遭遇
未知の大地へと歩を進める日本。
そこに待ち受けるものとは?
そしてそれに対する日本の選択は?
新しき世界へ・・・第二話です。
高橋たちのいる丘を目指し(正確にはその向こう側)村人達は歩み続ける。
高橋たちはまだその事に気付いていない。
そしてその一団の最後尾を守る様に簡単な武装をした若者たちがいた。
「何とか無事脱出できたな」
若者たちのリーダーであるアインが仲間に声をかける。
彼は冒険者として各地を渡り歩き、あの狂信者と噂されるアンストンが異教徒狩りに出ると聞き村まで来ていた。
何より仲間の中にこの村出身者がいたのだ。
若い故の青っちょろい熱血漢とも言える。
「でも、あの狂信者は追ってくるよ?どうする?」
アインに付き従う魔術師の少女、幼なじみのシャインが今後どうすべきなのかをリーダーたるアインに聞いた。
しかし、アインもまだそこまでは考えていない。
「どうする、と言われても・・・ただ、あいつら荷駄隊が居ないからそれほど遠くまでは動けないはずだよ」
行き当たりばったりの意見に思わず嘆息してしまう。
たしかにそれは事実だが、アンストンの部隊は騎馬が中心の集団であるため、予想よりも広い行動半径がある。
はっきり言って甘い認識だ。
「すみません・・・私の故郷のせいで・・・」
二人のやり取りに思わず顔を伏せてしまった少女がいた。
アンストンの襲撃を受けた村生まれの少女だ。
盗賊紛いの事をして村に送金などしてきたが、とある街でアインたちと出会い行動を共にしてかた。
今回はその彼女、ミューリの故郷の危機の為に仲間たちは動いてくれた。
しかし、結果として仲間たちをも危険な状況に追い込んでしまったのだ。
そのミューリにシャインが慌てて慰める。
「ミューリのせいじゃないよ。悪いのはアインだから」
笑いながらそう言ってのけたシャインにアインが抗議の声を挙げるが悲しいかな、黙殺されてしまった。
「ちぇ、でも何であいつらは追撃してこないんだ?」
素朴な疑問を口にするアインにシャインが少し考え込む。
アインは剣士として生きてきたので兵としては優れた力がある。
しかし、魔術師として教育を受けたシャインは知識の一環として軍事知識も教育されている。
そのパーティーの頭脳とも言えるシャインは、この村人たちの疲労と警戒心が和らぐ瞬間を待っている様に思えた。
シャインの考えを聞いたミューリも同じ意見だ。
ただ逃げ出したとは言え若い男たちもいる。
生き延びる為に必死になられたらアンストンの率いる兵たちにも犠牲がでるだろう。
だが、疲労が溜まり、そして追撃が無いのに安心して緊張の糸が切れたなら・・・間違いなく抵抗する気にもならずただ虐殺されるだろう。
「とにかく、少しでも距離を稼ぎましょう」
ミューリの言葉にアインとシャインは頷いた。
「班長、森に何か動くものが見えました」
双眼鏡で森を監視していた部下の一人が田淵に報告した。
それを聞いた田淵は部下から双眼鏡を受け取り自身の目で確認しようとした。
「どこだ?見えんぞ?」
田淵が見間違いじゃないか?と思い声を荒げた。
部下は此方です、と言って方向を指差す。
田淵は横柄な態度をしつつも部下の示す方向を見た。
そして森の中を此方に向かってくる何かの集団が木々の間から目に入った。
「な、なんだ・・・?」
田淵の言葉に全員に緊張が走る。
高橋は井上と共にその方向を確認した。
肉眼でははっきりと見えないが、二人は自前の双眼鏡を覗き込むとはっきり見えた。
「・・・武装はしてないみたいですが・・・」
井上が田淵の判断を待つ。
その判断すべき田淵はどうすべきかが頭から抜け落ちて呆然としていた。
「班長!後方へ指示を仰いでは?」
高橋が大きな声を挙げて田淵の意識を自分に向けようとした。
思わずはっとした田淵は、そ、そうだな、と言って自分で無線機を使い始めた。
「どう思う?」
こちらに向かって来る集団から目を反らさずに高橋は井上に意見を求めた。
「兵隊じゃないみたいだけど・・・何かと聞かれても分からんとしか言えねぇ」
普段暢気な井上はだが、この時ばかりは真剣な眼差しだ。
「やっぱな。取り敢えず何時でも撃てる様にすべきか・・・」
上が絶対に許可したがらないのは良く知っていたが、自分や仲間の身を守る為にはやらざるを得なくなる。
とは言え、撃つな、と言われたら殺されても撃たないのが自衛隊だ。
ある意味それは自衛官に取って一番覚悟せねばならない事かもしれない。
「は?し、しかし・・・はい・・・りょ了解です・・・」
後方と連絡が取れ、何かしらの指示を受けた田淵は力ない様子で戻ってきた。
「班長、どうしたら良いですか?」
部下が田淵にそう聞いた。
高橋も井上も、田淵の指示がなければ動きたくても動けない。
だが、田淵の口から伝えられた命令に二人は、いやその場の全員が驚愕することになる。