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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
建国紀

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33/39

Ⅶ 奔流

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

別シリーズを完結させて安堵してたので、遅れました。

重ねて申し訳ありません。

1211年、春。

雪解けが始まった。

草原に緑が戻り始める。

そして、戦の季節が来た。


---

オノン川のほとり。

十万の軍が集結していた。

モンゴル史上、最大の軍勢だった。

舜は、その光景を見て息を呑んだ。

「夥しい数だ…」

星歌も、言葉を失っていた。

見渡す限り、兵と馬。

旗が風にはためいている。

「これが、十万...」

舜が呟いた。

「十分すぎるよ」

星歌が答えた。


---

中央の天幕。

チンギスが、将軍たちを集めていた。

「諸君」

チンギスが地図を広げた。

金の領土が描かれている。

「この戦は、長くなる」

「一年では終わらない。二年、三年、いや、それ以上かかるかもしれない」

将軍たちは黙って聞いている。

「だが、必ず勝つ」

チンギスの目が光った。

「金は強大だ。城は堅い。兵は多い」

「だが、奴らには弱点がある」

ボオルチュが前に出た。

「城に頼りすぎている」

「我らは草原の民だ。機動力がある」

ムカリが続けた。

「城を避け、野戦で戦えばいい」

「そうだ」

チンギスが頷いた。

「城は後回しだ。まずは野戦で金軍を撃破する」

スブタイが聞いた。

「目標は?」

「中都・燕京だ」

チンギスが地図の一点を指した。

「金の首都を脅かす。そうすれば、奴らは動揺する」

「ですが、中都は堅固です」

ジェベが言った。

「落とせるかどうか...」

「落とさなくていい」

チンギスが笑った。

「包囲するだけで十分だ」

「...!」

将軍たちが理解した。

「中都を包囲すれば、金は講和を求めてくる」

「そこで、賠償金を取る」

「それを繰り返せば、金は疲弊する」

チンギスの戦略が明かされた。

舜は横で記録を取りながら、感心していた。

(最初から滅ぼすつもりじゃない)

(消耗戦で、じわじわと追い詰める)


---

「軍を三つに分ける」

チンギスが続けた。

「右翼は、ジョチとジェベ」

「はっ」

二人が頷いた。

「左翼は、チャガタイとスブタイ」

「はっ」

「中央は、俺とオゴデイとムカリ」

「はっ」

「ボオルチュは後方で兵站を統べろ」

「承知しました」

「舜と星歌も、ボオルチュと共に」

「はい」

舜と星歌が答えた。

「出陣は明日だ」

チンギスが立ち上がった。

「今夜は休め。明日から、長い戦いが始まる」

「はっ!」

全員が一斉に答えた。


---

その夜。

舜と星歌は、二人でオノン川を見ていた。

月が、水面に映っている。

「明日から...」

星歌が呟いた。

「うん」

舜が頷いた。

「怖い?」

「...正直、怖い」

舜が答えた。

「俺たちは戦わない。でも、戦場には行く」

「人が死ぬところを、見ることになる」

「...」

「でも」

舜が星歌を見た。

「俺たちの役目だから」

「うん」

星歌が頷いた。

「記録者として」

「歴史の証人として」

二人は、しばらく黙っていた。

「舜」

「うん」

「怖くても、一緒にいれば大丈夫だよね」

「ああ」

舜が星歌の手を握った。

「一緒だから、大丈夫」


---

翌朝。

十万の軍が、南へ向けて進軍を始めた。

馬蹄の音が、大地を震わせる。

旗が、風にはためく。

舜と星歌は、ボオルチュの部隊と共に進んだ。

「始まったな」

ボオルチュが呟いた。

「はい」

舜が答えた。

「金との戦が」

「ああ」

ボオルチュが前を見た。

「長い戦いになる」

「俺たちは、それを支える」

タリゲーンとアーチャイも、側にいた。

「舜殿、星歌殿」

タリゲーンが言った。

「後方とはいえ、危険はあります」

「気をつけてください」

アーチャイが続けた。

「はい」

二人が頷いた。


---

数日後。

モンゴル軍は、金の国境を越えた。

見張りの砦が見える。

「敵だ!」

金兵が叫んだ。

だが、遅かった。

ジェベの矢が、彼を射抜いた。

「突破する!」

ジョチが叫んだ。

右翼軍が、砦を蹂躙した。


---

報告が、中都に届いた。

「モンゴル軍が侵入しました!」

伝令が叫んだ。

「数は!」

将軍が聞いた。

「十万と...!」

宮廷がざわついた。

「十万だと!?」

「草原の部族が、そんな大軍を...」

章宗は、顔色を変えた。

「すぐに軍を出せ!」

「はっ!」


---

金軍、五万が出陣した。

将軍は、完顔承裕。

熟練の武将だ。

「モンゴルなど、恐れるに足らん」

完顔承裕が言った。

「草原の野蛮人だ。我らの騎兵で蹴散らせばいい」

だが。

完顔遠理は、不安だった。

(十万...本当か?)

