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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
建国紀

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26/42

Ⅰ 地を統べる

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

1206年、春。

雪解けが始まった頃、オノン川のほとりに巨大な天幕が張られた。

クリルタイの会場だ。

舜と星歌は、その準備に追われていた。

「舜、この配置でいい?」

星歌が図面を見せた。

「ああ、中央に殿の座を。周りに各部族長の席を」

二人は何日もかけて、会場の設計をしていた。

参加者は数千人。モンゴル全土から、部族長たちが集まる。

「すごいね...」

星歌が呟いた。

「歴史の瞬間に、立ち会うんだ」

「ああ」

舜も頷いた。

胸が高鳴っていた。


---

クリルタイの前日。

テムジンは一人、オノン川を見ていた。

ここは、彼が生まれたコイテンに近い。

父イェスゲイも、この川で水を飲んだ。

「父上...」

テムジンが呟いた。

「明日、俺は大ハンになります」

風が吹いた。

まるで、イエスゲイが答えているかのようだった。

「見ていてください」

テムジンが空を見上げた。

「俺は、世界を変えます」


---

その夜、ボオルチュがテムジンを訪ねた。

「殿」

「ボオルチュか」

「明日の式次第を確認に参りました」

ボオルチュが書類を差し出した。

テムジンは目を通した。

「これでいい」

「はい」

しばらく、沈黙が続いた。

「ボオルチュ」

「はい」

「お前は、どう思う」

テムジンが聞いた。

「俺が、大ハンになることを」

ボオルチュは少し考えた。

「当然のことだと思います」

「...」

「殿は、草原を統一されました」

「誰もが認める、唯一の主です」

ボオルチュがテムジンを見た。

「ですが」

「ですが?」

「これは、始まりに過ぎません」

ボオルチュが真剣な顔をした。

「本当の戦いは、これからです」

テムジンは笑った。

「その通りだ」


---

クリルタイの朝。

夜明け前から、人々が集まり始めた。

各部族の長たち。将軍たち。そして、無数の民衆。

舜と星歌は、記録係として式典の準備を確認していた。

「緊張する...」

星歌が小声で言った。

「俺も」

舜も同じだった。

二人は手を握り合った。

太陽が昇った。

ボオルチュが前に出た。

「これより、クリルタイを開催する!」

その声が、草原に響いた。

人々が静まり返った。

「モンゴルの部族長たちよ」

ボオルチュが続けた。

「我らは長年、争ってきた」

「タタル、ケレイト、ナイマン。数え切れぬ血が流れた」

「だが」

ボオルチュの声が大きくなった。

「今、草原は一つになった」

「それを成し遂げた男がいる」

ボオルチュがテムジンを指差した。

「テムジン!」

テムジンが前に出た。

群衆が沸いた。

「テムジン!テムジン!」

叫び声が上がる。

テムジンは、ゆっくりと歩いた。

中央の高座に登る。

そして、振り返った。

「諸君」

テムジンの声が響いた。

「俺は、ただの男だ」

「イェスゲイの息子。九歳で父を失い、追われ、飢えた」

「だが」

テムジンの目が光った。

「俺には、夢があった」

「草原を一つにする。争いを終わらせる」

「そして...」

テムジンが拳を握った。

「世界を、一つにする」

群衆がざわついた。

「世界...?」

「何を言っている」

だが、テムジンは続けた。

「国境など、人が勝手に引いた線に過ぎない」

「草原も、砂漠も、山も、海も」

「全ては繋がっている」

テムジンが空を見上げた。

「天が広がるところまで、地が続くところまで」

「それを、統べる」

「それが、俺の夢だ」

シャーマンが前に出た。

白い髭を蓄えた老人だ。

「テムジン」

「はい」

「天は、汝を選んだ」

シャーマンが祈りを捧げた。

「蒼き狼の末裔よ」

「白き牝鹿の子孫よ」

「天命を受け、地を統べよ」

シャーマンがテムジンに白い布を渡した。

九つの白い(はたじるし)だ。

「これより、汝を」

シャーマンが宣言した。

「チンギス・ハンと呼ぶ!」


---

