XVII 再会
時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。
西夏から十日。
舜とタリゲーンは、アウラガに戻ってきた。
「やっと着いたな」
タリゲーンが言った。
「はい...」
舜は疲れていた。
だが、無事に帰れた安堵感もあった。
「まず、殿に報告だ。ついて来い」
「はい」
---
二人はテムジンのゲルに向かった。
途中、訓練場を通り過ぎた。
兵士たちが訓練している。
その中に―
一人の少女がいた。
馬に乗り、弓を構えて、的を狙っている。
放つ。
シュッ
的に当たった。
「よし!」
少女が別の大人と喜んでいる。
舜は何気なく見た。
だが―
(...あれ?)
何か、引っかかった。
少女の声。
どこかで聞いたような...
「舜、どうした?」
タリゲーンが呼んだ。
「あ、すみません」
舜は慌てて追いかけた。
---
テムジンのゲルに着いた。
「殿、戻りました」
タリゲーンが報告した。
「おお、よく戻った」
テムジンが笑った。
「で、どうだった?」
「はい。西夏は、予想通り衰えていました」
タリゲーンが詳しく報告する。
舜も記録を渡した。
「ふむ...」
テムジンが読んでいる。
「よくやった。舜、お前も成長したな」
「ありがとうございます」
「ゆっくり休め。また後で話を聞く」
「はい」
---
ゲルを出た。
「舜、疲れただろう。休んでこい」
タリゲーンが言った。
「はい、ありがとうございます」
舜は自分のゲルに戻った。
荷物を置く。
(やっと帰ってきた...)
舜は横になった。
だが、眠れなかった。
(さっきの少女...)
なぜか、気になる。
(どこかで...)
舜は起き上がった。
鞍の袋から、緑の本を取り出した。
久しぶりに開いてみる。
少し忘れかけている日本語が並んでいる。
(この本...一体何なんなんだ)
---
その時、外から声が聞こえた。
「星歌、もう一回やってみろ」
さっきの大人の声だ。
(星歌...?)
舜は息を呑んだ。
その名前。
聞き覚えがある。
(まさか...)
舜は外に飛び出した。
---
訓練場に走った。
そこに、さっきの少女がいた。
大人が弓を教えている。
「もっと腕を伸ばせ」
「はい」
少女が弓を構える。
舜は近づいた。
心臓が激しく打っている。
(まさか...まさか...)
少女が矢を放った。
的に当たる。
「よし、上手くなったな」
アーチャイが褒めた。
「ありがとうございます!」
少女が笑顔になる。
その声を、舜ははっきり聞いた。
(...星歌!?)
舜の手から、本が滑り落ちた。
バサッ
音がした。
---
少女が振り向いた。
目が合った。
一瞬、時が止まった。
「...え?」
少女が呟いた。
舜も動けなかった。
(星歌...星歌だ...!)
少女―星歌も、舜を見つめている。
(この人...知らないはずなのに...)
星歌の目が、舜の足元に落ちた本に向いた。
緑の本。
(...!?)
星歌は自分の馬の鞍の袋に手を伸ばした。
中から、同じ緑の本を取り出す。
二つの本。
まったく同じ。
「...その本」
舜が震える声で言った。
「あなたも...持っているんですか?」
星歌も震えていた。
「はい...子供から...」
「夢の中で...?」
「...はい」
二人は見つめ合った。
---
「まさか...」
舜が一歩近づいた。
「星歌...なのか?」
「...え?」
星歌が驚いた。
「なんで...私の名前を...」
「俺だ。舜だ」
「...!?」
星歌の目が見開かれた。
「舜...!? 嘘...!?」
「本当だ」
舜が頷いた。
「星歌...本当にお前なのか?」
「舜...!」
星歌が駆け寄った。
二人は抱き合った。
---
「舜...舜...!」
星歌が泣いていた。
「誰かに会いたかった...ずっと...!」
「俺も...」
舜の目にも涙が浮かんでいた。
「ずっと探してた...」
二人は、しばらく抱き合っていた。
周りの兵士たちが、不思議そうに見ている。
アーチャイも、驚いた顔をしている。
「...お前ら、知り合いか?」
アーチャイが聞いた。
「はい」
舜が答えた。
「友達です。日本で、知り合いだった」
「...日本?」
アーチャイが首を傾げた。
「説明は後で...」
舜が星歌を見た。
「星歌、お前も...あの本で?」
「うん...飛行機が墜落して...」
「飛行機...?」
「あ、ごめん。説明するね」
二人は座った。
お互いの話を始めた。
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舜は、図書館で本をもらったこと。
草原に飛ばされたこと。
テムジンに拾われたこと。
星歌は、留学の飛行機で本をもらったこと。
墜落したこと。
ボオルチュに拾われたこと。
二人の話は、ほとんど同じだった。
「...信じられない」
舜が呟いた。
「俺たち、同じように...」
「うん...」
星歌が本を見つめた。
「この本が...私たちをここに連れてきたんだね」
「そうみたいだ」
舜も自分の本を見た。
「でも、なんで...?」
「分からない...」
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その時、ボオルチュが来た。
「何事だ?」
「ボオルチュ殿」
舜が立ち上がった。
「この人は...俺の友達です」
「...友達?」
ボオルチュが星歌を見た。
「はい。日本で、ずっと一緒だった友人です」
「ほう...」
ボオルチュが興味深そうに見た。
「お前も、不思議な奴だと思っていたが...」
ボオルチュが笑った。
「二人揃って、か」
「...すみません」
「謝ることはない」
ボオルチュが二人を見た。
「殿に報告しろ。きっと、面白がる」
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その夜、舜と星歌はテムジンに呼ばれた。
二人並んで、跪いた。
「顔を上げよ」
テムジンが言った。
二人は顔を上げた。
テムジンは、二人を見比べた。
「友達、か」
「はい」
舜が答えた。
「同じ本を持ち、同じようにここに来た」
テムジンが笑った。
「面白い」
「...申し訳ありません」
「謝ることはない」
テムジンが立ち上がった。
「むしろ、好都合だ」
「...え?」
「舜一人でも優秀だった。二人なら、もっと使える」
テムジンが星歌を見た。
「星歌、お前も舜と同じように、俺に仕えろ」
「...はい!」
星歌が頷いた。
「よし」
テムジンが満足そうに言った。
「これで、俺には二人の史官がいる」
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ゲルを出た。
二人は、夜空を見上げた。
星が輝いている。
「舜...」
「うん」
「会えて、よかった」
「俺も」
舜が星歌を見た。
「これから、一緒に頑張ろう」
「うん」
星歌が笑った。
二人は、同じ空を見上げた。
運命が、二人を繋いだ。
そして、これから二人は、歴史の目撃者として、共に歩んでいく。
草原の風が、二人を包んだ。
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