(もし本当なら、これは...)


---

野戦場。

両軍が対峙した。

モンゴル十万。

金五万。

「突撃!」

完顔承裕が命じた。

金の騎兵が駆けた。

重装騎兵。

鎧に身を包んだ馬と兵。

大地が震える。

「来たな」

チンギスが冷静に言った。

「スブタイ」

「はっ」

「両翼から回り込め」

「承知」

スブタイが駆けた。


---

金の騎兵が、モンゴルの中央に突っ込んだ。

だが。

モンゴル軍は、すぐに避けた。

「なに!?」

完顔承裕が驚いた。

その瞬間。

両翼から、モンゴル軍が襲いかかった。

矢の雨。

「ぐあっ!」

金兵が次々と倒れる。

「包囲されている!」

「退け!退け!」

完顔承裕が叫んだ。

だが、遅かった。


---

日が暮れる頃。

金軍は壊滅していた。

五万のうち、三万が死傷した。

完顔承裕は、わずかな兵と共に逃げた。


---

モンゴル軍の本陣。

舜と星歌は、負傷兵の手当てを手伝っていた。

「痛い...」

兵が呻いている。

星歌が傷口を洗い、布で縛る。

「大丈夫。もう少しの我慢」

舜は、戦果の記録を取っていた。

「金軍、五万のうち三万が死傷」

「モンゴル軍の損害は、千程度」

圧倒的な勝利だった。

だが。

舜は複雑な気持ちだった。

(三万人が、死んだ)

(俺の情報が、これを可能にした)

