第56話 それぞれの帰る場所
蒼月亭の広場のそばに、
新しい家が立ち上がろうとしていた。
それはただの住居ではない。
若き冒険者たちが選んだ「帰る場所」。
そしてその決断は、
森の友人たちをも巻き込み、
境界の村をさらに賑やかにしていく。
翌朝。
まだ朝露の残る広場に、軽やかな足音が響いた。
「おはよう!」
元気な声と共に現れたのは、アリアだった。
その後ろからセレナ、エリオス、そして昨日の宴で顔を合わせたエルフたちが続く。
「手伝うよ」
エリオスが肩を回しながら言う。
レオンは振り向き、にやりと笑った。
「俺たち、ここに住むことにしたんだ!」
一瞬、森の風が止まったように感じた。
「ほんとに!?」
アリアの顔がぱっと明るくなる。
「やった〜! 一緒に遊べるね!」
レンが照れくさそうに笑う。
「遊ぶだけじゃないけどな」
フィオがくすりと笑う。
「でも嬉しい」
セラはアリアを見つめて、静かに頷いた。
「うん、私も」
ミレーヌは腕を組み、満足げにその様子を眺めている。
「さあさあ、浮かれてないで手を動かすよ。家を完成させるんだろ?」
「はーい!」
声が重なる。
その日の作業は、昨日よりもずっと賑やかだった。
エルフたちは手際よく材木を削り、
レンは屋根に登り、
レオンが柱を支え、
エリオスが釘を打つ。
カイは全体を見渡しながら、補強の指示を出す。
「そこ、もう一本梁を入れた方がいいです」
「了解!」
リディアは脚立を押さえ、
フィオが板を固定する。
笑い声が絶えない。
時折、アリアとセラの楽しそうな話し声が混ざる。
「本当に住むんだね」
アリアが言う。
「うん」
セラは少し照れながら答えた。
「帰ってくる場所が欲しかったから」
「ここ、いいよね」
「うん。温かい」
夕方には、家はしっかり形になっていた。
屋根は補強され、
窓もはまり、
扉も直された。
レオンが腰に手を当てて言う。
「明日、掃除し終わったら荷物を取りに行くか?」
レンが頷く。
「そうだね」
アリアが首を傾げる。
「荷物ってどこに?」
「ヴァルディアの街だよ」
セラが答える。
「貿易の街」
エリオスが口笛を吹く。
「オルフェンよりずっと遠いね」
「結構な荷物になるから、数日は留守になるかな」
レオンが言うと、アリアの顔が少し曇る。
「ちょっと寂しいね」
セラは微笑んだ。
「すぐ帰ってくるし、帰って来たらここが私たちの家だもん」
その言葉に、アリアはぱっと笑顔になる。
「約束だよ?」
「約束」
二人はすっかり仲良しだった。
その様子を見て、ミレーヌが大きく手を叩く。
「じゃあ今日は、無事を祈ってのお祝いだね」
「また!?」
レンが笑う。
「祝い事は多い方がいいんだよ」
ミレーヌは胸を張る。
「帰る場所が増えるってのは、めでたいことなんだから」
酒場のテーブルにはいろいろな料理が並ぶ。
鍋からは、香草の匂いが立ち上る。
エルフも人間も、区別なく座り込む。
レオンはセレナと肩を並べ、
レンはエリオスと笑い合い、
フィオは弦を鳴らし、
セラとアリアは寄り添って話している。
カイはその光景を見て、胸の奥が静かに満たされるのを感じていた。
蒼月亭は、ただの宿ではない。
人が帰ってくる場所。
そして、
人が住むと決める場所。
境界の村は、
少しずつ「町」になっていく。
夜空に火の粉が舞い上がった。
誰かが笑い、誰かが歌う。
明日には別れがあるかもしれない。
でも――
帰ってくる場所が、ここにある。
境界の村は、
今や人と人が結びつく“中心”になり始めています。
数日の別れを挟み、
次は遠征編。レオン達の道中をスピンオフとして描きます。




