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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
臥竜、雲を掴む
4/21

Ⅲ 息子たちと馬選び

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

息子たちが顔をあげ、紹介が始まった。

「この子は長男のジョチだ。勇猛なやつだが、頭はいいのか悪いのかわからん。」

テムジンがかなり雑な紹介をする。確か伝記ではチンギスカンの息子であるか若干怪しいと書いてあった。なんとなく次男らしき男との関係性が悪そうである。テムジンとも微妙そうな雰囲気が伝わった。ジョチ本人も喋らず無口そうだったが、戦いになると猛々しくなりそうな気を秘めているような感じがする。


―――――――――――

【作者注: ジョチの出生について】

初の世界史を書いた「集史」によると、ジョチが母のボルテの腹の中にいたとき、まだ弱小勢力だった頃のチンギス・カンことテムジンの幕営が、モンゴル部と敵対するメルキト部族の君主トクトア・ベキ率いる軍勢によって襲撃される事件がありました。

メルキト部族に連行された時、ボルテは既にテムジンの子を身籠っていたといいます。テムジンの同盟者であるケレイトのトオリルがメルキト側と交渉してボルテを取り戻し、トオリルはテムジンを自らの「息子」と称して尊重していたため、彼女を鄭重に保護してテムジンのもとへ送り戻したそうです。ケレイトからテムジンの居る幕営地までの旅中で生まれた男子だったので、「旅客」を意味するジョチという名を与えられたのだということです。次男のチャガタイとは特に仲が悪く、テムジンとも微妙な関係だったそう。

本作では史実に基づき、ジョチとチャガタイの確執を描きます。

―――――――――――


「この子が次男のチャガタイだ。決まりごとに厳しいが、根はいいやつだ。」

「よろしく。」

また雑な紹介である。人を紹介するのが得意ではないのだあろうか。

チャガタイをじっくりと観察すると、父親から信頼されていそうな厳格さを持っていそうだが、激しさと一本気で筋を通さないと気が済まないような感じがした。

「この子たちは三男のオゴデイと末っ子のトルイだ。2人ともまだ若いが、よく働いてくれる。」

「父上、なぜ私をトルイと一緒に紹介するのですか。私はもう18ですよ。」

「すまんすまん。つい一緒に遊んでいた時を思い出してな。」

オゴデイが抗議してテムジンが謝っていた。こんな言い合いをするのだから意外と仲はいいのかもしれない。

オゴデイからは根が優しそうで何となくみんなに好かれそうだという雰囲気を感じる。テムジンのような英明さとはまた違う感じである。

トルイの方はまだ幼そうで、12歳ごろで家族に可愛がられていそうな感じである。唯一舜よりも年下である。

「で、父上はなぜ我々をこんな漢人に紹介させたのですか。」チャガタイが少し不機嫌そうに言った。

「それは舜が明日から従者として俺についてもらうからだ。」テムジンが言った。

「明日から、、ですか?」一堂が驚いた

「ああ、こいつは俺の元で働かせて様子を見てみる。有能そうなら使い、能がなければ送り返すだけだ。」

テムジンが急に怖いことを言う。正直ここより砂漠を渡って漢土に行く方が怖いから居させてもらおうと思っていたのだが、どうやら働かなくてはなりそうである。

「何をすれば宜しいのでしょうか。」舜は勇気を出して聞いた。

「まあ今はまだ真ん中の方しか支配下にないから、とりあえず俺の従者として色々下働きに使うつもりだ。」

何となく忙しそうではあるが日本でずっと勉強していた時よりも楽しそうであり、舜は期待に胸を膨らませた。

「待ってください、南のケレイトとか東の金国から送られた間者なのかもしれません。明日から使うのは少し時期尚早ではありませんか。」

言葉は丁寧だが、覇気を全身から滲み出させたチャガタイが制止した。

「大丈夫だ。もしわしを殺したり、向こうが得するような真似をしたら、やり返すだけだ。ま、こんな痩せ細った漢人がそんなことをするわけがないから大丈夫だ。」テムジンが自信ありげに言う。この人はいつも自信に満ち溢れていて少し羨ましいと思った。

