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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
西域へ

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Ⅰ 西へ

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

1216年、春。

アウラガ。

遼舜は、遼海に文字を教えていた。

「これが、山だ」

「やま」

遼海が復唱する。

四歳になった遼海は、覚えが早かった。

「これが、川だ」

「かわ」

「そうだ、よくできた」

遼舜が頭を撫でた。

星歌が、お茶を持ってきた。

「遼海、頑張ってるね」

「うん」

遼海が笑った。

「父上が、教えてくれるから」

遼舜は、星歌と目を合わせた。

二人とも、微笑んでいた。

(平和な時間だ)

遼舜は思った。

だが。

(この平和も、長くは続かない)


同じ頃。

チンギスの天幕。

将軍たちが集まっていた。

「諸君」

チンギスが地図を広げた。

「今年、西遼を攻める」

「兵力は?」

ジョチが聞いた。

「八万だ」

チンギスが答えた。

「右翼は、ジョチとジェベ」

「左翼は、チャガタイとスブタイ」

「中央は、俺とオゴデイ」

将軍たちが頷いた。

「ボオルチュは?」

「お前は、中原に残れ」

チンギスが答えた。

「耶律楚材を支えろ」

「承知しました」

ボオルチュが頭を下げた。

「殿」

クビライが前に出た。

「西遼の情報ですが」

「うむ」

「耶律直魯古は、七十を超えています」

「老いているのか」

「はい。ですが、頭は鋭いと」

クビライが報告した。

「宰相の楊安仁も、有能です」

「ふむ」

チンギスが考え込んだ。

「他には?」

「グチュルクという男がいます」

「グチュルク...」

チンギスの目が光った。

「ナイマンの王子だな」

「はい」

クビライが頷いた。

「耶律直魯古に、軍を任されたようです」

「そうか」

チンギスが笑った。

「面白い」

「あの男を、使うとは」


西遼。

虎思斡耳朶。

グチュルクは、軍の訓練を見ていた。

兵たちが、馬を駆っている。

「もっと早く!」

グチュルクが叫んだ。

「モンゴル軍に勝つには、もっと速く動け!」

兵たちが、必死に訓練する。

グチュルクの副将、ブラクが来た。

「将軍」

「うむ」

「兵は、五万集まりました」

「五万か」

グチュルクが頷いた。

「足りん。もっと集めろ」

「ですが、これ以上は...」

「集めろと言っている」

グチュルクが睨んだ。

「...承知しました」

ブラクが頭を下げた。

グチュルクは、空を見上げた。

(チンギス...)

(今度こそ、お前を倒す)


宮殿。

耶律直魯古と楊安仁が、話していた。

「陛下」

楊安仁が言った。

「グチュルクは、危険です」

「分かっている」

耶律直魯古が答えた。

「ですが、使うしかない」

「モンゴルに勝つには、軍事の才が必要だ」

「グチュルクには、それがある」

「...」

楊安仁は、黙った。

だが。

「陛下、グチュルクは野心家です」

「いずれ、陛下に牙を剥くかもしれません」

「その時は、斬る」

耶律直魯古が冷たく言った。

「今は、利用する」

「それだけだ」

楊安仁は、不安だった。

だが、何も言えなかった。


数週間後。

モンゴル軍が、西へ向けて出陣した。

八万の大軍だった。

遼舜は、また星歌と遼海に別れを告げた。

「行ってくる」

「気をつけてね」

星歌が遼海を抱いている。

「父上」

遼海が言った。

「早く、帰ってきてね」

「ああ」

遼舜が遼海の頭を撫でた。

「必ず、帰る」

遼舜は、馬に乗った。

(西遼...どんな国だろう)