「舜」

ボオルチュが来た。

「殿が呼んでいる」

「はい」

舜は、チンギスの天幕に向かった。


---

「舜」

チンギスが笑顔で迎えた。

「大勝利だ」

「...おめでとうございます」

「お前の情報のおかげだ」

チンギスが舜の肩を叩いた。

「完顔承裕の性格、金軍の戦術。全てお前が教えてくれた」

「...」

「どうした?浮かない顔だな」

チンギスが舜を見た。

舜は、迷った。

だが、正直に言った。

「...三万人が、死にました」

「そうだな」

「俺の情報が、それを...」

「舜」

チンギスが遮った。

「お前のせいではない」

「ですが...」

「戦は、人が死ぬ」

チンギスが窓の外を見た。

「それは、避けられない」

「だが、お前の情報が、モンゴル兵の命を救った」

「...」

「もしお前の情報がなければ、モンゴル兵も多く死んでいた」

チンギスが舜を見た。

「お前は、仲間を救ったんだ」

舜は、黙った。

だが、少し楽になった。

「ありがとうございます」

「礼はいらん」

チンギスが笑った。

「それより、次の作戦を考えろ」

「はい」


---

その夜。

舜はゲルで、星歌と話していた。

「大丈夫?」

星歌が心配そうに聞いた。

「...うん」

舜が頷いた。

「考えすぎてた」

「そう」

星歌が舜の手を握った。

「私も、最初は怖かった」

「負傷兵の手当てをして、傷を見て」

「でも」

星歌が舜を見た。

「私がやらなきゃ、この人は死ぬって思ったら」

「怖くても、やれた」

「...」

「舜も同じだよ」

星歌が微笑んだ。

「舜の情報が、モンゴルの兵を救ってる」

「うん」

舜が頷いた。

「そうだよね」


---

中都。

完顔承裕が、敗北の報告をしていた。

「十万のモンゴル軍に、包囲されました」

「我が軍は、壊滅です」

章宗は、青ざめていた。

「なんだと...」

「陛下」

完顔遠理が前に出た。

「すぐに、援軍を」

「ま、待て」

章宗が震えている。

「本当に、十万もいるのか?」

「間違いありません」

完顔承裕が答えた。

「原野を覆い尽くすほどの大軍でした」

章宗は、立ち上がれなかった。


---

別室。

耶律楚材と完顔遠理が話していた。

「来ましたね」

耶律楚材が言った。

「ええ」

完顔遠理が頷いた。

「予想より早い」

「そして、強い」

「我らだけでも、動きましょう」

「はい」

二人は、密かに軍に加え、もっと詳細に情報を集め始めた。


---

モンゴル軍は、さらに南下した。

城を避け、野を駆ける。

金軍が迎撃に出れば、包囲して撃破する。

城に籠もれば、無視して進む。

「殿の戦い方は、見事だな」

ボオルチュが舜に言った。

「城を攻めない」

「ええ」

舜が頷いた。

「時間がかかりますが、確実です」

「金は、城に頼りすぎている」

「野戦では、モンゴルに勝てない」

ボオルチュが笑った。

「お前も、戦が分かってきたな」


---

数週間後。

モンゴル軍は、中都の近くまで迫った。

「見えたぞ」

チンギスが言った。

「中都だ」

巨大な城壁が見える。

高さは人六人分以上。

「あれを...攻めるのですか?」

オゴデイが聞いた。

「いや」

チンギスが首を振った。

「包囲するだけだ」

「包囲...?」

「ああ。城を囲んで、物資を断つ」

「そうすれば、金は講和を求めてくる」

チンギスが笑った。

「焦る必要はない」


---

モンゴル軍は、中都を包囲した。

城内は、混乱した。

「モンゴル軍が!」

「十万の大軍が、城を囲んでいる!」

章宗は、震えていた。

「ど、どうすれば...」

「陛下」

宰相が前に出た。

「講和を求めましょう」

「こ、講和...?」

「はい。賠償金を払い、撤退してもらうのです」

章宗は、迷った。

だが、他に選択肢がなかった。

「...分かった」

「講和の使者を送れ」


---

数日後。

金の使者が、モンゴルの陣営に来た。

「チンギス様」

使者が頭を下げた。

「我が陛下より、講和の申し出です」

「ほう」

チンギスが笑った。

「条件は?」

「賠償金、金千斤、絹一万匹」

「そして、馬三千頭」

チンギスは、しばらく考えた。

そして、頷いた。

「よかろう」

「!」

使者が驚いた。

「本当ですか?」

「ああ。だが」

チンギスが続けた。

「これは、一時的な講和だ」

「...え?」

「また来る。覚悟しておけ」

チンギスが不敵に笑った。


---

モンゴル軍は、賠償金を受け取って撤退した。

中都は、歓声に包まれた。

「勝った!」

「モンゴル軍が退いた!」

だが。

耶律楚材と完顔遠理は、喜んでいなかった。

「これは...一時的な撤退だ」

「ええ」

「また来る」

「その時こそ、本当の戦いになる」

二人は、準備を続けた。


---

草原に戻る道中。

舜と星歌は、馬に乗っていた。

「終わったね」

星歌が言った。

「一応は」

舜が答えた。

「でも、また来年も戦がある」

「うん...」

二人は、黙った。

「舜」

「うん」

「私たち、いつまでここにいるんだろう」

「...分からない」

舜が正直に答えた。

「緑の本が、俺たちをここに連れてきた」

「でも、いつ帰れるかは...」

「...そっか」

星歌が寂しそうに笑った。

「でも」

舜が星歌を見た。

「帰れなくても、お前がいれば大丈夫」

「舜...」

星歌が顔を赤らめた。

「ありがとう」

二人は、手を繋いで進んだ。


---

アウラガに戻った。

民衆が、出迎えた。

「殿が帰られた!」

「大勝利だ!」

チンギスが手を振る。

兵たちも、笑顔だった。

舜と星歌も、ほっとした。

(とりあえず、無事に帰れた)


---

その夜。

チンギスが、ボオルチュと話していた。

「今回は、様子見だ」

「はい」

「金の強さを、確かめた」

チンギスが地図を見た。

「城は堅い。だが、野戦では勝てる」

「次は?」

「来年、また攻める」

チンギスが笑った。

「そして、再来年も」

「何度も繰り返すのですか」

「ああ。金を疲弊させる」

「そして、いつか」

チンギスの目が光った。

「中都を、落とす」


---

1211年の戦いは、終わった。

だが、これは始まりに過ぎなかった。

金との戦は、これから何年も続く。

舜と星歌は、その全てを見届けることになる。

歴史の証人として。

記録者として。

そして、この時代を生きる者として。

草原の風が、二人を包んだ。

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