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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
建国紀

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31/40

Ⅴ 震撼

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

1207年、秋。

西夏が属国となった報は、各地へ伝わった。


---

金。中都。

耶律楚材が、急いで宮廷に向かっていた。

手には、商人からもたらされた報告書がある。

「遠理殿」

完顔遠理を見つけた。

「楚材か。どうした」

「これを」

耶律楚材が書類を差し出した。

完顔遠理は目を通した。

顔色が変わった。

「...西夏が、属国に?」

「はい」

「いつだ」

「一週間前です」

耶律楚材が答えた。

「モンゴル軍が侵攻し、わずか数ヶ月で中興府を陥落させたと」

完顔遠理は、書類を握りしめた。

「数ヶ月...」

「はい」

「西夏は、二十年は持つと思っていた」

完顔遠理が呟いた。

「それが、一年足らずで...」

二人は、顔を見合わせた。

「すぐに、陛下に報告を」

完顔遠理が言った。

「はい」


---

だが、章宗は動じなかった。

「西夏か」

報告を聞いても、興味なさそうだった。

「所詮は辺境の小国だ」

「ですが、陛下」

完顔遠理が進言した。

「モンゴルは、確実に強大化しています」

「西夏を属国にした以上、次は...」

「次は何だ」

章宗が遮った。

「我が金だと言いたいのか」

「...はい」

「馬鹿な」

章宗が笑った。

「モンゴルなど、所詮は遊牧民だ」

「我が金の精強な軍の敵ではない」

完顔遠理は、何も言えなかった。


---

退出した後。

「陛下は...分かっておられない」

完顔遠理が拳を握った。

「どうなさいますか」

耶律楚材が聞いた。

「我らだけでも、備える」

完顔遠理が答えた。

「北の国境を固める」

「城壁を補強し、兵を増やす」

「朝廷の許可なく?」

「構わん」

完顔遠理の目が鋭かった。

「国を守るためだ」

耶律楚材は頷いた。

「お手伝いします」


---

南宋。臨安。

韓侂胄は、権力を失いつつあった。

開禧北伐の失敗で、朝廷からの信頼を失っていた。

「宰相殿」

賈似道が訪ねてきた。

「何の用だ」

韓侂胄が不機嫌に言った。

「北の情報です」

賈似道が書類を差し出した。

「モンゴルが、西夏を属国にしたと」

「...何?」

韓侂胄が書類を奪い取った。

読む。

顔が青ざめた。

「わずか数ヶ月で...」

「はい」

賈似道が頷いた。

「モンゴルは、予想以上に強大です」

韓侂胄は、椅子に座り込んだ。

「俺は...間違っていたのか」

「金が弱っていると思った」

「だが...」

賈似道は、内心で笑っていた。

(もう、終わりだな)


