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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
建国紀

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32/39

Ⅵ 嵐前

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

少し遅れました。申し訳ありません。

1207年、冬。

西夏を属国とした後、アウラガには束の間の静けさが訪れた。

だが、それは嵐の前の静けさだった。


---

舜は、ゲルの中で地図を広げていた。

金の地図だ。

中都・燕京や開封といった大きな都市が記されている。

「舜」

星歌が入ってきた。

「まだ起きてたの?」

「ああ。金のことを調べてる」

舜が地図を指差した。

「城が多い。西夏とは違う」

「そうだね...」

星歌が隣に座った。

「次の戦は、大きくなる」

「ああ」

舜が頷いた。

「今までとは規模が違う」

二人は黙った。

窓の外では、雪が降っている。

「怖い?」

星歌が聞いた。

「...少し」

舜が正直に答えた。

「俺たちは戦わない。でも、見届けなきゃいけない」

「うん」

星歌が舜の手を握った。

「大丈夫。一緒だから」

舜が微笑んだ。

「ありがとう」


---

翌朝。

チンギスが全将軍を集めた。

「諸君」

チンギスが地図を広げた。

金の地図だ。

「来年ではない。再来年でもない」

チンギスの声が響く。

「三年後だ。1211年、金を攻める」

将軍たちがざわついた。

「三年...?」

スブタイが聞いた。

「そうだ」

チンギスが頷いた。

「金は強大だ。準備が必要だ」

ボオルチュが前に出た。

「この三年で、何をするのですか」

「まず、軍を鍛える」

チンギスが答えた。

「西夏で戦い方は学んだ。だが、金はもっと強い」

「次に、情報を集める」

ボオルチュが続けた。

「金の城、軍、将軍。全てを知る」

「そして」

チンギスの目が光った。

「金を孤立させる」

「孤立...?」

「南宋と金は敵同士だ。我らが金を攻めれば、南宋は喜ぶはずだ」

チンギスが笑った。

「敵の敵は味方だ」

舜は横で記録を取りながら、感心していた。

(外交も考えている...)


---

会議が終わった後。

チンギスが舜を呼んだ。

「舜」

「はい」

「お前に任せたいことがある」

「何でしょうか」

「金の情報をできる限り全て集めろ」

チンギスが真剣な顔をした。

「城の数、兵の数、将軍の名前。全てだ」

「...承知しました」

舜が頷いた。

「ボオルチュの七星を使ってもいい」

「はい」

「三年ある。急ぐな。正確にやれ」

「はい」

舜は、重責を感じた。

だが、同時に。

(俺が、金との戦の準備をする)

(これも、歴史への関与だ)


