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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
建国紀

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34/39

Ⅷ 反攻

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

休止から更新再開しました!

1211年、冬。

アウラガに戻って数ヶ月が経った。

星歌は、最近体調が優れなかった。

朝、目が覚めると吐き気がする。

「また...」

ゲルの外で、星歌が吐いた。

舜が背中をさすった。

「大丈夫か?」

「うん...ちょっと気持ち悪いだけ」

星歌が顔を上げた。

「最近、よくこうなるね」

舜は、少し考えた。

そして、気づいた。

「星歌...もしかして」

「え?」

二人は、顔を見合わせた。


数日後。

星歌は、草原の老婆に診てもらった。

モンゴルの産婆だ。

「うむ」

老婆が頷いた。

「間違いない。子を宿している」

「...!」

星歌が目を見開いた。

舜も、言葉を失った。

「おめでとう」

老婆が笑った。

「春には、生まれるだろう」


ゲルに戻った。

二人は、しばらく黙っていた。

「子供...」

星歌が呟いた。

「俺たちに...」

舜も信じられない様子だった。

「どうしよう」

「...分からない」

舜が正直に答えた。

「でも」

舜が星歌の手を握った。

「嬉しい」

「うん」

星歌が涙を流した。

「私も」

二人は、抱き合った。


その夜。

舜は一人、外に出た。

空には、星が無数に輝いている。

(子供か...)

舜は、まだ実感が湧かなかった。

(俺が、父親になる)

(この草原で)

舜は、緑の本のことを思い出した。

(俺たちは、いつ帰れるんだろう)

(それとも、もう帰れないのか)

だが。

(子供が生まれるなら)

(ここで、生きていくしかない)