「チンギス・ハン!」

群衆が叫んだ。

「チンギス・ハン!チンギス・ハン!」

その声が、草原に轟いた。

舜は、その光景を見ていた。

涙が出そうになった。

歴史の瞬間だ。

チンギス・ハンが、誕生した。

ユーラシア、いや世界の誰もが知る英雄。

星歌も、目を潤ませていた。

「舜...」

「ああ」

「すごい...」

二人は、感動的な思いでチンギスを見つめた。

チンギスが立ち上がった。

「諸君!」

「俺は、チンギス・ハンとして、誓う」

「この草原を守り、民を守り、世界へ進む」

「俺についてこい!」

「おおっ!」

全員が立ち上がった。

拳を掲げた。

「チンギス・ハン!」

「チンギス・ハン!」

式典が終わった後。

チンギス・ハンは各部族長と会った。

一人一人に声をかけ、労をねぎらった。

「よく来てくれた」

「これからも、頼む」

部族長たちは、皆頭を下げた。


---

夜になった。

大宴会が開かれた。

酒が振る舞われ、肉が焼かれた。

歌が歌われ、踊りが踊られた。

チンギス・ハンも、群臣に混じって笑っていた。

舜と星歌は、少し離れた場所で座っていた。

「終わったね」

星歌が言った。

「ああ」

「チンギス・ハンが、生まれた」

「うん」

二人は、夜空を見上げた。

星が輝いていた。

「舜」

「うん」

「これから、どうなるんだろう」

「...分からない」

舜が正直に答えた。

「でも、きっと」

「きっと?」

「世界が、変わる」

舜が星歌を見た。

「俺たちは、それを見届ける」

星歌は頷いた。


---

その頃、チンギスはボオルチュと話していた。

「ボオルチュ」

「はい」

「明日から、準備を始める」

「何の準備ですか」

「西夏の完全征服だ」

チンギスの目が光った。

「李純祐は死に、李安全が簒奪した」

「混乱している今こそ、好機だ」

ボオルチュは頷いた。

「承知しました」

「そして」

チンギスが続けた。

「その次は、金だ」

「...金ですか」

「ああ」

チンギスが拳を握った。

「父の仇を討つ」

「タタルは滅ぼした。だが、タタルを使っていたのは金だ」

「金を倒さねば、真の復讐にはならない」

ボオルチュは何も言わなかった。

ただ、頭を下げた。


---

翌朝。

チンギス・ハンが全軍を集めた。

「諸君」

「昨日、俺は大ハンになった」

「だが、これは始まりに過ぎない」

チンギス・ハンが剣を抜いた。

「西夏を征服する」

「金を倒す」

「そして、その先へ進む」

兵たちが叫んだ。

「おおっ!」

「準備しろ。夏になったら、出陣する」

「はっ!」

舜と星歌は、その様子を見ていた。

「また、戦が始まるんだ」

星歌が不安そうに言った。

「ああ」

舜も頷いた。

「でも、これが歴史なんだ」

「...」

「俺たちは、見届けないといけない」

星歌は、舜の手を握った。

「怖いけど...一緒なら、大丈夫」

「ああ」

舜も握り返した。


---

中興府。

李純祐は、前年の冬に亡くなっていた。

そして、李安全が新しい皇帝になった。

だが、国は混乱していた。

「陛下」

臣下が進言した。

「モンゴルが、また動くでしょう」

「分かっている」

李安全が苛立った声で言った。

「だが、どうする」

「軍は弱体化しています。民の支持もありません」

李安全は歯噛みした。

簒奪によって皇帝になった。だが、それ故に誰も信用してくれない。

「くそっ...」

李安全が拳を握った。

「テムジン...いや、チンギスめ」


---

金。中都。

耶律楚材が、チンギス・ハン即位の報を受けた。

「ついに...」

完顔遠理も隣にいた。

「来ますね」

「ああ」

耶律楚材が頷いた。

「チンギス・ハンは、必ず金を狙う」

「朝廷は...」

「相変わらず、何も分かっていません」

完顔遠理が溜息をついた。

「では、我らだけでも準備を」

「はい」

二人は、静かに決意を固めた。


---

アウラガ。

チンギス・ハンは、地図を見ていた。

西夏。金。その先には、南宋、西遼、ホラズム。

広大な世界が広がっている。

「全てを、手に入れる」

チンギス・ハンが呟いた。

「天が広がるところまで」

「地が続くところまで」

彼の目は、遠くを見つめていた。

新しい時代が、始まろうとしていた。

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