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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
建国紀

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Ⅳ 策謀

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

1207年、春。

舜は、趙元と向き合っていた。

「趙元殿」

「舜殿」

二人は、地図を広げている。

西夏の全土が描かれていた。

「この作戦には、あなたの力が必要です」

舜が真剣な顔で言った。

「...分かっています」

趙元が頷いた。

「ですが」

「ですが?」

「私は、祖国を裏切ることになる」

趙元の声が震えた。

「それは...どれほど辛いことか」

舜は黙っていた。

しばらくして、言った。

「趙元殿」

「はい」

「あなたの祖国は、もう李安全のものです」

「...」

「李純祐は亡くなりました」

「簒奪者が、皇帝の座に就いています」

舜が続けた。

「あなたが守るべきは、国ではない」

「民です」

趙元は、舜を見つめた。

「民...」

「そうです」

舜が頷いた。

「戦が長引けば、民が苦しむ」

「ならば、早く終わらせるべきです」

「そのために、力を貸してください」

趙元は、長い間黙っていた。

そして。

「...分かりました」

頭を下げた。

「私は、民のために動きます」


---

数日後、チンギスが全軍を集めた。

「これより、第二次西夏遠征を開始する」

その声が響いた。

「今回は、中興府を落とす」

兵たちがざわついた。

中興府。西夏の首都だ。

「そして」

チンギスが続けた。

「西夏を、完全に属国とする」

「おおっ!」

兵たちが叫んだ。


---

軍が出発した。

五万騎。

前回よりも大きな規模だ。

舜と星歌も同行している。

「緊張する...」

星歌が呟いた。

「俺も」

舜も頷いた。

「でも、やるしかない」

二人は、手を握り合った。


---

最初の目標は、西涼だった。

軍が城に到着する前に、趙元が先行した。

白旗を持っている。

「城門を開けろ!」

趙元が叫んだ。

「私は、趙元だ!」

城壁の上で、守将が驚いた顔をした。

「趙元...将軍?」

「そうだ」

趙元が頷いた。

「話がある。降りてこい」

守将は迷った。

だが、部下に命じた。

「門を開けろ。だが、わずかだけだ」

守将が城門から出てきた。

趙元と向き合った。

「趙元将軍...なぜ、モンゴルと共に」

「降伏したからだ」

趙元が率直に答えた。

「李純祐様は亡くなられた」

「今の皇帝は、簒奪者だ」

「...」

「お前も知っているだろう」

趙元が続けた。

「李安全には、民の支持がない」

「軍も弱体化している」

「このまま戦っても、勝ち目はない」

守将は黙っていた。

「ならば」

趙元が言った。

「降伏しろ」

「モンゴルの殿は、降伏した者を殺さない」

「民も守られる」

「抵抗すれば、全てが失われる」

守将は、長い間考えた。

そして。

「...分かりました」

頭を下げた。

「降伏します」

西涼が、無血で開城した。

兵たちが驚いた。

「戦わずに、落ちた」

「趙元の説得か」

チンギスも、満足そうに頷いた。

「舜の策は、当たったな」

「はい」

ボオルチュも笑った。

「次も、同じようにいくでしょう」


---

次の城も、その次の城も。

趙元が説得に行った。

多くの城が、降伏した。

だが、中には抵抗する城もあった。

「裏切り者め!」

ある守将が叫んだ。

「お前は、西夏の恥だ!」

趙元は、何も言わなかった。

ただ、静かに戻った。


---

その城は、攻められた。

スブタイとジェベが率いる軍が、城壁に迫った。

矢が雨のように降る。

「盾を構えろ!」

スブタイが叫ぶ。

兵たちが盾を掲げた。

だが、矢は容赦なく降り注ぐ。

何人もの兵が倒れた。

「くそっ」

スブタイが歯噛みした。

「やはり、城攻めは難しい」


---

三日が経った。

城は、まだ落ちない。

チンギスが舜を呼んだ。

「舜」

「はい」

「この城は、厄介だ」

「...はい」

舜も認めた。

「どうする?」

チンギスが聞いた。

舜は、地図を見た。

「殿」

「うん」

「この城の水源は、城外にあります」

「...!」

チンギスの目が光った。

「断てるか?」

「はい」

舜が頷いた。

「川を堰き止めれば、水が止まります」

「やれ」

チンギスが即座に命じた。

工兵が動いた。

川の上流に、土嚢を積んだ。

水の流れが変わった。

城への水が、断たれた。


---

二日後。

城門が開いた。

守将が、疲れ果てた顔で出てきた。

「降伏します」

「...」

チンギスは、守将を見下ろした。

「なぜ、最初から降伏しなかった」

「...意地です」

守将が答えた。

「西夏の武人として、戦わずに降伏するわけにはいかなかった」

チンギスは、しばらく黙っていた。

