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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
飛躍へと

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25/42

Ⅴ 凱旋と星影

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

アウラガが見えてきた。

舜は馬上から、懐かしい景色を眺めた。四十日ぶりの帰還だった。

「帰ってきたね」

星歌が隣で言った。

「ああ」

二人は顔を見合わせて、笑った。


---

城門をくぐると、民衆が出迎えていた。

「殿が帰られた!」

「勝ったぞ!」

歓声が上がる。子供たちが駆け寄ってくる。

テムジンが馬上から手を振った。民衆がさらに沸いた。

舜は、その光景を見ていた。

これが、勝者の帰還か。

その夜、大きなゲルで宴が開かれた。

将軍たち、部族長たち、そして従者たちが集まっている。

テムジンが立ち上がった。

「諸君、よくやった」

「今回の戦、誰一人として臆することなく戦った」

「特に」

テムジンが将軍三人を指差した。

「スブタイ、ジェベ、ムカリ。お前たちの功は大きい」

三人が前に出た。

まず、スブタイが呼ばれた。

二十代半ば。精悍な顔つきの男だ。

「スブタイ」

「はっ」

「お前の戦術は見事だった。李安全の軍を翻弄した」

「恐れ入ります」

テムジンが笑った。

「お前は鍛冶屋の息子だったな」

「はい」

スブタイが頷いた。

「父は、刀を作っていました」

「その父は、何と言っている」

「...父は、私が軍人になることを反対しました」

スブタイの目が遠くを見た。

「『お前は刀を作る側だ。振るう側ではない』と」

「だが、お前は軍人を選んだ」

「はい」

スブタイが真剣な顔をした。

「私は、戦を終わらせたかったのです」

場が静まりかえる。

「草原では、いつも争いがありました。部族同士で殺し合っていました」

「だから、私は思ったのです」

スブタイがテムジンを見た。

「草原を統一すれば、争いは終わる。そのために、殿に仕えようと」

テムジンは頷いた。

「お前の願いは、いずれ叶う。いや、俺が叶える。

次に、ジェベが呼ばれた。

三十代。弓の名手だ。

「ジェベ」

「はっ」

「お前も、よくやった」

「ありがとうございます」

ジェベが頭を下げた。

だが、その顔には複雑な表情があった。

「殿」

「何だ」

「私は...かつて、殿の馬を射ました」

場がざわついた。

舜も驚いた。敵だったのか。

「ああ」

テムジンが笑った。

「覚えている。あの時、お前の矢は見事だった」

「...」

「俺は思った。『この男を味方にしたい』と」

テムジンがジェベの肩を叩いた。

「だから、許した。そして、お前を『神の矢』と名付けた」

ジェベの目に、涙が浮かんでいた。

「殿...」

「お前は、俺を裏切らなかった。もうそれは忘れろ」

ジェベは深く頭を下げた。

最後に、ムカリが呼ばれた。

四十代。落ち着いた雰囲気の男だ。

「ムカリ」

「はい」

「お前は、幼い頃から俺に仕えていたな」

「はい。殿も俺も十五歳の頃からです」

ムカリが静かに答えた。

「お前の父は?」

「父は、知りません」

「そうだったな」

テムジンが遠くを見た。

「あの頃は、何もなかった。食べるものもなく、逃げ回っていた」

「はい」

「だが、お前は逃げなかった」

「...」

「なぜだ」

テムジンが聞いた。

ムカリは少し考えて、答えた。

「殿が、諦めなかったからです」

「...」

「どんなに苦しくても、殿は前を向いていました」

「だから、私もついていこうと思いました」

テムジンは黙っていた。

そして、ムカリを抱きしめた。

「ありがとう」


---

その時、ボオルチュが舜と星歌に近づいてきた。

「舜、星歌」

「はい」

「少し来い」

二人はボオルチュについていった。

ゲルの奥の部屋。

そこには、七人の男たちがいた。

だが、誰も顔を見せていない。皆、頭巾で覆っている。

「この者たちが、七星だ」

ボオルチュが紹介した。

「七星...?」

舜が聞いた。

「情報を集める者たちだ」

ボオルチュが説明した。

「各地に潜伏し、敵の動きを探る」

「名前は?」

「ない」