舜は、覚悟を決めた。


翌朝。

舜は、チンギスに報告した。

「殿」

「うむ」

「星歌が、子を宿しました」

チンギスの顔が、ほころんだ。

「そうか!それは、めでたい!」

「ありがとうございます」

「子が生まれるまで、星歌は後方にいろ」

チンギスが命じた。

「戦場には連れて行かん」

「はい」

「舜、お前はどうする?」

「俺は...」

舜は迷った。

だが。

「戦場に行きます」

「そうか」

チンギスが頷いた。

「記録者としての務めだな」

「はい」

「分かった。だが、無理はするな」

「承知しました」


同じ頃。

金。中都。

宮廷では、激しい議論が交わされていた。

「モンゴルが、また来る!」

「今度こそ、迎え撃たねば!」

大臣たちが叫んでいる。

章宗は、疲れた顔をしていた。

「...どうすればいい」

「陛下」

完顔遠理が前に出た。

「私に、軍を預けてください」

「お前に...?」

「はい」

完顔遠理が頭を下げた。

「私は、モンゴルと戦った経験があります」

「野戦では、確かに奴らが上です」

「ですが」

完顔遠理が顔を上げた。

「城を利用すれば、勝機はあります」

章宗は、迷った。

「...分かった」

「お前に任せる」

「はっ!」


完顔遠理は、すぐに動いた。

「耶律楚材」

「はい」

「兵站の準備を頼む」

「承知しました」

二人は、密かに準備してきた。

その成果を、今こそ発揮する時が来た。


完顔遠理は、主要な城に兵を配置した。

「中都には、七万」

中都——かつて遼が燕京と呼んだこの都を、金は占領後に改称し、今は金王朝の首都としている。開封府はさらに南にある副都だ。

「居庸関には、五万」

地図に印をつけていく。

「モンゴルは、城攻めが苦手だ」

「ならば、城に籠もって消耗させる」

耶律楚材が頷いた。

「同時に、遊撃隊を編成しましょう」

「遊撃隊?」

「はい。モンゴル軍の補給線を襲うのです」

「...なるほど」

完顔遠理が笑った。

「お前も、戦が分かってきたな」

「遠理殿に学びました」

二人は、作戦を練り上げていった。


数週間後。

完顔遠理は、将軍たちを集めた。

「諸君」

完顔遠理が地図を広げた。

「モンゴルは、来年また来る」

「だが、今度は違う」

「我らは、準備ができている」

将軍たちが、真剣な顔で聞いている。

「城に籠もり、守りを固める」

「同時に、遊撃隊で補給線を断つ」

「モンゴルは、遠征軍だ。補給が命だ」

「それを断てば、奴らは撤退せざるを得ない」

「おお...」

将軍たちが感心した。

「各自、持ち場に戻れ」

「そして、備えよ」

「はっ!」


耶律楚材の執務室。

耶律楚材は、膨大な書類と格闘していた。

「食料、五万人分、三ヶ月」

「矢、十万本」

「馬、予備を含めて一万頭」

全てを計算し、記録していく。

「楚材殿」

部下が入ってきた。

「何だ」

「居庸関からの報告です。備蓄が完了しました」

「そうか」

耶律楚材が頷いた。

「次は燕京だ。急がせろ」

「はっ」


その夜。

耶律楚材は、窓の外を見ていた。

月が、中都を照らしている。

(モンゴル...)

耶律楚材は、過去を思い出した。

祖先は、遼の皇族。

遼は、金に滅ぼされた。

だが、今。

耶律楚材は、金のために働いている。

(皮肉なものだ)

だが。

(この国を、守らねば)

耶律楚材は、拳を握った。

(モンゴルに、負けるわけにはいかない)


1212年、春。

モンゴル軍が、再び金に侵攻した。

今度は、八万の軍勢だった。

「殿」

ボオルチュが報告した。

「金軍の動きが、違います」

「どう違う?」

「城に籠もって、出てきません」

チンギスは、眉をひそめた。

「...策を変えてきたな」

「どうしますか?」

「まずは、様子を見る」

チンギスが命じた。

「城を包囲しろ。だが、無理に攻めるな」

「はっ」


居庸関。

モンゴル軍が、城を包囲した。

だが、城門は固く閉ざされている。

「出てこないな」

ジェベが言った。

「ああ」

ジョチが頷いた。

「去年とは違う」

「どうする?」

「分からん。殿の命令を待つ」


その夜。

モンゴルの陣営に、異変が起きた。

「火だ!」

「補給物資が燃えている!」

兵たちが慌てて消火に走る。

「敵襲か!?」

「いや、姿が見えん!」

混乱の中、黒い影が消えていった。


翌朝。

チンギスに報告が上がった。

「補給物資の三割が、焼失しました」

「犯人は?」

「分かりません。夜闇に紛れて...」

チンギスは、考え込んだ。

「...遊撃隊か」

「遊撃隊?」

「金が、策を変えてきた」

チンギスが立ち上がった。

「城に籠もるだけではない。補給線を狙ってきている」

ボオルチュが頷いた。

「なるほど...厄介ですね」

「ああ」

チンギスが地図を見た。

「相手も、学んでいる」


舜は、この状況を記録していた。

「金軍、籠城策を採用」

「遊撃隊による補給線攻撃」

「モンゴル軍、苦戦」

(金が、変わってきた)

舜は、感じていた。

(去年とは違う)

(誰かが、指揮を執っている)


中都。

完顔遠理が、報告を受けていた。

「居庸関、包囲されていますが持ちこたえています」

「補給線攻撃も、成功しています」

「そうか」

完顔遠理が頷いた。

「このまま続けろ」

「はっ」

耶律楚材が入ってきた。

「完顔殿」

「うむ」

「うまくいっていますね」

「ああ。だが、まだ油断はできん」

完顔遠理が地図を見た。

「モンゴルは、必ず対策を立ててくる」

「その時が、本当の勝負だ」


アウラガ。

星歌は、ゲルで休んでいた。

お腹が、少し膨らんできている。

(もう三ヶ月か...)

星歌は、お腹をさすった。

(舜、大丈夫かな)

戦場にいる舜のことを思う。

(無事に、帰ってきてね)