---

数日後。

韓侂胄は、宮廷から解任された。

「韓侂胄を罷免する」

皇帝の命令が下った。

「開禧北伐の失敗の責任を取らせる」

韓侂胄は、屋敷に軟禁された。

そして、年が明ける前に。

暗殺された。

賈似道は、その報を聞いて笑った。

「ようやく、邪魔者が消えた」

だが、彼もまだ権力を握れたわけではなかった。

朝廷は混乱していた。


---

四川。

呉義は、韓侂胄暗殺の報を受けた。

「ついに、か」

「将軍、どうなさいますか」

部下が聞いた。

「動く」

呉義が立ち上がった。

「朝廷は混乱している」

「今こそ、四川を独立させる時だ」

部下の目が輝いた。

「承知しました」

呉義は、密かに準備を始めた。


---

西遼。虎思斡耳朶。

耶律直魯古が、報告を受けていた。

「モンゴルが、西夏を属国にした?」

「はい」

楊安仁が頷いた。

「わずか数ヶ月で」

耶律直魯古は、しばらく黙っていた。

そして。

「...思ったより、早い」

「はい」

「だが、まだ余裕はある」

耶律直魯古が地図を見た。

「彼らの次の標的は、金だ」

「我らではない」

楊安仁も頷いた。

「そうですね」

「だが」

耶律直魯古が真剣な顔をした。

「金が倒れた後、必ず来る」

「備えを怠るな」

「はい」

その時、グチュルクが入ってきた。

「陛下」

「グチュルクか」

「モンゴルの件、聞きました」

グチュルクが焦った様子で言った。

「次は、我らを攻めてくるのでは」

「ない」

耶律直魯古が断言した。

「彼らは、まず金を攻める」

「ですが...」

「グチュルク」

耶律直魯古がグチュルクを見た。

「お前は、ホラズムとの国境を守れ」

「それが、お前の任務だ」

グチュルクは不満そうだったが、従った。

「...承知しました」

グチュルクが去った後。

「陛下、彼は...」

楊安仁が心配そうに言った。

「分かっている」

耶律直魯古が頷いた。

「彼は、野心を持っている」

「だからこそ、遠ざけている」

「都から離れていれば、余計なことはできない」

楊安仁は感心した。


---

ホラズム。サマルカンド。

アラーは、東の噂を耳にしていた。

「モンゴル?」

「はい」

臣下が答えた。

「西夏という国を、属国にしたそうです」

「...聞いたこともない」

アラーが鼻で笑った。

「そんな辺境の小国のことなど、どうでもいい」

「俺は、西遼を狙っている」

「あちらの方が、よほど価値がある」

臣下は、何も言わなかった。

アラーは、モンゴルを過小評価していた。

それが、後に致命的な過ちとなる。


---

アウラガ。

チンギスは、将軍たちを集めていた。

「西夏を属国にした」

「次は、金だ」

将軍たちが頷いた。

「だが、すぐには攻めない」

チンギスが続けた。

「金は、南宋に勝ったばかりだ」

「士気も高い」

「ならば、どうします」

ボオルチュが聞いた。

「準備をする」

チンギスが答えた。

「兵を鍛え、馬を養う」

「そして、金の内情を探る」

「いつ、攻めますか」

ムカリが聞いた。

「四年後だ」

チンギスが宣言した。

「四年後に、金を攻める」

将軍たちは、頷いた。

舜と星歌は、その会議を記録していた。

舜が呟いた。

「あと四年」

「準備期間だね」

星歌が言った。

「うん」

舜は、地図を見つめた。

金は、巨大だ。

西夏とは比較にならない。

「大丈夫かな...」

「大丈夫だよ」

星歌が舜の手を握った。

「殿は、天才だから」

「それに」

星歌が笑った。

「私たちもいる」

舜は、星歌を見た。

そして、笑った。

「...そうだな」


---

その夜、チンギスが舜を呼んだ。

「舜」

「はい」

「お前の策は、見事だった」

「ありがとうございます」

「だが」

チンギスが真剣な顔をした。

「次は、もっと難しい」

「金は、西夏の比ではない」

「人口も多く、城も堅固だ」

「...はい」

「お前の知恵が、必要だ」

チンギスが舜の肩を掴んだ。

「力を貸してくれ」

舜は、深く頭を下げた。

「はい」


---

舜が去った後。

チンギスは、一人で地図を見ていた。

金。

広大な領土。

無数の城。

「父上...」

チンギスが呟いた。

「ようやく、仇を討てます」

イエスゲイを毒殺したのは、タタルだった。

だが、タタルを使っていたのは、金だ。

「必ず、倒す」

チンギスの目が、燃えていた。


---

1207年が終わろうとしていた。

西夏が属国となり、各国が動揺していた。

金は、北の脅威を感じながらも、朝廷は動かなかった。

南宋は、韓侂胄を失い、混乱していた。

西遼は、モンゴルの次の標的が金だと見ていた。

ホラズムは、モンゴルを軽視していた。

そして、モンゴルは。

四年後の、金侵攻に向けて、準備を始めていた。

舜と星歌も、その準備に関わることになる。

歴史は、新たな段階へ進もうとしていた。

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