「やり返すとは具体的に何をなさるのですか。」チャガタイが一応確認のためか聞いた。

「そりゃ、貴人の例で処して送り返すだけだろう。容赦はしない。」テムジンが急に怒ったように言った。

貴人の例、、、?よくわからないが多分真面目に働けば大丈夫そうだ。

「まあ、明日からよろしくお願いします。」

舜は一堂からの戸惑いと歓迎が入り交じった視線を浴びつつ、とりあえず礼した。

「よし、その意気だ。今日は飯を食ってここら辺を案内してもらったら寝て、明日から働け。」

テムジンは長く説明するのを嫌うのかもしれない。言葉の端々がめんどくさそうである。

「ありがとうございます。」

舜は感謝し、また箸に手をつけた。さっきからとてもお腹が減っていたし、途中で止められた目の前の食事に今すぐ飛びつきたかったが我慢していたのだ。

さっき言っていたホルホッグに箸を動かし、切って口に運んだ。味付けは塩だけなのか、肉だけのシンプルなおいしさである。


とりとめもない世間話や草原の説明などをしてご飯が終わった。チャガタイからは微妙な警戒感を感じたが、他の家族はまあ普通に接してくれたから仲良くなれそうである。

「あ、ここの紹介はトルイにさせよう。2人とも歳が近いからな。」テムジンが紹介を命じた。

「わかった。ついでに狩も行っていいかな?」トルイが答え、追加でお願いしている。

「まあ、少しだけならいいが、舜もそんなに馬は上手くないから気遣ってあげろよ。」

「はーい。よし、舜、早く行こう!」

トルイが1人でさっさとゲルから行ってしまったから追いかけた。背は舜と同じくらいだが、まだまだ中身は子供のようだ。

「厩に行って舜の馬を選ぼう。きっといい馬が見つかるよ。」追いついたがトルイが走っていく。やはり速いので息を切らして舜は息を切らして、後を追いかけた。

「お兄さん、ここだよー」紹介はしなくて大丈夫なのかと思ったが、まあ住むうちにわかるだろう。

「ふー。君は走るのが速いね。」舜が褒めた。

「そう?お兄さんたちに比べたらまだまだ遅いよ。」

「そうなんだ。あ、馬がいっぱいいるね。」

「ここは馬を育てたり走らせたりするところだよ。」トルイが教えてくれる。

「へー。意外と大きいけど見た感じおとなしいんだね。」

「ささ、早く選んで。」トルイに急かされ、舜はそこにいた10頭ほどのバラバラにいる馬を眺めた。

ちょうどいい感じの一頭が見つかり、舜は近づいてみた。

やはり大きい。しかし、なぜか敵意は感じず、背中をゆっくりと撫でてみた。くすぐったいようにたてがみを震わせた。

「よろしくな。」舜が言った。

応じるようにこちらを向き、鼻を擦り付けてきた。

「トルイ。これにするよ。」

他の馬と触れ合っていたトルイがこちらを向き、微笑んだ。

「決まったのか。馬には乗れるっけ?」

「あぁ、少しはな。」とはいうものの、さっきテムジンに乗せてもらった一回しかない。

「じゃ、乗ってあっちに戻ろう。」

促され、左手で手綱と馬のたてがみをつかむ。左足を鐙にかけ、右手で鞍を掴み、体を持ち上げ、鞍に座った。右足も鎧へかけ、乗馬した。

「なかなかやるね。さ、早くいこう。」

他の馬に軽々と飛び乗ったトルイに促され、馬を常歩(なみあし)で歩かせた。腰が前後に揺れるが思っていたより振動はなかった。


常歩でもすぐにゲルにつき、テムジンとボルテに迎えられた。他の息子たちもどこかに行ってしまったようだ。

「舜、馬を選んだようだな。」テムジンがなぜか真面目な顔をしている。

「そうですが、どうかされましたか。」

「実はお前にやって欲しいことがあるのだ。」

「できることであれば、なんでもして差し上げますが。」舜は困惑しながらもひとまず答えた。

「舜。お前は字が読めるか?」

「はい、多少は」

「ならば頼みたいことがある。我が一族、いやこのモンゴル族の歴史を書き記してほしい」

テムジンの目がほんの一瞬だけ燃えたように見えた。だが舜は怯まず、問いかけた。

「...なぜ私に?」

「お前は漢人だ。文を書くことに長けているだろう。それに...」

テムジンは少し視線を逸らした。

「私は字が読めん。だからこそ、信頼できる者に任せたい」

舜は黙った。前の世界では歴史が大好きだった。特に中国史。モンゴルも少しは知っていたが、まさか本物の歴史を目撃できるなんて...!

嬉しいことには違いないが、、、、

史書編纂。それは砂漠の向こうの漢土ではまるで国家事業のようにすることだ。

そんな役を自分のような子供が...

だが、テムジンの目は本気だった。

この人は、本当に自分を信じてくれている。

「お願いだ。私も20、30年後には生きていない。できれば私が初めてあった漢人のそなたに歴史を見てほしい」

舜の胸が熱くなった。

(この人は...自分の命が限られていることを知っている。だからこそ、記録を残したいんだ)

「わかりました。しかし、やるからにはたくさん教えてくれるのでしょうね?」

舜は覚悟を決め、質問した。

「もちろん、私の全責任を持ってやってもらうからできる限り支援はする。従者として傍で見ながら、我が偉業を(つぶさ)に見て、書いて貰えばいい」

「臣、舜。大役を仰せつかります」

舜は深く頭を下げた。

テムジンは満足そうに頷いた。

「まあ、そんな改まらなくともいいがな」

二人の間に、不思議な信頼関係が生まれた瞬間だった。

「そうだな、まずは我が生涯、いや偉大なる我が父、イエスゲィ・バートルについて語ろう。」

テムジンが座り、傍にいるボルテが少し肩を震わせた。





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