第10話 戦場を支える再会
街の正門前に設けられた臨時の《蒼月亭》。
そこは今や、戦場に向かう兵士や冒険者たちにとって欠かせない拠点となっていた。
水と食事、応急処置、そして何より「武具を直す」場。
その中心に立つカイは、不安と誇りを胸に、ひたすら金槌を振るい続ける。
そんな折、かつて城下町の鍛冶屋で出会った人物との再会が訪れる――。
豪快な笑いと鋼の信念を持つ男、ダリウス隊長。
彼の言葉が、カイの心に新たな力を与える。
◆正門前の臨時拠点
石畳の広場に並べられた長机、その上には食器と薬草、樽に入った水。
《蒼月亭》の従業員たちが忙しなく動き回り、傷ついた兵士に食事を配り、包帯を巻く。
その一角で、カイは汗を流しながら武具を直していた。
「次は俺の剣だ!」「俺の盾も頼む!」
途切れぬ声に答えるたび、金槌の音が響く。
彼の目の奥には緊張がにじんでいた。
戻ってくる兵士や冒険者の顔は土と血に覆われ、戦況の厳しさを雄弁に物語っていたからだ。
◆豪快な声
「おう! ここが噂の臨時修理屋か!」
一際大きな声が響き、列が自然と割れていく。
現れたのは、がっしりとした体格の壮年の男。
鎧は土埃にまみれ、肩には幾度もの戦いの傷跡。
その存在感だけで周囲を圧倒していた。
「……あっ!」
カイの胸が跳ねる。
かつて城下町の鍛冶屋でよく顔を合わせた部隊長――ダリウス。
豪快な笑い声と、武器に妥協を許さぬ姿勢。
若き日のカイにとって、最も印象深い客の一人だった。
◆旧知の再会
そんな最中、突然広場に響いた大声があった。
「なんだお前……カイじゃねぇか!」
その豪快な響きに、列を作っていた兵士たちが思わず振り返る。
現れたのは屈強な体格の壮年の男。鎧には土埃と無数の傷跡。
一歩前に出ただけで空気が変わる。
「ダ、ダリウス隊長……!」
驚きに金槌を止めるカイ。
ダリウスはどんと肩を叩いた。
「お前がここにいるとはな! 昔から器用な奴だったが、まさかこんなとこで修理屋やってるとは!」
その言葉に周囲がざわつく。
「隊長の知り合いか?」「そんなに腕の立つ奴なのか?」
ダリウスは兵士たちを見渡し、声を張り上げた。
「こいつの腕は確かだぞ! 俺も何度も世話になった! お前ら、順番は守れ! こいつに任せりゃ命が繋がる!」
豪快な宣言に、場の空気が一変する。
兵士たちの目は信頼と期待で輝き、ざわつきは収まった。
「そうなのか……」「隊長が言うなら間違いねぇ」
◆女将と隊長
その場にミレーヌが進み出た。
腕を組み、にやりと笑う。
「隊長、アンタも知ってたのかい。なら話は早い。ここは蒼月亭の名を背負ってる。修理はカイに、統率はあたしに任せな!」
「ははっ! 頼もしい女将さんだな!」
ダリウスは豪快に笑い、兵士たちを振り返る。
「よし! この場の秩序は蒼月亭に任せろ! 俺は戦場で結果を出す! お前ら、ここで直してもらった武器は絶対に無駄にするんじゃねぇぞ!」
兵士たちが一斉に「おおっ!」と声を上げ、拳を掲げる。
その瞬間、臨時の蒼月亭は単なる支援所ではなく、戦場と街を繋ぐ砦としての存在感を帯びた。
◆託された誇り
カイは胸を熱くしながらも、手を止めずに修理を続ける。
「僕の小さな修理が……こんなにも大きな力に繋がっていくんだ」
ダリウスはカイの前に戻り、力強く手を握った。
「お前の腕は戦の要だ。胸張っとけ!」
その言葉は、カイの心に深く刻まれた。
存在を否定され、追われるように街を出た日々。
だが今、隊長に認められ、兵士たちに頼られている。
「……はい!」
力強い声で返事をし、再び金槌を振るう。
火花は散らない。だがその音は、兵士たちの胸を鼓舞する戦鼓となって響いた。
◆隊長の背中
「よし、任せたぞ!」
ダリウスは笑顔で部下たちを集める。
「俺は戦場に戻る。お前ら、命を繋げ! 街を守れ!」
兵士たちが「おおっ!」と声を上げると、ダリウスは振り返らず駆け出していった。
その背中は戦場そのものを背負う男のものだった。
カイは目を細めて見送り、心の中で呟いた。
(僕も……僕なりに、この街を守るんだ)
ミレーヌが背中を軽く叩く。
「ほら聞いたろ。隊長に認められたんだ。あんた、もう後戻りできないよ。街のために、命を繋ぐ修理をやりな!」
「……はい!」
カイは笑顔で答え、再び武具に向かう。
金槌の音が戦場の入口に鳴り響き、臨時の蒼月亭は熱気に包まれていた。
第10話では、ついにカイが過去の知り合い――ダリウス隊長と再会しました。
彼の豪快な言葉は、カイにとって何よりの励ましであり、自分の存在価値を再確認する瞬間でした。
「戦えない自分」から「戦場を支える自分」へ。修理屋カイは、確かな自信を胸に歩みを進めます




