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第55話 帰る場所を選ぶ

エルフとの宴が終わり、

境界の村は静かな朝を迎えた。


だが、火が消えたあとに残るものは灰だけではない。


笑い声の残響、

そして――「ここに帰りたい」という想い。


若き冒険者たちが、

蒼月亭の未来に新しい一歩を踏み出す。

翌朝。


広場の焚き火跡からは、まだうっすらと煙が立っていた。


昨夜の宴が夢ではなかった証のように、

空気には森の果実酒と焼いた肉の匂いが残っている。


ミレーヌは腕を組み、広場を見渡した。


「片付けるよ、ほら。働かないと腹も減らないからね」


「はーい!」

真っ先に動いたのはレンだった。


軽やかに薪をまとめ、桶を運ぶ。


フィオは弦楽器を丁寧に布で拭き、

セラは鍋の焦げを魔力でそっと浮かせている。


レオンはというと――


「これ、運べばいいんだろ?」


大きな樽をひょいと肩に担いだ。


「力仕事は任せな」


リディアが横で淡々と補助する。


カイはその様子を見て、思わず笑みをこぼした。


昨日まで“客”だった彼らが、

自然と“手伝う側”に回っている。


それが妙にしっくりきた。


片付けがひと段落すると、

レオンが広場の周囲を見回した。


視線の先には、

比較的状態のいい一軒家。


壁はひび割れているが、柱はまだ生きている。

屋根も半分は無事だ。


「なあ」


レオンがぽつりと呟く。


「……あそこの家、ちょうどいいな」


レンが振り向く。


「住めそうだよね」


フィオも目を細める。


「広さもあるし、広場にも近い」


セラが小さく笑う。


「朝、すぐご飯食べに来られる距離ね」


レオンは振り返り、ミレーヌを見た。


少し照れたように、だが真っ直ぐに。


「ミレーヌさん」


「なんだい?」


「ここに……住んでいいかな?」


一瞬、静寂が落ちた。


カイが息を呑む。

リディアは目を細め、成り行きを見守る。


ミレーヌは腕を組んだまま、しばらく黙った。

そして――


「もちろんだよ」


即答だった。


レオン達の顔が一斉に明るくなる。


「昼間は宿の手伝いとか、畑仕事とかするからさ」


レンが慌てて付け加える。


「洗濯もやる!」


「料理の仕込みも手伝う!」


フィオも乗っかる。


レオンが言う。


「だから……食事をさせてよ」


ミレーヌは吹き出した。


「それ、賛成だね」


カイも笑う。


「大歓迎です」


リディアが静かに言った。


「冒険に出ても、戻る場所があるのは強い」


レオンは頷く。


「そうなんだよ。冒険しても、ここに帰ってきたい」


セラがそっと続ける。


「エルフの友だちもいるし」


レンが広場を見渡す。


「なんかさ……ここ、いいんだよ」


フィオがぽつりと呟く。


「居心地が」


ミレーヌは、そんな若者達を見て目を細めた。

「じゃあ決まりだね。修理して住めるようになったら移住しな」


「おお〜!」


歓声が上がる。


その日の午後。

レオン達は早速、家の修理に取りかかった。


カイが指示を出す。


「この柱はまだ使えます。補強すれば大丈夫」


「屋根はどうだ?」


「半分は張り替えですね」


レンが屋根に登り、

フィオが板を渡す。


セラは魔力で歪みを測り、

リディアは周囲の警戒を怠らない。


ミレーヌは腕を組み、満足そうに頷いた。


「みんな働き者だね。気に入ったよ」


その一言で、

レオン達はさらにやる気を出す。


夕暮れ。


修理はまだ途中だが、

家の形が見え始めていた。


窓がはまり、

床板が戻り、

風が通る。


レオンは息を吐いた。


「……ここが、俺たちの家か」


レンが笑う。


「広場のすぐ横だよ?」


「最高だな」


セラが静かに言う。


「帰る場所って、作るものなんだね」


カイはその言葉を聞きながら、

胸の奥が温かくなるのを感じていた。


蒼月亭は、

宿であり、酒場であり、修理屋であり。


そして今――


誰かの“帰る場所”になろうとしている。


焚き火が小さく揺れた。


境界の村は、

少しずつ“町”になり始めている。

レオン達、移住決定。


蒼月亭は

「宿」から「拠点」へ。


帰る場所を持つ冒険者は強い。


そして、帰る場所を増やす女将はもっと強い。


境界の村は、

人が住むことで初めて息をし始めます。


次は――

彼らの家が完成し、本当の“共同体”が動き出す回へ。

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