そして。

「お前の意地は、認める」

「だが」

チンギスの声が厳しくなった。

「無駄な抵抗で、部下を何人も死なせた」

「それは、愚かだ」

守将は、何も言えなかった。

「沙汰を待て」


---

夏が過ぎた。

モンゴル軍は、次々と城を落としていった。

趙元の説得で降伏する城。

水を断たれて降伏する城。

囲まれて飢えて降伏する城。

様々な方法で、城は落ちていった。


---

ある日、舜は趙元と話していた。

「趙元殿」

「はい」

「あなたは、辛くないですか」

舜が聞いた。

「...辛いです」

趙元が正直に答えた。

「毎日、祖国を裏切っている気がします」

「...」

「ですが」

趙元が空を見上げた。

「これで、民は救われる」

「戦が早く終われば、苦しむ人も減る」

「それが、せめてもの慰めです」

舜は、何も言えなかった。


---

その夜、舜は星歌と話していた。

「星歌」

「うん」

「俺たち、これでいいのかな」

舜が不安そうに言った。

「何が?」

「歴史を、変えてる」

舜が続けた。

「本来なら、西夏はもっと長く抵抗するはずだった」

「でも、俺の策で早く終わろうとしている」

「これで、いいのかな」

星歌は、舜の手を握った。

「舜」

「うん」

「私たちは、ここに来た」

「理由は分からないけど、ここにいる」

星歌が真剣な顔をした。

「なら、全力でやるしかない」

「結果がどうなるかは、分からない」

「でも、後悔しないようにしよう」

舜は、星歌を抱きしめた。

「...ありがとう」


---

モンゴル軍は、中興府に迫っていた。

西夏の首都だ。

城壁は高く、守りは堅い。

だが、周りの城は全て落ちていた。

中興府は、孤立していた。


---

李安全は、城壁の上に立っていた。

北を見る。

無数のモンゴル軍が、城を囲んでいた。

「...終わりか」

李安全が呟いた。

「陛下」

臣下が来た。

「もう、食料も水もありません」

「...」

「降伏を」

「黙れ!」

李安全が叫んだ。

「俺は、皇帝だぞ」

「簒奪者でも、皇帝だ」

「降伏などできるか」

臣下は、何も言えなかった。


---

その時、使者が来た。

モンゴルからだ。

「チンギス様からの伝言です」

使者が書簡を差し出した。

李安全は、それを読んだ。

『降伏すれば、命は助ける』

『西夏を属国とし、お前を王として認める』

『だが、抵抗すれば、容赦しない』

李安全は、書簡を握り潰した。

「...くそっ」


---

だが、その夜。

城内で、反乱が起きた。

将軍たちが、李安全を捕らえたのだ。

「何をする!」

李安全が叫んだ。

「陛下、もう終わりです」

将軍の一人が言った。

「これ以上、民を苦しめるわけにはいきません」

「貴様ら...!」

「申し訳ありません」

将軍たちは、李安全を縛り上げた。


---

翌朝。

城門が開いた。

将軍たちが、李安全を引きずって出てきた。

「チンギス様」

将軍が跪いた。

「我らは、降伏します」

「李安全を、お渡しします」

チンギスは、李安全を見下ろした。

「...李安全か」

「...」

李安全は、何も言わなかった。

「お前は、簒奪者だ」

チンギスが言った。

「だが、降伏した以上、殺しはしない」

「...何?」

李安全が驚いた。

「ただし」

チンギスの声が厳しくなった。

「お前は、もう皇帝ではない」

「ただの臣下だ」

「俺の命令に従え」

李安全は、歯を食いしばった。

だが、従うしかなかった。

「...はい」

中興府が陥落した。

西夏は、完全にモンゴルの属国となった。

舜の策は、成功した。


---

その夜、舜は一人で空を見ていた。

「俺が...歴史を変えた」

呟いた。

本来なら、西夏はもっと存続するはずだった。

何十年も早く、属国となった。

「これで、よかったのか...」

舜の心は、揺れていた。


---

「舜」

チンギスが来た。

「殿」

「お前の策は、見事だった」

「...ありがとうございます」

「だが」

チンギスが舜の肩を掴んだ。

「迷っているな」

「...はい」

舜が正直に答えた。

「俺が、歴史を変えてしまいました」

「それが、正しかったのか...」

チンギスは笑った。

「舜」

「はい」

「歴史など、常に変わる」

「お前が変えようと、俺が変えようと」

「誰かが、必ず変える」

チンギスが空を見上げた。

「大事なのは、後悔しないことだ」

「お前は、最善を尽くした」

「それで十分だ」

舜は、チンギスの言葉に救われた気がした。

「...ありがとうございます」


---

モンゴル軍は、凱旋した。

西夏を属国とし、莫大な戦利品を持ち帰った。

民衆が歓喜した。

舜と星歌は、その光景を見ていた。

「終わったね」

星歌が言った。

「ああ」

舜も頷いた。

「でも、これは始まりだ」

「始まり?」

「次は、金だ」

舜が真剣な顔をした。

「もっと大きな戦が、待ってる」

新しい歴史が、動き出していた。

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