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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
臥竜、雲を掴む
14/21

XIII 業務

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

〜少し時は遡る〜


「舜」

草原に来て10日が経った頃、ボオルチュに呼ばれた。

「はい」

「今日から私について来い。内政を学んでもらう。タリゲーンと共に舜も処理しろ」

ボオルチュがゲルの外を歩き出す。

舜は慌てて後を追った。


---

訓練場を過ぎ、集落の中心に着いた。

そこには、数十人の部族民が集まっていた。

「ボオルチュ様!」

「訴えを聞いてください!」

口々に訴える人々。

「静まれ」

ボオルチュが手を上げた。

一瞬で静かになる。

「一人ずつ話せ。まず、お前から」

ボオルチュが一人の男を指差した。


---

「隣の部族が、我らの羊を盗みました!」

男が訴える。

「証拠は?」

「この毛です。我らの羊の印がついています」

男が羊の毛を差し出した。

ボオルチュは受け取り、じっくりと見た。

「確かに印がある。盗んだ部族の者を呼べ」

しばらくして、別の男が連れてこられた。

「盗んだのか?」

「いえ!これは野良の羊を拾っただけで...」

「嘘をつくな」

ボオルチュの声が低くなる。

「殿の法では、盗みは重罪だ」

男は青ざめた。

「ただし」

ボオルチュが続けた。

「初犯なら、罰金で済む。羊三頭分の価値を払え」

「...はい」

男は頭を下げた。

舜は横で記録を取りながら、感心していた。

(厳しいけど、公正だ)


---

舜たちが応じた訴えは、土地の境界争いだった。

「ここは我らの土地だ!」

「いや、我らの方が先に使っていた!」

二つの部族が言い争っている。

タリゲーンは地図を広げた。

「古い記録を見ろ。ここに境界が記されている」

「だが、それは10年前の...」

「法は法だ」

タリゲーンが断じた。

「境界は変わらぬ。ただし、共同で使うことは認める」

二つの部族は渋々頷いた。


---


昼過ぎ、訴えが一段落した。

「疲れたか?」

ボオルチュが聞いた。

「少し...」

舜は正直に答えた。

「これが内政だ。地味だが、重要だ」

ボオルチュが水を飲んだ。

「戦で領土を広げても、内がまとまらねば意味がない」

「...はい」

「殿は戦の天才だ。だが、内政は苦手だ」

タリゲーンが言った。

「だから、私たちがやる」

舜は頷いた。

「そうだ。殿がお前を側に置いたのは、理由がある」

「理由、ですか?」

ボオルチュが遠くを見た。

「殿は、もっと大きな世界を見ている」


---

午後、食料備蓄の倉庫に向かった。

「これが、今年の収穫だ」

倉庫には、穀物や干し肉が山積みになっている。

「舜、計算しろ。これで冬を越せるか?」

「...はい」

舜は記録を見ながら、計算を始めた。

人口、消費量、期間...

「恐らく、ギリギリですが...足りるかと」

「甘い」

ボオルチュが首を振った。

「冬は予想より長引くことがある。余裕を持て」

「では...」

「西夏から買う」

ボオルチュが言った。

「...西夏、ですか?」

「そうだ。西夏は豊かな国だ。穀物が余っている」

「ですが、西夏は...」

「敵になる国だ。分かっている」

タリゲーンが言った。

「だが、今はまだ友好を保っている。この冬を越すためには、奴らから買うしかない」

「...」

「ただし」

ボオルチュの目が鋭くなった。

「来年、再来年には、戦になるだろう」

「殿が、そう言っているのですか?」

「ああ。西夏を抑えれば、交易の道を握れる。それが殿の狙いだ」

タリゲーンが言った。

舜は頭に刻んでおく。

(西夏...いずれ戦う国)


---

夕方、ゲルに戻った。

「ボオルチュ」

テムジンが呼んだ。

「はい」

「報告だ。ジャムカの痕跡を掴んだ」

舜は耳を疑った。

「...ジャムカですか?」

「ああ」

テムジンが地図を広げた。

豊海(バイカル)の南にいるらしい」

「追いますか?」

「いや、まだだ」

テムジンが首を振った。

「冬が来る。今は動けん」

「では、春に?」

「ああ。春になったら、決着をつける」

テムジンの目が光った。

「ジャムカは、最後の敵だ」

舜はゴクリと唾を飲んだ。

(ジャムカ...殿の義兄弟)


---

その夜、舜は一人でゲルの外に立っていた。

星が無数に輝いている。

(ジャムカ...西夏...)

(来年、全てが動き出す)

舜は空を見上げた。

「舜」

ボオルチュの声がした。

「はい」

「考え事か?」

「少し...」

「お前、誰か大切な人がいるのか?」

ボオルチュが横に立った。

「...いえ。誰も」

「そうか」

ボオルチュが空を見た。

「私はいる。殿だ」

「...」

二人は、しばらく星を見上げていた。


---

翌朝、テムジンに呼ばれた。

「舜」

「はい」

「西夏に使者を送る。お前も同行しろ」

「...!?」

「字を書ける者が必要だ。ボオルチュは忙しい。お前が行け」

舜は震えた。

「ですが、私はまだ...」

「大丈夫だ。ボオルチュの部下をつける」

テムジンが笑った。

「西夏がどんな国か、その目で見てこい」

「...はい!」


---

数日後、舜はボオルチュの部下と共に南へ向かうことになった。

出発の朝、ボオルチュが見送りに来た。

「気をつけろ」

「はい」

「西夏は豊かだが、油断するな」

「...はい」

「そして」

ボオルチュが真剣な顔をした。

「よく見てこい。あの国を、いずれ攻めることになる」

舜は頷いた。

(西夏...)

(これが、俺の初めての外交だ)

馬に乗り、南へ向かった。

草原が、徐々に遠ざかっていく。

(俺は、必ず生きて帰る)

舜は前を見た。

未知の国へ。

歴史が、また一歩動き出した。

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