣を捨てた。

「もう、戦う理由がない」

「陛下は、亡くなられた」

「西遼は、滅んだ」

楊安仁が頭を下げた。

「俺は、降伏する」

アリハンとベクゾドも、剣を捨てた。

「宰相に、従います」

チンギスが頷いた。

「分かった」

「楊安仁、お前にこの地の統治を任せる」

「...!」

「耶律直魯古が信頼した男だ」

チンギスが続けた。

「俺も、お前を信頼する」

「...承知しました」

楊安仁が深く頭を下げた。


1216年の冬。

西遼は、滅亡した。

耶律直魯古は、最後まで誇り高く戦った。

楊安仁は、グチュルクを討ったが、首都を救えなかった。

だが。

西遼の誇りは、失われなかった。

遼舜は、記録した。

「1216年冬、西遼滅亡」

「耶律直魯古、雄々しく戦死」

「楊安仁、モンゴルに降る」

遼舜は、思った。

(西遼は、美しく散った)

(誇りを守って、死んだ)

(これが、皇帝の死に様か)


モンゴルの陣営。

チンギスが、将軍たちに言った。

「西遼を手に入れた」

「次は、ホラズムだ」

将軍たちが、頷いた。

だが。

チンギスは、耶律直魯古のことを思い出していた。

(立派な男だった)

(敬意を表する)

チンギスは、空を見上げた。

西の空が、広がっていた。

次の戦場へ。

草原の風が、西へ吹いていた。

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