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第三話 旅立ちの剣

ここまで読んでくださりありがとうございます!

第3話では、16歳を迎えたカイがついにクローディア家を出る決意をします。


幼い頃から冷遇され続けてきた日々。

けれど鍛冶屋のオヤジさんだけは、その「修理」のスキルを認めてくれました。

今回、カイはオヤジさんとの最後のやり取りを経て、たった一人で外の世界へ歩み出します。


カイにとっての新たな旅立ちの第一歩。

ここから「修理屋カイ」の物語が本格的に動き始めます――。

クローディア家で冷遇され続けてきた少年――カイは、十六歳の誕生日を迎えた。


カイはクローディア家の古びた自室で、ひとり荷物をまとめていた。この年になれば、貴族の子弟は慣例として「家を出る」ことを求められる。功績を立てて名を残すか、他家に仕官するか、あるいは行方知れずになるか。選択は本人に委ねられているが、実際には「厄介払い」に近い。


といっても、大した物はない。磨き込んだ工具袋、最低限の着替え、それに鍛冶屋のオヤジから預かっていた修理途中の小物。


(今日で、この家ともお別れか……)


末子という立場、そして「修理」しか持たぬスキルのせいで、冷たい視線を浴び続けた日々。

誰もが彼を見下し、存在を忘れたかのように扱った。


けれど、一人だけ違った。城下の鍛冶屋のオヤジ――グラントだった。 


 ◆


「……お世話になりました。今日で家を出ます」


 朝、鍛冶屋のオヤジさんの工房に立ち寄ったカイは、深く頭を下げた。煤にまみれた天井から光が差し込み、鉄の匂いが鼻を刺す。ここは、彼にとって唯一息のつける場所だった。


「ふん、十六になったか。クローディアのしきたりじゃ、もう家を出る歳だもんな」

「はい……」

 

オヤジさんは黙って鉄槌を置いた。その手は太く、幾度も火傷を負った痕が残っている。だが、その目は誰よりも温かかった。


「行くあてはあるのか?」

「いえ……でも、クローディア家の影響が届かない場所まで行こうと思っています」

「ふん……まあ、あの家に居座っても碌な目に遭わんだろうな」


 オヤジさんはしばし顎髭をいじり、何かを考え込むように目を細めた。やがて、奥の棚から長い包みを取り出す。


「ほれ、餞別だ」


「これは……」


 カイが包みを開くと、そこには一振りの剣が収められていた。鈍色の刃は磨き抜かれ、柄にはしっかりとした革が巻かれている。


「覚えてるか? お前と俺が唯一、二人で仕上げた剣だ。あの時『一番の出来だ』って言ったろう」

「……店の壁に飾ってあったやつ」

「ああ。ずっと置いてたが、お前にやろうと思ってな。どうしても食うに困ったら、売っちまえ。それでもいくらかの旅の資金にはなるはずだ」


「オヤジさん……」


 胸の奥が熱くなる。屋敷では誰からも見下され、存在すら無視された日々。それでも、この男だけは自分を一人の人間として扱ってくれた。


「忘れるな、坊主。剣も鎧も、壊れればただの鉄屑だ。だが――それを直せる奴がいなけりゃ、誰も戦えやしねえ。お前の“修理”は命そのものを繋ぐ力だ」


 カイは剣を胸に抱き、何度も頷いた。


「はい。俺……必ず証明します。修理しかできないって言われてきたけど……俺にしかできないことがあるって」

「よし、その意気だ」


 オヤジさんは豪快に笑い、だがすぐに真顔に戻った。

「気をつけろよ、カイ。クローディアの名は強大だ。あいつらの都合でまた手を伸ばしてくるかもしれねぇ。……だが、逃げるだけじゃねぇ。いつか堂々と胸張って、帰ってきやがれ」


「……はい!」



 工房を出ると、朝の空気が澄んでいた。城下町の喧騒、石畳の冷たさ、遠くから響く鐘の音――すべてが今日から「自分の旅路」になる。


 門をくぐる前、振り返るとオヤジさんが腕を組んで立っていた。煤だらけの顔に、珍しく寂しげな笑みが浮かんでいる。


「カイ!」


 大きな声が通りを震わせた。


「カイ! 覚えておけ! 修理ってのは“直す”だけじゃねぇ! 人の心だって、折れた夢だって、直せるんだ! お前ならできる!」


「そしてお前は俺の弟子だ! 忘れんな!」


 その一言に、カイの胸がぎゅっと締めつけられた。喉が詰まり、言葉が出ない。だから代わりに剣を高く掲げ、深く頭を下げた。


 その姿にオヤジさんは満足げに頷き、再び工房へと戻っていった。



 カイは歩き出す。

 背中には小さな荷袋、腰にはあの剣。そして胸の奥には、確かに燃える小さな炎。


 修理しか取り柄がないと笑われ続けた少年は、今――自分だけの道を歩み始めた。

最後までお読みいただきありがとうございました!


第3話では、カイがクローディア家を離れ、自分自身の力で生きていく覚悟を固めました。

オヤジさんから渡された剣は、ただの餞別ではなく、カイの決意を象徴する大切な相棒になっていくでしょう。


次回からは、貴族の庇護を失ったカイが初めて「一人の人間」として旅に出ます。

果たして彼の修理スキルはどんな出会いを呼び込み、どんな価値を示していくのか――?

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