---

南宋。臨安。

宮廷は混乱していた。

「韓侂胄を処刑しろ!」

大臣たちが叫んでいる。

「北伐の失敗は、全て韓侂胄のせいだ!」

「金に賠償金を払わねばならぬ!」

皇帝・寧宗は困惑していた。

かつて自分を擁立してくれた韓侂胄。

だが、北伐は失敗した。

「...やむを得ぬ」

寧宗が溜息をついた。

「韓侂胄を捕らえよ」


---

数日後。

韓侂胄は処刑された。

その首は、金に送られた。

金への謝罪の印として。

屋敷の一角。

賈似道が微笑んでいた。

「やっと終わったか」

側近が言った。

「これで、我らの時代が来ますね」

「ああ」

賈似道が頷いた。

「韓侂胄は愚かだった。金を甘く見た」

「では、我らは?」

「何もしない」

賈似道が笑った。

「金とは戦わない。友好を保つ」

「ですが、それでは...」

「いいのだ」

賈似道が手を振った。

「我らは生き延びればいい」

側近は何も言えなかった。


---

四川。

呉義が地図を見ていた。

部下が報告に来た。

「韓侂胄が処刑されました」

「そうか」

呉義が頷いた。

「予想通りだな」

「これで、朝廷は混乱します」

「ああ」

呉義が立ち上がった。

「だが、まだ動く時ではない」

「では、いつ?」

「もう少し待つ」

呉義が窓の外を見た。

「朝廷がもっと弱れば、我らが自立する」

「四川に国を、作るのですか」

「そうだ」

呉義が微笑んだ。

「南宋は腐っている。我らだけでも生き延びる」


---

金。中都。

耶律楚材と完顔遠理が、密かに会っていた。

「韓侂胄が処刑されました」

完顔遠理が報告した。

「南宋は当分、動けないでしょう」

「それはいい」

耶律楚材が頷いた。

「だが、問題は北です」

「...モンゴル」

「ええ」

耶律楚材が地図を広げた。

「西夏を属国にした。次は我らです」

「朝廷は、まだ気づいていない」

完顔遠理が拳を握った。

「章宗陛下は、モンゴルを舐めている」

「我らだけでも、備えましょう」

「ですが、勝手に軍を動かせば...」

「構いません」

耶律楚材が真剣な顔をした。

「国が滅びるよりましです」

完顔遠理は黙った。

そして、頷いた。

「...分かりました」

二人は、密かに軍を動かす準備を始めることにした。


---

一方、章宗は。

「南宋が謝罪してきたか」

宮廷で、満足そうに言った。

「韓侂胄の首も送ってきました」

側近が報告する。

「ふむ。南宋も分をわきまえたようだな」

章宗が笑った。

「これで、南は安泰だ」

「陛下、北のモンゴルは...」

「モンゴル?」

章宗が手を振った。

「所詮は草原の部族だ。何も恐れることはない」

側近は何も言えなかった。

耶律楚材と完顔遠理の危機感とは、対照的だった。


---

1208年、春。

アウラガでは、訓練が続いていた。

兵たちが弓を射る。

馬が駆ける。

ケシクの兵士たちが、剣を振るう。

舜と星歌は、その様子を見ていた。

「すごいね」

星歌が呟いた。

「毎日、訓練してる」

「ああ」

舜が頷いた。

「三年後に備えて」

「金は...強いんだよね」

「史実では、モンゴルが勝つ」

舜が答えた。

「でも、簡単じゃない。何年もかかる」

「...」

「俺たちは、それを見届ける」

舜が星歌を見た。

「怖いけど、逃げられない」

「うん」

星歌が頷いた。

「一緒に、見届けよう」

二人は、手を繋いだ。


---

ボオルチュの執務室。

舜が報告に来ていた。

「殿の命令で、金の情報を集めることになりました」

「ああ、聞いている」

ボオルチュが頷いた。

「七星を使ってくれ」

「ありがとうございます」

「一星、二星」

ボオルチュが呼んだ。

頭巾の男たちが現れた。

「舜殿に協力しろ。金の情報を集める」

「はっ」

二人が頷いた。

「舜」

ボオルチュが舜を見た。

「これは重要な任務だ」

「はい」

「お前の情報が、戦の勝敗を決める」

舜は背筋が伸びた。

「...全力でやります」

「期待している」


---

その夜。

舜はゲルで、金の資料を整理していた。

人口、都市、軍の数。

全てが膨大だ。

「大変そうだね」

星歌が入ってきた。

「ああ...」

舜が頭を抱えた。

「金は大きすぎる」

「手伝おうか?」

「本当?」

「うん。二人の方が早いでしょ」

星歌が隣に座った。

「ありがとう」

舜が微笑んだ。

二人は、夜遅くまで作業を続けた。


---

1208年、夏。

七星からの報告が届き始めた。

「中都の兵力、約五万」

「燕京の城壁、高さ人六人分」

「金の将軍、完顔遠理。騎兵戦術に優れる」

舜は全てを記録していく。

星歌が地図に印をつける。

少しずつ、金の全貌が見えてきた。

「すごいね」

星歌が呟いた。

「こんなに情報が集まるなんて」

「七星の力だ」

舜が答えた。

「彼らは、本当に優秀だ」

二人は、作業を続けた。


---

1208年、秋。

チンギスが舜を呼んだ。

「進捗はどうだ」

「はい。かなり集まりました」

舜が報告書を差し出した。

チンギスは目を通した。

「...詳しいな」

「七星の力です」

「ふむ」

チンギスが頷いた。

「よくやった」

「ありがとうございます」

「だが、まだ足りない」

「...はい」

「もっと詳しく。将軍の性格、城の弱点。全てだ」

「承知しました」

舜は、再び作業に戻った。


---

1209年。

二年目の冬。

アウラガでは、兵たちがさらに鍛えられていた。

ケシクの若者たちも、成長していた。

スブゲイは、もう一人前の弓兵になっていた。

バートルは、剣の腕を上げていた。

オゴデイも、将としての風格が出てきた。

「父上」

オゴデイがチンギスに言った。

「俺も、準備はできています」

「そうか」

チンギスが息子を見た。

「お前は成長したな」

「父上のおかげです」

「いや」

チンギスが首を振った。

「お前自身の力だ」

オゴデイは、嬉しそうに頷いた。


---

1210年、春。

三年目に入った。

舜の報告書は、分厚くなっていた。

金の全ての情報が、そこにあった。

「完成しました」

舜がチンギスに報告した。

チンギスは、じっくりと読んだ。

何時間もかけて。

そして、顔を上げた。

「...素晴らしい」

「ありがとうございます」

「これがあれば、勝てる」

チンギスが微笑んだ。

「舜、お前のおかげだ」

舜は、胸が熱くなった。

(俺が...歴史を作る手助けをしている)


---

1210年、冬。

最後の冬が来た。

チンギスが、全軍を集めた。

「諸君」

チンギスの声が響く。

「来春、我らは金を攻める」

兵たちが静まり返った。

「金は強大だ。だが、恐れるな」

「我らには、三年の準備がある」

「我らには、草原の力がある」

「我らには、勝利への意志がある」

チンギスが剣を抜いた。

「父の仇を討つ!」

「おおおおお!」

兵たちが叫んだ。

その声が、草原に響いた。


---

舜と星歌は、その様子を見ていた。

「始まるね」

星歌が呟いた。

「ああ」

舜が頷いた。

「史上最大の戦が」

二人は、空を見上げた。

雪が、静かに降っていた。

だが、春はすぐそこまで来ていた。

嵐の春が。

血と鉄の春が。

歴史を変える、春が。

1211年の戦いへ向けて。

全てが、動き出そうとしていた。

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