表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第二話 鍛冶屋の片隅で

読んでくださってありがとうございます!

第2話では、カイが城下町の鍛冶屋に通いながら「修理」のスキルを磨く様子を描きます。


地味で役に立たないと笑われてきたスキル。けれど、鍛冶屋のオヤジだけはその可能性を見抜いてくれていました。

兄たちに見下され続けた日々の中で、初めて「認められた」と感じる瞬間。

それがカイの心にどんな火を灯すのか――。

 カイが十歳になった頃には、ほとんど毎日のように城下町の鍛冶屋へ通っていた。

 クローディア家の一員とはいえ、屋敷での居場所はなく、兄たちからは「役立たず」と言われ続ける日々。だからこそ、彼は鍛冶屋の煤けた匂いの中に、自分の存在価値を見いだしていた。


 カン、カンと鉄を打つ音。火花が散る度に、胸の奥に熱が宿る気がした。


「おう坊主、ようやく来たか」

 大きな腕を振るって鉄を打っていた鍛冶屋の親父――街の人々からは“オヤジさん”と呼ばれる男が、煤だらけの顔をこちらに向けた。

「はい。昨日頼まれてた鎧の修理、仕上げてきました」


 カイは布でくるんだ鎧を差し出す。オヤジさんが受け取り、目を凝らす。


「おいおい……昨日より綺麗に仕上がってるじゃねぇか。いい出来だぞ」

「いえ、僕の腕じゃなくて、“修理”のスキルが勝手に成長してるだけですよ」

「へっ、いいことじゃねえか」


 オヤジさんは鼻を鳴らしながらも、口の端に笑みを浮かべる。

「だがよ、坊主。お前の力はもう『ただの修理』じゃねえ。剣も鎧も、使えなくなったもんが蘇っちまうんだ。あのクローディア家の誰よりも、ずっと役に立つ日が来るぜ」


「……でも、俺には修理しかできないから」


 カイは小さく肩をすくめた。

 オヤジさんはしばらく黙って彼を見ていたが、やがて真剣な声で言った。

「いいか、坊主。この街に縛られるな。お前の腕なら、いずれどこへ行っても食っていける。忘れるなよ」


 その言葉は、カイの胸に小さな火を灯した。



 ある日のことだった。鍛冶屋の扉が、バンッと乱暴に開かれた。

「どけ!」


 現れたのは豪奢な服を着た青年――カイの長兄だった。

 城下町の空気には似つかわしくない、鼻持ちならない威圧感を纏っている。


「……兄上……」

「おいカイ、これをすぐ直せ」


 無造作に投げられたのは、刃こぼれだらけの剣だった。かつては高価だっただろうが、今ではただの鉄屑同然。


 カイは剣を拾い上げ、目を細める。

「……これは、相当ひどいです。時間がかかりますが……」


「時間?」長兄が鼻で笑った。

「ふざけるな。お前の取り柄は“修理”しかないんだろう? 黙って早くやれ!」


 その場の空気が一気に張り詰める。

 オヤジさんが黙っていられず、奥から出てきた。


「おいおい、ここは俺の鍛冶屋だぞ。俺の店で勝手に仕切るんじゃねぇ!」

「黙れ!平民風情が」長兄が冷ややかに睨む。

「これはクローディア家の問題だ」


 オヤジさんは歯噛みした。だがカイはうつむき、静かに答えた。

「……わかりました。直します……」


「カイ、お前……」

 オヤジさんの目に、悔しさと心配が混じった色が浮かぶ。


 長兄は鼻を鳴らし、ふんぞり返って出て行った。



 残された鍛冶屋の中で、カイは黙々と剣に向かっていた。

 布で拭い、欠けをなぞり、力を込める。淡い光が刃に走り、ひび割れた部分が繋がっていく。


「……よし、形にはなった」


 息を吐くカイに、オヤジさんがぼそりと呟く。

「坊主、お前……いずれはここを出ろ。クローディア家なんざに縛られてたら潰されるだけだ」


「でも……俺には修理しか……」

「馬鹿野郎!」オヤジさんが怒鳴った。

「剣がなきゃ戦えねぇ。鎧がなきゃ守れねぇ。修理がなきゃ、壊れたら全部ゴミだ。お前の力は、ただの“修理”の力じゃねぇんだよ」


 その言葉に、カイははっと息をのんだ。

 誰も認めてくれなかった自分の力を、真正面から肯定してくれる人がいる。


「……オヤジさん」

「覚えとけ、坊主。壊れたもんを直せる奴は、戦場じゃ命より重い。いつかお前を必要とする奴が必ず現れる。そん時は胸張って名乗れ。“修理屋カイ”だってな」


 カイは小さく笑った。

「……はい」


 心の奥に、確かな熱が生まれる。

 冷遇され、見下され続けた日々の中で初めて芽生えた「自分の力を信じたい」という想い。


 修理しかできない――そう思い込んでいた自分。

 けれど、オヤジさんの言葉が胸の奥で響き続けていた。


(修理……そんなに駄目なのか? 俺にしかできないことが、きっとあるはずだ)


 少年の小さな呟きは、やがて大きな未来へと繋がっていくのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!

今回は「修理」というスキルが、ただの落ちこぼれ扱いではなく、確かな価値を持つと示された回でした。

オヤジさんにかけられた言葉は、カイにとってきっと忘れられない宝物になるはずです。


次回は、カイが16歳を迎えます。

クローディア家の冷酷な現実の中で、カイはどう動くのか……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