ボオルチュが首を振った。

「一星、二星...と呼ばれるだけだ」

舜と星歌は息を呑んだ。

一星が前に出た。

「西夏の報告をします」

声は低く、抑揚がない。

「李純祐は、もう起き上がれません。太后が実権を握っています。李安全は、簒奪の機会を窺っています」

「いつ?」

ボオルチュが聞いた。

「おそらく、来年中には」

一星が答えた。

「李純祐は、長くありません」

ボオルチュは頷いた。

「分かった。引き続き監視しろ」

「はっ」

七人が、音もなく消えた。

三人だけになった。

「ボオルチュ殿...あれは」

舜が言葉を探した。

「影だ」

ボオルチュが答えた。

「表にタリゲーンやアーチャイがいる。だが、裏にも支える者がいる」

「それが、七星」

「そうだ」

ボオルチュが窓の外を見た。

「国を動かすには、光だけでは足りない。影も必要だ」

舜は黙っていた。

国の裏側を、初めて見た気がした。


---

その夜、舜と星歌は二人でゲルに戻った。

「疲れたね」

星歌が横になった。

「ああ」

舜も隣に座った。

しばらく、沈黙が続いた。

「舜」

「うん」

「日本のこと、覚えてる?」

星歌が聞いた。

「...ああ」

舜が答えた。

「少しずつ、忘れかけてるけど」

「私も」

星歌が天井を見た。

「学校とか、友達とか...もう遠い気がする」

「...」

「でも」

星歌が舜を見た。

「あなたのことは、覚えてる」

「え?」

「ネットで話してた時のこと」

星歌が笑った。

「『叡帝舜』って名乗ってたよね」

「...ああ」

舜も笑った。

「お前は『音楽好き』だった」

「うん」

二人は笑い合った。

「舜」

「うん」

「もし...もし、日本に帰れたら」

星歌が真剣な顔をした。

「会おうね。ちゃんと、顔を見て」

「...ああ」

舜が頷いた。

「約束する」

星歌が手を差し出した。

舜も手を差し出した。

二人の手が、重なった。

その瞬間、舜の胸が高鳴った。

星歌の手は、温かかった。

「星歌」

「うん」

「俺...」

舜が言葉を探した。

だが、言えなかった。

星歌が微笑んだ。

「大丈夫。私も」

「...え?」

「同じ気持ちだよ」

星歌が舜の手を握った。

「ここに来て、あなたに会えて...よかった」

「俺も」

舜も握り返した。

二人は、見つめ合った。

「舜...」

「ああ」

「これから、一緒にいようね」

「...ああ」

二人は、抱きしめ合った。

外では、星が輝いていた。

同じ星空を、日本でも見ていた。

だが、今は二人で見ている。

それだけで、十分だった。


---

中興府。

李純祐は、もう意識が朦朧としていた。

「陛下...」

侍医が呼びかけるが、反応がない。

太后が部屋に入ってきた。

李安全も一緒だ。

「もう、長くありませんね」

太后が冷たく言った。

「そのようです」

李安全が答えた。

「では」

太后が李安全を見た。

「準備を」

「はい」

李安全が頷いた。

二人は、李純祐を見下ろした。

その目には、憐れみも何もなかった。


---

李純祐は、夢を見ていた。

父と遊んだ、幼い頃の夢。

あの頃は、幸せだった。

「父上...」

李純祐が呟いた。

そして、静かに目を閉じた。


---

趙元は、モンゴルの陣営にいた。

降伏後、捕虜として扱われている。

だが、虐待されてはいない。

食事も与えられ、寝床もある。

「なぜ...」

趙元が呟いた。

「なぜ、殺さない」

その時、テムジンが来た。

「趙元」

「...はい」

「お前を、使いたい」

「...何を」

「西夏を統治する手助けをしてもらう」

テムジンが言った。

「お前は、西夏を知っている。民のことも、土地のことも」

「...」

「俺は、ただ奪うだけでは意味がないと思っている」

「統治しなければ、国にはならない」

テムジンが趙元を見た。

「手を貸してくれ」

趙元は、長い間黙っていた。

そして。

「...分かりました」

頭を下げた。


---

アウラガ。

テムジンが、クリルタイの準備を命じた。

「来春、正式に大ハンに即位する」

「各部族長に通達しろ」

ボオルチュが頷いた。

「承知しました」

舜と星歌も、その準備に関わることになった。

歴史の転換点が、近づいていた。

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