表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
飛躍へと
22/22

Ⅱ 宿命、決着す

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

今回は長めです。

雪解けが始まった。

森の木々から、雪が落ちる音が響く。

川のせせらぎが聞こえてきた。

「殿、猪を仕留めました」

ホーロイが戻ってきた。

「よくやった」

ジャムカが頷いた。

森には、食料がいくらでもあった。

鹿、猪、兎、魚。

たまには恐ろしい熊もいる。

八十人の兵を養うには、十分だった。

「殿、美味いですよ」

若い兵が笑った。

「ああ」

ジャムカも笑った。

不思議と、この野営は楽しかった。

権力も、地位も、何もない。

ただ、仲間と共に生きる。

それだけで。

「殿」

イルギンが横に座った。

「何だ」

「この生活も...悪くないですね」

「...ああ」

ジャムカが火を見つめた。

「悪くない」

兵たちが笑い合っている。

若い頃、テムジンと共に過ごした日々を思い出した。

あの頃も、こんな風だった。

火を囲んで、肉を食べて、笑い合った。

(あの頃は...良かった)

「殿」

ホーロイが真剣な顔をした。

「これは...いつまで続くのでしょうか」

「...」

ジャムカは答えなかった。

「いずれ、テムジンが来る」

イルギンも言った。

「その時...」

「分かっている」

ジャムカが立ち上がった。

空を見上げる。

星が輝いていた。

「これは...永遠ではない」

ジャムカの声が、静かに響いた。

「いつか、終わりが来る」

兵たちの笑い声が、遠くで聞こえる。

ジャムカは、その声を聞きながら、涙を流した。

(俺は...何を求めていたんだ)

(権力か?地位か?)

(それとも...)

答えは出なかった。


---

春が来た。

アウラガ。

「出陣する」

テムジンが宣言した。

なんと2万人が集まっている。

「目的地は、バイカル湖の南」

「ジャムカを捕らえる」

テムジンの声が響く。

「これが、最後の戦いだ」

「はっ!」

全員が一斉に答えた。


---

舜と星歌も、同行することになった。

「記録を取れ」

ボオルチュが命じた。

「はい」

二人は準備をした。

馬に乗り、出発を待つ。

「舜...」

「大丈夫だ」

舜が星歌を見た。

「俺たちは、見届けるだけだ」

「...うん」

星歌が頷いた。


---

軍が動き出した。

数千騎。

圧倒的な兵力。

草原を北へ進む。

テムジンが先頭を行く。

その後ろに、四駿四狗。

そして、無数の兵士たち。

「すごい...」

星歌が呟いた。

「これが...モンゴル軍」

舜も圧倒されていた。


---

十五日後。

バイカル湖の南に到着した。

森が見える。

「あそこです」

斥候が報告した。

「ジャムカの野営地があります」

「兵力は?」

「八十人ほど」

テムジンが頷いた。

「包囲しろ」

「はっ」

モンゴル軍が動く。

森を囲む。

圧倒的な兵力差。


---

ジャムカの野営地。

「殿!」

ホーロイが駆け込んできた。

「テムジンの軍が...!」

「...わかっている」

ジャムカが立ち上がった。

外を見る。

森の周り、全てがモンゴル軍に囲まれていた。

「殿、どうします!」

イルギンが叫んだ。

「...」

ジャムカは黙っていた。

(ついに...この時が来た)


