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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
建国紀

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II 怯薛

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

クリルタイから一月が経った。

チンギスは、新たな制度を発表した。

怯薛(ケシク)を創設する」

全将軍が集まった軍議で、チンギスが宣言した。

「ケシクとは?」

一人の部族長が聞いた。

「俺の親衛隊だ」

チンギスが答えた。

「だが、ただの護衛ではない」

ボオルチュが説明を引き継いだ。

「各部族長の息子、あるいは優秀な若者を集める」

「彼らを殿の側で養成し、将来の幹部とする」

部族長たちがざわついた。

「それは...人質ということか」

「そうとも言える」

チンギスが率直に答えた。

「だが、それだけではない」

「お前たちの息子を、国の中枢で育てる」

「いずれ、彼らが帝国を支える柱となる」

部族長たちは顔を見合わせた。

「人数は?」

別の部族長が聞いた。

「一万人」

ボオルチュが答えた。

「そのうち、千人が昼番、千人が夜番。残りは交代要員だ」

「一万...」

「そうだ」

チンギスが頷いた。

「これは、帝国の心臓となる組織だ」

「ケシクの一兵は、千人長よりも位が高い」

場が静まり返った。

千人長よりも高い。それは、とてつもない権威だ。

「殿...それは」

ムカリが懸念を示した。

「将軍たちの反発を招きませんか」

「招くだろう」

チンギスが笑った。

「だが、それでいい」

「ケシクは、俺に絶対の忠誠を誓う」

「部族の利害を超え、国のために働く」

チンギスの目が光った。

「これこそが、真の統一だ」

舜と星歌は、その会議を記録していた。

「すごい制度だね」

星歌が小声で言った。

「ああ」

舜も頷いた。

「人質を取りつつ、エリート教育をする」

「統制と育成を同時にやるんだ」

「...頭いいね」

「天才だよ」

舜が呟いた。


---

数日後、怯薛の選抜が始まった。

各部族から、若者たちが集められた。

年齢は十五から二十五まで。

弓、剣、馬術。全てに秀でた者たちだ。

「名を言え」

ボロクルが一人一人を確認していた。

「バートルと申します」

「部族は?」

「メルキトです」

「ふむ」

次々と若者たちが選ばれていく。

その中に、一人の青年がいた。

「名は?」

「スブゲイです」

「部族は?」

「ウリャンカイです」

ボロクルが目を細めた。

「お前、スブタイの弟か」

「はい」

スブゲイが頷いた。

「兄には及びませんが、弓だけは負けません」

「ほう」

ボロクルが笑った。

「では、試してみろ」

スブゲイが弓を構えた。

百歩先の的を狙う。

放つ。

矢は的の中心を射抜いた。

「見事だ」

ボロクルが頷いた。

「合格だ。兄に恥じぬよう、励め」

「はっ!」


---

選抜は三日続いた。

最終的に、一万人が選ばれた。

チンギスが、彼らの前に立った。

「お前たちは、今日からケシクだ」

「俺の剣となり、盾となる」

若者たちが跪いた。

「俺はお前たちを、息子のように扱う」

「だが、裏切りは許さん」

チンギス・ハンの声が厳しくなった。

「裏切った者は、一族もろとも滅ぼす」

若者たちの背筋が凍った。

「だが」

チンギス・ハンの声が優しくなった。

「忠実に仕えた者には、栄誉を与える」

「いずれ、お前たちが国を支える日が来る」

若者たちの目が輝いた。

「立て」

全員が立ち上がった。

「これより、訓練を始める」

ケシクの訓練は過酷だった。

朝から晩まで、弓、剣、馬術。

そして、文字の勉強もあった。

「文字...ですか?」

若者たちが戸惑った。

「そうだ」

教官を務めるのは、舜だった。

「帝国を支えるには、武だけでは足りない」

「文も必要だ」

舜が黒板に文字を書いた。

ウイグル文字だ。モンゴル語を書くために採用された。

「これを読めるようになれ」

若者たちは、慣れない文字に苦戦した。


---

ある日、スブゲイが舜に質問した。

「舜殿」

「何だ?」

「なぜ、文字が必要なのですか」

「戦は、剣と弓でするものではないのですか」

舜は少し考えた。

「スブゲイ、お前は命令をどう受け取る?」

「口頭で、です」

「では、その命令を忘れたら?」

「...」

「文字があれば、記録できる」

舜が続けた。

「命令を、報告を、全てを残せる」

「それが、帝国を動かす力になる」

スブゲイは目を見開いた。

「...なるほど」


---