軍は、西へ進んだ。

草原を越え、砂漠を越える。

水が、貴重だった。

「水を、節約しろ」

ムカリが命じた。

兵たちが、水筒を大事に持っている。

数週間後。

天山山脈が見えてきた。

「あれが、天山か」

ジョチが呟いた。

「大きいな」

「ああ」

ジェベが頷いた。

「あの山を越えるのか?」

「いや」

チンギスが答えた。

「山の南を通る」

「道があるはずだ」


天山山脈の南。

シルクロードの道だった。

かつて、隊商が通った道。

モンゴル軍は、その道を進んだ。

「殿」

タリゲーンが報告に来た。

「前方に、街があります」

「街?」

「はい。カシュガルという街です」

「カシュガル...」

チンギスが地図を見た。

「西遼の街だな」

「はい」

「まずは、そこを落とす」

チンギスが命じた。

「全軍、カシュガルへ」


カシュガル。

オアシス都市だった。

城壁に囲まれている。

だが、高くはない。

「あれなら、落とせるな」

オゴデイが言った。

「ああ」

チンギスが頷いた。

「包囲しろ」


カシュガルの守将、ハサンが報告を受けた。

「モンゴル軍が来た?」

「はい」

「数は?」

「八万です」

「...!」

ハサンが青ざめた。

「八万だと?」

「我らは、五千しかいない」

ハサンの副官、アリが言った。

「守将、どうしますか?」

「...籠城だ」

ハサンが答えた。

「援軍を、呼ぶ」


数日後。

モンゴル軍は、カシュガルを包囲した。

だが。

チンギスは、攻めなかった。

「使者を送れ」

チンギスが命じた。

「降伏を勧める」

「はっ」

アーチャイが使者として城に向かった。

無口な戦士だが、外交もこなす。

「開門しろ」

アーチャイが叫んだ。

「チンギス・ハンからの使者だ」

城門が、少し開いた。

ハサンが、城壁の上から見ている。

「何の用だ」

「降伏しろ」

アーチャイが言った。

「そうすれば、命は助ける」

「断る」

ハサンが答えた。

「我らは、西遼に仕えている」

「裏切れない」

「そうか」

アーチャイが頷いた。

「ならば、攻める」

アーチャイが戻った。


翌日。

モンゴル軍の攻撃が始まった。

投石機が、石を放つ。

城壁に、次々と当たる。

「くっ...」

ハサンが歯噛みした。

「守れ!」

兵たちが、必死に城壁を守る。

だが。

城壁が、崩れ始めた。

「守将!」

アリが叫んだ。

「城壁が持ちません!」

「...」

ハサンは、決断した。

「降伏する」

「...!」

「もう、無理だ」

ハサンが白旗を掲げた。


モンゴル軍が、カシュガルに入った。

チンギスが、ハサンの前に立った。

「よく決断した」

チンギスが言った。

「お前の命は、助ける」

「...ありがとうございます」

ハサンが頭を下げた。

「だが」

チンギスが続けた。

「兵は、解散だ」

「武器を捨てて、家に帰れ」

ハサンが顔を上げた。

「本当ですか?」

「ああ」

チンギスが頷いた。

「俺は、嘘をつかない」

ハサンの兵たちは、武器を捨てて街に帰った。

モンゴル軍は、略奪しなかった。

民衆は、驚いた。

「モンゴル軍は...優しいのか?」


遼舜は、この様子を記録した。

「カシュガル、無血開城」

「チンギス、降伏した者を許す」

遼舜は、思った。

(チンギスは、賢い)

(恐怖だけでなく、寛容も示す)

(だから、人がついてくる)


西遼。

虎思斡耳朶。

耶律直魯古が、報告を受けた。

「カシュガルが、陥落した?」

「はい」

楊安仁が答えた。

「モンゴルに」

「...」

耶律直魯古は、黙った。

「グチュルクを呼べ」

「はい」


グチュルクが、玉座の前に立った。

「陛下」

「グチュルク」

耶律直魯古が言った。

「カシュガルが落ちた」

「存じております」

「次は、どこが狙われると思う?」

「...おそらく、バラサグンです」

グチュルクが答えた。

「西遼の第二の都市」

「そこを落とせば、モンゴルは虎思斡耳朶に迫れます」

「ならば」

耶律直魯古が命じた。

「バラサグンを、守れ」

「...!」

「全軍を率いて、バラサグンに向かえ」

「承知しました」

グチュルクが頭を下げた。

だが。

その目には、野心が光っていた。

楊安仁は、それを見ていた。

(グチュルク...)

(何を企んでいる)


数日後。

グチュルクは、七万の軍を率いてバラサグンに向かった。

ブラクが、横を走っている。

「将軍」

「うむ」

「本当に、バラサグンを守るのですか?」

「...」

グチュルクは、黙った。

そして。

「ブラク」

「はい」

「俺は、チャンスを待っていた」

グチュルクが言った。

「耶律直魯古に仕えるふりをして」

「本当の目的を、隠していた」

「本当の目的...?」

「西遼を、奪う」

「...!」

ブラクが驚いた。

「将軍、それは...」

「耶律直魯古は、老いた」

グチュルクが笑った。

「もう、力がない」

「俺が、西遼の皇帝になる」

「そして、モンゴルと戦う」

ブラクは、震えた。

だが。

「...承知しました」

ブラクが頭を下げた。

「私は、将軍についていきます」


1216年の夏は、終わろうとしていた。

モンゴルは、カシュガルを手に入れた。

次の標的は、バラサグン。

だが。

西遼内部で、陰謀が動き始めていた。

グチュルクの野心が、表に出ようとしていた。

遼舜は、記録を続けた。

歴史の証人として。

草原の風が、西へ吹いていた。

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