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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
臥竜、雲を掴む
11/21

Ⅹ 邂逅

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

「おい、小僧とはなんだ。我らが共に旅をした時もこんな小僧だったではないか」

テムジンが諭した。

「それもそうですが、何分人を避けて話し合われなくても」

ボオルチュが抗議した。

「ボオルチュ殿、舜と申します。」

ここはとりあえず会話を止めてでも喋らねば。

「おお、そうか。私はボオルチュと言う。この草原の内政を主にしている。」

ボオルチュがなんとなく不審感を拭いきれなさそうな顔で言った。

「そうですか、私は殿より史書の編纂及び従者を仰せつかっています。」

「殿!こんな拾ったどこの馬の骨ともわからぬ…」

「ボオルチュ、こっちに来い。いや、2人で遠乗りしよう。久しぶりにな。」

テムジンが呼ぶ。

ボオルチュは溜息をついた。

「わかりました」

二人でゲルを出た。

外では、兵士たちが訓練をしている。

馬が走り、弓が放たれる。

舜は手にした記録を整理しながら、二人の後ろ姿を見つめた。

(ボオルチュ殿...あの人も、殿の歴史を作ってきた人なんだ)

---

しばらくして、ボオルチュが戻ってきた。

一人だった。

「舜」

ボオルチュが呼んだ。

「はい」

舜は顔を上げた。

「少し話がある。ついて来い」

ボオルチュの声は、さっきより柔らかかった。

二人は牧場の脇を歩いた。

草原の風が吹いている。

「お前...本当に漢人か?」

ボオルチュが聞いた。

「はい」

「どこから来た?」

「それは...覚えていません」

舜は嘘をついた。

ボオルチュは舜を見つめた。

鋭い目だ。

「嘘をつくのは上手くないな」

舜は一瞬呼吸を忘れた。

「だが、構わん」

ボオルチュが視線を逸らした。

「殿が認めた者を、私が疑っても仕方ない」

「...ありがとうございます」

「礼を言うな」

ボオルチュが立ち止まった。

「私は殿に命を救われた。9歳の時、草原を彷徨っていた私を、殿の父上が拾ってくれた」

舜は黙って聞いた。

「12歳の時、父上が亡くなった。その後、殿と二人で旅をした」

ボオルチュの目が遠くを見た。

「あの頃は何もなかった。だが、今がある」

「殿は、私の全てだ」

ボオルチュが舜を見た。

「だから言っておく。もし殿を裏切れば、私が真っ先にお前を殺す」

舜は背筋が凍った。

「だが」

ボオルチュが少し笑った。

「殿がお前を信じているなら、私も信じよう」

ボオルチュが手を差し出した。

「よろしく頼む。舜」

舜は手を握った。

「はい。よろしくお願いします、ボオルチュ殿」

固い握手。

舜とボオルチュの邂逅だった。

「さて、戻るか」

ボオルチュが歩き出した。

舜も後に続いた。



「舜」

翌朝、テムジンに呼ばれた。

「はい」

「今日から実際に政務を手伝ってもらう」

テムジンがゲルの中央に座っている。

周りには書簡や地図が広げられていた。

「書くだけではなく、動け。この国がどう動いているのか、肌で感じろ」

「はい!」

舜は緊張しながら頷いた。

「まず、これを読め」

テムジンが一通の書簡を渡してきた。

舜は開いて読んだ。

「...これは、西遼からの使者の報告ですか?」

「そうだ。西遼が貢物を送ってきた。どう思う?」

舜は考えた。

「恐らく...我々を恐れているのでは?」

「そうだ。奴らはモンゴルが統一されたことを知っている。だから、友好を示そうとしている」

テムジンが笑った。

「だが、それは弱さの証明でもある」

舜は息を呑んだ。

「返書を書け」

「...何と?」

「『貢物は受け取った。今後も友好を保とう』とでも書いておけ」

「それでよろしいのですか?」

「ああ。今はまだ西遼と戦う時ではない。まずは内部を固める。残党も多いしな」

テムジンが地図を指差した。

「だが、数年後には攻める。その時のために、今は友好的に振る舞うのだ」

面従腹背ということか。

「書け」

「はい」

舜は筆を取った。


---

1週間が経ち、その後、次々と仕事が舞い込んできた。

「この部族からの訴えを聞いて、判断しろ」

「兵の配置を記録しろ」

「食料の備蓄を計算しろ」

忙しい。

だが、充実していた。

夕方、やっと一息ついた時。

「舜」

テムジンが呼んだ。

「はい」

「よくやった。お前は思ったより使える」

テムジンが珍しく褒めた。

「ありがとうございます」

「ただ、まだ甘い」

「...はい」

「字を書くのは上手い。だが、人を見る目がまだ足りん」

テムジンが立ち上がった。

「明日、ボオルチュについていけ。内政がどう動いているのか、学んでこい」

「はい!」

「それと」

テムジンが振り返った。

「お前は漢人だ。漢土のことを知っている」

「...はい」

本当は地名しかわからないのだが。

「いずれ、金や南宋と戦う時が来る。その時、お前の知識が必要になる」

舜は頷いた。

「期待しているぞ」

テムジンがゲルを出ていった。

舜は一人残された。

手元には、一日分の書類の山。

返書、記録、計算書。

(これが...国を動かすということか)

舜は深く息をついた。

そして、窓の外を見た。

夕日が草原を染めている。

(ここで、歴史が作られている。俺も...その一部になるんだ)

舜は再び筆を取った。

まだやることがある。



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