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第47話 風が根を下ろす日々

霊木の杖の修理を依頼し、《黎明の風》は廃村の蒼月亭に滞在することになった。

ただ待つのではなく、「手伝わせてほしい」と申し出る。そうして始まった、奇妙で温かな共同生活。


これは、戦いではない。

けれど確かに、信頼を築く時間だった。

朝の空気は、まだ少し冷たい。


畑に出ると、湿った土の匂いが立ちのぼる。

芋と豆の畝は芽を出し始め、追加で植えた根菜類も小さな葉をのぞかせていた。


「へえ……ちゃんと整ってるな」

レオンが腕を組み、畑を見渡す。


「まだ広げるつもりなんです」

カイが鍬を肩に担ぎながら答えると、レンが素早く横に回った。


「じゃあ俺、石拾う。こういうの、得意」


小柄な体で畑を駆け回り、地表に出た小石を拾っては端へ寄せていく。

動きが軽い。無駄がない。


フィオは弓を背にしたまま畝の間にしゃがみ込み、雑草を抜いていた。

「この草、根が深い。放っておくと芋の栄養取られる」


「詳しいんだね」


「森で生きるなら、土は読む」


淡々とした口調だが、誇りがある。


セラは少し戸惑いながらも、ミレーヌの指示で洗濯場へ向かった。

「力仕事は苦手で……」


「いいのさ。洗い物と干すのを頼むよ。布は大事だからね」


川辺で桶を揺らしながら、セラはふっと笑う。


「魔法より、こっちの方が難しいかも」

「生活はね、毎日続ける魔法みたいなもんさ」


ミレーヌの言葉に、セラは目を丸くした。


一方、村の外周ではレオンが倒れかけた柵を立て直していた。


「杭が甘い。ここは土が柔らかいな」

「深めに打ち込んでください」


カイが木槌を差し出す。


ドン、ドン、と乾いた音が響く。

柵は少しずつ真っ直ぐに戻っていった。


リディアは少し離れた高台から全体を見ている。

働く姿を、ただ静かに観察していた。


昼近くになる頃には、畑は一段と整い、柵はぐるりと張り直され、洗濯物が白く風に揺れていた。


ミレーヌは腕を組み、三人と一人を順番に見渡す。

「……みんな働き者だね」


その一言に、レンがぱっと顔を上げた。


「本当ですか?」


「気に入ったよ」

豪快に笑う。


レオンが照れくさそうに鼻を掻き、フィオはほんの少し口元を緩め、セラは嬉しそうに手を拭いた。


リディアがぽつりと言う。

「……頑張ってる」


それだけ。

だが彼女の言葉は重い。


レンが小声で言う。


「なんか、認められた感じがするな」


「宿屋で褒められるとは思わなかった」


レオンが笑う。

「戦場より緊張する」

セラが頷く。


カイは少し離れた場所で、その様子を見ていた。


霊木の杖は今、作業場の中にある。

分解し、流れを読み、まだ手は入れていない。


だが外で起きていることも、修理と同じだと感じていた。


壊れた村を、少しずつ整える。

人と人の距離を、少しずつ縮める。


夕方、全員で囲んだ食卓は、以前よりも賑やかだった。


「これがタダ飯とはな!」

「働いたからね」


「うまい……」


フィオが素直に言うと、ミレーヌは満足そうに頷いた。


笑い声が、廃村の空に広がる。


カイはその音を聞きながら思う。

――人がいるだけで、場所は変わる。


廃村は、ただの廃墟ではなくなり始めていた。

火が灯り、声が重なり、働く手が増える。


根を張るのは植物だけじゃない。

人もまた、少しずつ、この地に根を下ろしていく。

戦闘ではなく「働く」ことで距離が縮まる。

褒められることで嬉しくなる。

その積み重ねが、信頼という土台を作っていきます。


修理はまだ終わっていません。

霊木の杖は、静かにカイの作業場で待っています。

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