戦場。

舜は、チンギスの側にいた。

「殿」

「うむ」

「金の守将は、誰でしょうか」

「分からん。だが」

チンギスが舜を見た。

「優秀な奴だ」

「調べられますか?」

「七星を使え」

「承知しました」


数日後。

一星が報告に来た。

「金軍を指揮しているのは、完顔遠理という将軍です」

「完顔遠理...」

舜が記録を見た。

「いました。去年の野戦で、南宋を破った将軍です」

「ほう」

チンギスが興味を示した。

「有能な男だな」

「はい。そして」

一星が続けた。

「兵站を統べているのは、耶律楚材という文官です」

「耶律楚材...」

舜が記録を辿った。

「遼の皇族の末裔。学識が高く、行政に優れているとあります」

「なるほど」

チンギスが笑った。

「武と文、両方揃っているわけか」

「厄介ですね」

ボオルチュが言った。

「ああ」

チンギスが頷いた。

「だが、面白い」


チンギスは、作戦を変更した。

「城攻めは諦める」

「では?」

「迂回する」

チンギスが地図を指差した。

「城を避けて、内陸部に進む」

「そして、農地を荒らす」

「...!」

将軍たちが理解した。

「食料を断つのですか」

「そうだ。城は堅い。ならば、城を支える基盤を崩す」

「農地を荒らせば、来年の収穫はない」

「金は、食料不足になる」

チンギスの冷徹な戦略だった。


モンゴル軍は、城を迂回して内陸部へ進んだ。

畑が、次々と焼かれていく。

村が、襲われる。

「やめろ!」

農民たちが叫ぶ。

だが、モンゴル兵は容赦しなかった。

舜は、その光景を見て、胸が痛んだ。

(これが、戦か)

(兵士だけじゃない)

(民も、苦しむ)


中都。

完顔遠理が、報告を受けた。

「内陸部が、荒らされています」

「...!」

完顔遠理が歯噛みした。

「畜生...そう来たか」

耶律楚材も、顔色を変えた。

「これでは、来年の収穫が...」

「ああ」

完顔遠理が拳を握った。

「城を守っても、意味がない」

「どうしますか?」

「...出るしかない」

完顔遠理が立ち上がった。

「野戦で、モンゴルを追い払う」

「ですが、野戦では...」

「分かっている」

完顔遠理が剣を取った。

「だが、やるしかない」


数日後。

金軍、四万が城を出た。

完顔遠理が、自ら指揮を執る。

「諸君」

完顔遠理が兵たちを見回した。

「モンゴルは強い。だが、我らも負けていない」

「故郷を、家族を、守るために戦え!」

「おおおおお!」

兵たちが叫んだ。


野戦場。

両軍が対峙した。

モンゴル八万。

金四万。

「来たな」

チンギスが笑った。

「予想通りだ」

「殿」

スブタイが前に出た。

「私に、任せてください」

「いや」

チンギスが首を振った。

「今回は、俺が行く」

「殿がですか」

「ああ」

チンギスが馬に乗った。

「相手は、有能な将だ」

「敬意を示す」


戦いが、始まった。

金の重騎兵が、突撃する。

モンゴル軍は、両翼に展開した。

そして。

矢の雨が降り注いだ。

「ぐあっ!」

金兵が倒れる。

だが。

完顔遠理は、冷静だった。

「怯むな!突破しろ!」

金軍は、モンゴルの中央に迫った。


チンギス自らが、剣を抜いた。

「来い!」

金の騎兵と、激突する。

剣と剣が、火花を散らす。

チンギスの剣が、敵を斬った。

「殿が、戦っている!」

「続け!」

モンゴル兵の士気が上がった。


だが。

完顔遠理も、負けていなかった。

「押せ!押し切れ!」

金軍は、必死に戦った。

故郷のために。

家族のために。


戦いは、日が暮れるまで続いた。

そして。

両軍とも、撤退した。

引き分けだった。


モンゴルの陣営。

チンギスは、傷を負っていた。

「殿!」

ボオルチュが駆け寄った。

「大丈夫だ。かすり傷だ」

チンギスが笑った。

「だが、金軍は強かった」

「完顔遠理...見事な将だ」

舜は、横で記録を取りながら思った。

(金も、本気で戦い始めた)

(これから、もっと激しくなる)


中都。

完顔遠理も、傷だらけで戻ってきた。

「よく戻った」

耶律楚材が出迎えた。

「ああ...」

完顔遠理が倒れ込んだ。

「チンギス・ハン...恐ろしい男だ」

「自ら、剣を振るっていた」

「...!」

「だが」

完顔遠理が笑った。

「互角だった」

「我らも、やれる」

耶律楚材が頷いた。

「はい。次こそ、勝ちましょう」


1212年の戦いは、引き分けで終わった。

モンゴルは、賠償金を取って撤退した。

金は、辛うじて持ちこたえた。

だが。

両者とも分かっていた。

次の戦いが、本当の勝負になると。

舜は、記録を閉じた。

(金が、変わった。完顔遠理と耶律楚材の二人が、金を支えている)

そして。

(俺も、父親になる。この戦いの行方を、見届けなければ)

舜は、決意を新たにした。

草原に、冬が訪れようとしていた。

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