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第11話 餞別の剣、戦場を裂く

巨大な魔物の出現に、討伐隊は絶体絶命の窮地に追い込まれる。

砕ける剣、折れる槍、兵士たちの心までもが折れかけたその時――。

カイが背負っていた包みから現れたのは、かつて鍛冶屋の親方と共に打ち上げた唯一の剣。

餞別として受け取り、戦場で使うことなく大切に守ってきたその武器が、今、隊長ダリウスの手に託される。

戦いを支えるのは、修理屋の小さな誇りと、大きな信頼だった。

◆戦況の悪化


戦場から戻ってきたダリウスは、肩で息を切らしながら広場へと駆け込んできた。

鎧は血と泥にまみれ、握っていた大剣は刃が無残に砕け散っている。


「くそっ……! あの巨大な魔物には歯が立たねぇ! 剣がもう……砕けちまった!」


兵士たちも同様に疲弊していた。

盾は裂け、槍は折れ、鎧は引き裂かれている。

誰もが膝を折りかけ、広場には重苦しい沈黙が落ちた。


◆餞別の剣


カイは迷いながらも、背中の包みに手を伸ばした。

震える指先で布を解き、磨き上げられた一本の剣を取り出す。


「これを……使ってください」


剣を見た瞬間、ダリウスの目が細められる。

「……こいつは?」


カイは唇を噛み、声を震わせながら答えた。

「僕が……鍛冶屋のオヤジさんと一緒に作った唯一の剣です。

 家を出るとき、餞別として頂きました。

 まだ戦場で使ったことはありません。

 でも、ずっと手入れだけは欠かさなかった……」


その言葉に周囲が息を呑む。

兵士たちの視線が剣に集まり、緊張が走った。


◆隊長の宣言


ダリウスは剣を受け取り、重みを確かめるように握った。

その瞬間、彼の表情が変わる。


「……すげぇ……持っただけでわかるぞ。こいつは本物だ!」


目を輝かせ、豪快に笑った。

「この俺の手に、やっとホンモノの武器が来た! 任せろ、カイ! この剣で必ずあの魔物を討つ!」


兵士たちがざわめき、期待の光が戻っていく。

「隊長なら……」「これで戦えるかもしれない!」


◆巨大な魔物との対峙


轟音と共に、戦場の向こうから巨大な影が迫る。

鱗に覆われた身体、山のような巨体、咆哮は地面を震わせた。


「おらぁっ! どうした魔物!」

ダリウスが剣を掲げ、真っ直ぐに駆け出す。


剣が閃くたび、分厚い鱗が砕け、赤黒い血飛沫が舞う。

兵士たちは息を呑み、やがて歓声を上げた。


「隊長が……押してる!」

「魔物の鱗が斬れてるぞ!」


ダリウスは豪快に笑いながら叫ぶ。

「この剣はお前なんぞに負けねぇぞ!」


剣の一閃ごとに戦場の空気が変わっていった。

恐怖に支配されていた兵士たちの目に、再び炎が宿る。


◆蒼月亭への報せ


臨時の蒼月亭に戻ってきた伝令兵が、息を切らして叫んだ。

「隊長が……隊長があの巨大な魔物を押し返してる! 形勢がこっちに傾いたぞ!」


その報告に、広場はどよめいた。

「本当か!」「やっぱり隊長だ!」


カイは胸を熱くし、剣を見つめた。

(僕が……作った剣が……! 人の命を繋ぎ、戦況を変えている……!)


◆女将の言葉


隣で様子を見ていたミレーヌが、にやりと笑い、カイの肩を叩いた。

「ほら見な、カイ。あんたの剣が戦場を救ってるんだ。

 あんたは鍛冶屋じゃない、修理屋じゃない……立派な武器職人さ」


カイは小さく頷き、遠くの戦場を見つめた。

そこには、自分の剣を振るい、巨大な魔物を切り裂いていくダリウスの雄姿があった。


「……僕も、この街の一員なんだ」


その呟きは金槌の音よりも小さかったが、確かに彼の胸に響いていた。

第11話では、カイがかつて親方と共に打ち上げた「唯一の剣」が、ついに戦場で輝きを放ちました。

ダリウスの豪快な戦いと、その背を支える修理屋カイ。

剣を通して「師の思い」「弟子の誇り」が戦場全体へと広がり、兵士たちの戦意を蘇らせる。

これはただの武器ではなく、人を繋ぎ、街を守る希望そのもの。


次回は――巨大な魔物との決着、そして討伐の帰還。

歓喜と喪失の入り混じる中で、カイがさらにどんな成長を見せるのかが描かれることになるでしょう

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