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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
飛躍へと
21/21

Ⅰ 新年

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

いつの間にか第二章です。累計1500PV突破しました!感謝です!

年が明けた。

ゲルの外では、雪が降り積もっている。

「なあ、星歌」

「何?」

「少し、遠乗りをしないか」

「遠乗り?」

「あぁ、出会ってから政務続きでろくに運動していないだろ?」

「それもそうね。寒いけど、厚着すれば大丈夫じゃないかな」

外に出て、厩に行く。

馬が寂しげにしていた。

「名前をつけるか」

「名前?」

「ああ。聞いたところによると、殿の馬は(サルヒ)と呼ぶらしい」

「んー。何がいいのかな」

(ガルザル)(ダライ)にしないか」

「いいね、それ」

馬が待ちきれないように鼻を押し付けてきた。

「ガルザル、よろしくな」

ガルザルは理解できないようにきょとんとしている。


---

二人は草原を駆けた。

白い雪原。どこまでも続く地平線。

「気持ちいい!」

星歌が笑った。

「ああ!」

舜も笑う。

久しぶりの、自由な時間だった。

しばらく走って、小高い丘で止まった。

珍しく晴れ、青空と白い雲と地面しか見えなかった。

「ここから見ると、アウラガが小さく見えるね」

「ああ」

二人は馬を降りた。

雪の上に座る。

「舜」

「うん?」

「私たち、いつまでここにいるんだろう」

「...分からない」

舜が空を見上げた。

「あの本は、何も教えてくれない」

「そうだね...」

星歌も空を見た。

「でも」

舜が星歌を見た。

「今は、ここにいるしかない」

「...うん」

「それに」

舜が笑った。

「星歌と一緒なら、怖くない」

「...ありがとう」

星歌も笑った。

二人は、しばらく景色を眺めていた。


---

「殿」

ボオルチュが地図を広げた。

「ジャムカの動向が入りました」

「何だ」

「兵はわずかです。百人もいないでしょうが、頻繁に調練をしています。おそらく殿を急襲するつもりかと」

「...そうか」

テムジンが立ち上がった。

窓の外を見る。

「春になったら、動く」

「はい」

「だが」

テムジンが振り返った。

「できれば、生け捕りにしたい」

「...殿」

ボオルチュが驚いた。

「ジャムカは、かつての友だった」

テムジンの目が遠くを見た。

「殺すのは...最後の手段にしたい」

「...承知しました」

ボオルチュは、テムジンの心を理解した。


---

同じ頃。バイカル湖の南方。

ジャムカは、雪の中で立っていた。

「お前たち、正直に言え」

「何をですか?」

「俺に、まだついてくる気があるのか?」

二人は顔を見合わせた。

「殿...」

「いい。正直に言え」

ジャムカが二人を見た。

「俺はもう、終わりだ」

「そんなことは...」

「いや、終わりだ」

ジャムカが笑った。

「テムジンには勝てなかった。完全に、負けた」

「...」

ジャムカが空を見上げた。

「草原で生まれ、育ち、過ごすことができただけで、俺は幸せだった」


---

西夏。中興府。

李純祐が、病床に伏していた。

国力の回復策を考えすぎ、無理して病に罹ってしまった。

「陛下...」

側近が心配そうに見ている。

「...大丈夫だ」

李純祐が弱々しく笑った。

「少し、疲れただけだ」

だが、誰もがそれが嘘だと分かっていた。

皇帝は、衰弱していた。

「陛下、モンゴルからの使者が...」

「...また、か」

李純祐が溜息をついた。

「何と?」

「貿易の拡大を求めています」

「...応じろ」

「ですが...」

「応じろ」

李純祐が言い切った。

「今は、モンゴルを刺激したくない」

側近は黙って頭を下げた。

李純祐は、窓の外を見た。

(このままでは...国が持たない)

だが、打つ手がなかった。


---

金。中都。

耶律楚材が、書類の整理をしていた。

「耶律殿」

完顔遠理が入ってきた。

「遠理殿」

「北の情報です」

完顔遠理が書簡を渡した。

耶律楚材が読む。

「...モンゴルが、軍制を改革した?」

「はい。十進法を採用し、厳格な指揮系統を確立したようです」

「...厄介ですね」

耶律楚材が溜息をついた。

「ただの野蛮な部族ではない、ということですか」

「そうです」

完顔遠理が頷いた。

「テムジンという男は、英雄です」

「...」

「組織を作り、法を定め、国を築いている」

完顔遠理が窓の外を見た。

「いずれ、来ます」

「...朝廷は、気づいていますか?」

「いいえ」

完顔遠理が苦笑した。

「相変わらず、内輪揉めです」

耶律楚材は何も言えなかった。

「耶律殿」

「はい」

「準備を進めましょう」

完顔遠理が真剣な顔をした。

「いつか、我らが金を守らねばならない時が来る」

「...知っています」

二人は、静かに決意を固めた。


---

西遼。虎思斡耳朶(フスオルド)

耶律直魯古が、書類に目を通していた。

「陛下」

楊安仁が進み出た。

「東の情報です」

「モンゴルか」

「はい。テムジンが、国としての体裁を整えたようです」

「...ふむ」

耶律直魯古が興味深そうに聞いた。

「詳しく」

「軍制を改革し、法を定め、駅伝制を整備したとのことです」

「駅伝制?」

「はい。各地に駅を設け、馬を常備させ、情報伝達を高速化したようです」

「...なるほど」

耶律直魯古が感心した。

「楊安仁」

「はい」

「グチュルクを、もっと遠くへやれ」

「...と、おっしゃいますと?」

「西の国境、ホラズムとの最前線だ」

耶律直魯古が笑った。

「そこで好きなだけ『活躍』させてやれ」

「承知しました」

楊安仁は深く頭を下げた。

(陛下は...グチュルクを完全に見限ったな)


---

アウラガ。舜と星歌のゲル。

二人は、遠乗りから帰ってきた。

「楽しかったね」

「ああ」

舜が笑った。

「また行こう」

「うん」

その時、ボオルチュが来た。

「舜、星歌」

「はい」

「明日から、春の準備だ」

「春の...準備?」

「ああ」

ボオルチュが真剣な顔をした。

「ジャムカを捕らえる」

二人は息を呑んだ。

「ついに...」

「そうだ。殿の最後の敵を、始末する」

ボオルチュが去っていった。

雪が、少しずつ溶け始めていた。

「春が来る」

「うん」

「そして...」

舜が星歌を見た。

「全てが、始まる」

二人は、その重みを感じていた。


---

各地で、それぞれの思惑が交錯していた。

舜と星歌は、全てを見届ける覚悟を固めていた。

春は、すぐそこまで来ていた。

歴史の歯車は、止まらない。

次なる大地へ向けて、全てが動き出そうとしていた。

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