星歌も、怯薛の訓練を手伝っていた。

彼女は、医術を教えていた。

「傷を負ったら、まず止血だ」

星歌が実演する。

「布を巻いて、きつく縛る」

若者たちが真剣に見ていた。

「これ、戦場で役立ちますか?」

一人が聞いた。

「もちろん」

星歌が頷いた。

「仲間が倒れた時、すぐに手当てできれば命を救える」

「自分が傷ついた時も、応急処置ができれば生き延びられる」

若者たちは頷いた。


---

数週間が経った。

ケシクたちは、見違えるように成長していた。

弓の腕は上がり、剣の技も磨かれた。

文字も読めるようになり、簡単な報告書を書けるようになった。

チンギスは、訓練を視察に来た。

「よくやっている」

ボロクルが報告した。

「特に、スブゲイという若者が優秀です」

「スブタイの弟か」

「はい」

チンギス・ハンが頷いた。

「あの一族は、優秀だな」


---

その夜、チンギスは舜と星歌を呼んだ。

「二人とも、よくやってくれた」

「恐れ入ります」

舜が頭を下げた。

「ケシクたちは、お前たちを慕っている」

「ありがたいことです」

星歌も礼をした。

「だが」

チンギスが真剣な顔をした。

「これから、もっと忙しくなる」

「...と、おっしゃいますと?」

「冬が明けたら、西夏を攻める」

チンギス・ハンが地図を広げた。

「今度は、属国にする」

舜は息を呑んだ。

「属国...ですか」

「そうだ」

チンギス・ハンが頷いた。

「ただ荒らすだけでは意味がない」

「支配し、統治する」

「そのために、お前たちの知恵が必要だ」

舜と星歌は顔を見合わせた。


---


その夜、二人は自分たちのゲルに戻った。

「舜...」

星歌が不安そうに言った。

「また戦場に行くんだね」

「ああ」

舜も頷いた。

「でも、今度は違う」

「違う?」

「今度は、俺たちが策を出す番だ」

舜が真剣な顔をした。

「ただ記録するだけじゃない」

「歴史に、関与する」

星歌は黙っていた。

しばらくして、言った。

「怖いけど...やらなきゃいけないね」

「ああ」

舜が星歌の手を握った。

「一緒なら、大丈夫だ」

「...うん」


---

数日後、チンギスが軍議を開いた。

「西夏遠征の準備を始める」

将軍たちが集まっている。

「兵力は?」

ムカリが聞いた。

「三万」

ボオルチュが答えた。

「主力は、四狗が率いる」

「スブタイ、ジェベ、ジェルメ、クビライ」

「そして」

チンギスが続けた。

「オゴデイを連れて行く」

場がざわついた。

「殿、オゴデイ様はまだ...」

「十八だ」

チンギスが遮った。

「もう大人だ。戦場を経験させる」

ジョチとチャガタイが顔を見合わせた。

二人はすでに戦場を経験している。

オゴデイも、ついにその時が来たのだ。


---

オゴデイは、父に呼ばれた。

「父上」

「オゴデイ」

チンギスが息子を見た。

「お前を、西夏遠征に連れて行く」

「...!」

オゴデイの目が輝いた。

「初陣ですか」

「そうだ」

チンギスが頷いた。

「怖いか?」

「...はい」

オゴデイが正直に答えた。

「怖いです」

チンギスは笑った。

「それでいい」

「怖がらない者は、愚か者だ」

「だが」

チンギスがオゴデイの肩を掴んだ。

「恐怖を乗り越えた者が、真の戦士になる」

「...はい」

「お前なら、できる」

チンギスが微笑んだ。

「俺の息子だからな」

オゴデイは、涙を堪えた。


---

秋も深まった頃、ケシクの初めての任務が与えられた。

「東の国境を巡察しろ」

ボロクルが命じた。

「何か異変があれば、すぐに報告せよ」

「はっ!」

怯薛たちが出発した。

スブゲイも、その中にいた。


---

数日後、スブゲイたちは戻ってきた。

「報告します」

スブゲイがボロクルの前に跪いた。

「東の国境に、異変はありませんでした」

「そうか」

「ただ...」

スブゲイが言葉を選んだ。

「金の斥候らしき者を見かけました」

「金の?」

ボロクルの目が鋭くなった。

「どこで?」

「北東、三日行程の森です」

「...そうか」

ボロクルはすぐにチンギスに報告した。


---

「金が、動き始めたか」

チンギス・ハンが呟いた。

「西夏を片付けたら、次は金だ」

ボオルチュが頷いた。

「準備を進めましょう」

「ああ」

チンギスの目が、遠くを見た。

「父の仇を、討つ時が来る」


---

冬が来た。

雪が降り積もる中、モンゴルは静かに準備を進めていた。

ケシクは訓練を続け、将軍たちは作戦を練った。

舜と星歌は、西夏の情報を整理していた。

そして、春が来れば。

西夏への大遠征が始まる。

歴史が、また動き出そうとしていた。

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