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第28話:土を起こす手

井戸の水を得た廃村は、ようやく「生き延びる場所」になった。

だが、生きるためには水だけでは足りない。

食べ物――それも、続く食べ物が必要だった。

畑を耕そうと鍬を入れたカイたちは、ひとつの問題に気づく。

この村には、種がない。

朝露に濡れた草を踏みしめ、カイは畑だったと思しき一角に立っていた。

村の外れ、家々から少し離れた平地。

石は多いが、土は黒く、指で掘ると湿り気がある。


「……ここ、良さそうですね」


カイが言うと、ミレーヌは腰に手を当てて頷いた。

「昔は畑だったんだろうね。井戸にも近いし、風も抜ける」


リディアは周囲を見回し、警戒するように森の方へ視線を走らせてから言った。

「魔物の通り道からは外れている。

 夜番さえ立てれば、問題はない」


三人は簡単な打ち合わせのあと、作業に取りかかった。

カイは倉庫から見つけ出した古い鍬を手に取り、刃先を研ぎ直す。

欠けていた刃は、石で削り、叩いて形を整えた。


「……まだ使えますね」

「さすが修理屋」


ミレーヌが笑い、鍬を受け取って地面に突き立てる。

土が返り、湿った匂いが立ち上った。


だが、数列ほど起こしたところで、ミレーヌが手を止めた。


「……で?」

「で?」

「種は?」


三人の動きが、ぴたりと止まる。


カイは畑を見下ろし、ゆっくりと瞬きをした。

「……ありませんね」


「ないね」

「ない」


静かな沈黙。


「……そりゃそうだよね」

ミレーヌが肩をすくめる。

「畑はあっても、誰も住んでなかったんだ。種が残るわけがない」


カイは頭を掻いた。「途中で拾ってきたのは、もう蒔いちゃいましたし」

「オルフェンなら……売ってますよね。種」


その言葉に、リディアがすっと顔を上げた。


「私が行く」

「え?」


即答だった。


「道は覚えている。

 森を抜ければ早い。往復で二日もあれば戻れる」


ミレーヌは一瞬考え、頷いた。

「確かに、あんたが一番安全だ。

 ……街の様子も、見てきてほしいしね」


カイは少し不安そうに言った。

「危なくないですか? クローディア家とか……」


リディアは短く息を吐いた。

「今の私は、ただの冒険者だ。

 それに……街の空気は、見ておく必要がある」


そう言って、彼女は剣の紐を締め直した。


「まず、塩、油。あとは種の追加分だね。

 芋と豆は、この前拾った分をもう植えてる。

 全部をそれに賭けるのは危ないから、保険を増やすんだよ」


「保険、ですか」


「そう。

 根菜類――人参、蕪、あと玉ねぎ。

 煮込みでよく使うし、多少出来が悪くても食べられる。

 保存も利くし、冬越しにも向いてる」


リディアは静かに頷いた。

「合理的だ」


「料理ってのはね、派手さより“毎日作れるか”が大事なのさ」

ミレーヌは鍬を地面に突き立て、畑を見渡す。


「麦も少し。

 全部は無理でも、粉にできれば腹持ちが違う。

 最初は欲張らない。それが一番失敗しにくい」


カイはその言葉を噛みしめるように聞き、木炭で板に書き留めた。


――芋・豆(追加)

――根菜類

――麦(少量)


「量は……少し多めにします。

 芽が出ない分も、想定して」


「いい判断だね」

ミレーヌは満足そうに笑った。

「そういうところ、あんたは現実的だね」


準備を整え、リディアは軽装で村を出た。

振り返らず、だが足取りは確かだった。


彼女の背が森に消えたあと、カイは畑を見つめる。


「……その間に、できること、やりましょう」

「そうだね」

ミレーヌは鍬を肩に担ぎ、にやりと笑った。

「土は裏切らない。ちゃんと手をかければ、応えてくれる」


二人は再び畑に鍬を入れる。

石をどけ、根を抜き、土を返す。

汗が額を流れ、息が少し荒くなる。


だが、不思議と心は軽かった。


種はまだない。

けれど、土はもう、目を覚ましている。

廃村での生活が「定住」へと一歩進みました。

畑を耕すという行為は、未来に食べるものを託すこと。

そして、種を求めてリディアは再びオルフェンへ向かいます。

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