---

ジャムカが決意した。

「お前たち、ここにいろ」

「殿!」

「いいから、ここにいろ」

ジャムカが剣を佩いた。

具足をつけ、一人で騎乗する。

「殿!何を!」

「俺一人で、話をつける」

ジャムカは振り返った。

「お前たちは...自分で選べ」

森を出た。

モンゴル軍が、一斉に弓を構えた。

「待て!」

ボオルチュが叫んだ。

ジャムカの馬は、ゆっくりと歩いていく。

剣は持っているが、天に翳している。

「...ジャムカ」

テムジンが馬から降りた。

二人の間に、わずかな距離。

ジャムカが馬から降りた。

「テムジン」

「ジャムカ」

二人は、見つめ合った。

しばらく、沈黙が続いた。

「...久しぶりだな」

ジャムカが言った。

「ああ」

テムジンも答えた。

「お前、老けたな」

ジャムカが笑った。

「お前もな」

テムジンも笑った。

「テムジン」

ジャムカが真剣な顔をした。

「俺は、負けた」

「...」

「完全に、負けた」

ジャムカが空を見上げた。

「お前は、草原を統べ、俺を超えた」

テムジンは何も言わなかった。

「なぜだ」

ジャムカが聞いた。

「なぜ、お前は勝ち続けたんだ」

周りの軍は完全に沈黙している。

「俺だって、部族をまとめようとした」

「だが...勝てなかった」

ジャムカの目に、涙が浮かんでいた。

「なぜだ...テムジン」

テムジンが一歩前に出た。

「ジャムカ」

「何だ」

「お前は...間違っていた」

「...」

「お前は、伝統に縛られすぎた」

テムジンが続けた。

「貴族を重んじ、血筋を重んじた」

「その方が安定する」

ジャムカが抗弁するように言った。

「俺は違った」

「実力のある者を重んじた」

「血筋など、関係ない。たとえ親も知れない孤児であろうとも」

ジャムカは黙っていた。

「それに」

テムジンが真剣な顔をした。

「お前は、金を嫌いすぎた」

「...!」

「金を憎む気持ちは分かる」

「だが、利用できるものは利用すべきだった」

「お前は...それができなかった」

ジャムカは、歯を食いしばった。

「...そうだな」

「俺は...頑固すぎた」

「ジャムカ」

テムジンが声を上げた。

「お前と、もう一度...」

「もう一度、アンダになれないか?」

「...」

ジャムカの目が揺れた。

「俺は...お前と共に戦いたい」

「古来よりこんな言い伝えがある」

ジャムカが膝をついた。

「天に二つの太陽はいらない」

テムジンは、ジャムカに近づいた。

そして。

ジャムカの肩を掴んだ。

「ジャムカ」

「...」

「お前は...俺の友だった」

テムジンの声が震えた。

「少年の頃、共に遊んだ」

「アンダの契りを結んだ」

「あの頃は...楽しかった」

森も、兵も、全てが静まっていた。

「だが」

ジャムカが言った。

「もう...戻れない」

「...!」

「お前と俺は、違う道を選んだ」

「もう...一緒にはなれない」

ジャムカが手を離した。

「テムジン」

「何だ...」

「俺を殺せ」

ジャムカが立ち上がった。

「一つだけ、頼みがある」

「何だ」

「血を流さずに、殺してくれ」

「...分かった」

テムジンは頷いた。

「そうすれば、死後も私の魂がお前の末代まで守ってやるだろう」

ジャムカは何でもないことのように言った。

二人は、最後に握手した。

「テムジン」

「ああ」

「お前は...世界を変えるだろう」

ジャムカが笑った。

「俺の分まで、生きろ」

「...ああ」

テムジンの目から、涙が落ちた。


2人が離れた。

どちらももう、涙はなかった。

テムジンの従者がジャムカに絨毯を持っていった。

絨毯に体を包み、何十という馬に踏ませ、殺すのだ。

血は大地に一滴も零さない。

ジャムカが絨毯にくるまり、馬を撫でた。

その後、ジャムカが草の上に倒れると指笛で森の方に馬は駆けていった。

テムジンは右手を挙げた。

「ジャムカを忘れるな。我々の中でいつまでも生き続ける」

何十体もの馬が駆けていく。

大地は蠢いているが、森の兵は全員が敬礼している。

テムジンの兵もいつしか、全ての者が敬礼していた。

テムジンも右手を額の上に掲げた。

ジャムカは死んだだろう。

馬を引かせると、ジャムカの軍の者が駆けてきて遺体を取り、森に持ち帰った。

ジャムカ、すまない。

「降伏する者は、殺さない。森に籠り抵抗するものには、死を与えろ」

ジャムカを、本当に滅ぼす。

「殿、ジャムカに何と言われたのですか」

ボオルチュが言った。

「知らなくていい」

テムジンは、草原を眺めた。

風で、草が靡いている。

俺は、ジャムカが好きだったんだな。

ジャムカ、ほんとに短かったけど好きだな。

レビュー、評価、感想をしてくだされば嬉しいです!!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