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日本の向かう先

さてさて、一つの区切りとなる第21話です。


日本はこの世界へとやってきた。

それにより日本は危機に瀕したが辛くも切り抜け、新たな隣人を得た。


これで「新しき世界へ」はひとつの終わりを向かえ新たな一歩を踏み出します。


では「新しき世界へ」最終話をお楽しみください。

荘厳な印象を受けるステンドグラスに囲まれた広間では、何人もの宗教関係者と受け取れる人物たちが円卓を囲んで議論を交わしていた。

議題は突然現れ、ファマティー神に背きし日本と言う国についてだ。

その議論もどう打ち倒すか?

と言うものに終始しているため議論は方法論に対するものへとなっている。

そして彼等を悩ませているのは如何に大国とは言えない中規模の国とは言え、それを圧倒した軍事力だった。

「下手な国を焚き付けても効果は望めませんな」

豪華なころもを纏う高位の司教の発言に誰もが頷く。

単純に軍事力で圧倒出来るなら誰も頭を悩ましはしない。

むしろ軍事力を使わないで日本と言う国を滅ぼさないでも、自分たちの側に引き込められないだろうか?

それが今、話し合われている最大の議題と言えた。

「ロシュアン枢機卿、あなた様のご意見を伺っておりませぬが?」

この場にいる誰もが最初から聴きに回っている一人の男の発言を待っていた。

ある意味、現在のファマティー教の中で教皇に次ぐ順列にあり、気弱な教皇を傀儡にしていると真しやかに噂される程の人物だ。

実際、若い教皇は即位より今までまともに指針を示した事はない。

常に彼、ロシュアン・クローリーの指示の下に教皇は動いていた。

その為、何故、今代教皇選出の時に自ら出なかったのかが疑問視されたほどだ。

「いやいや、私の意見など大した物ではありませんよ」

謙虚な姿勢を示すためなのか自身の意見をあやふやにするロシュアンはそう言って発言しなかった。

「何を言われますか、あの強大な軍事力を誇りファマティー教を否定していた帝国でさえあなた様の力で膝を屈したではありませんか」

おだてた、と言うより事実をそのまま伝えた様な話ぶりにロシュアンはふむ、と唸る。

「左様、そのかいあって大陸西方の不信心者は一掃されました」

先の発言に次々と沸き起こるロシュアンを褒め称えるが如く発言が飛び交う。

この場を知るものが見れば明らかに教皇より強大な力を有した人物であると見るだろう。

「まあまあ、皆さんの前ですし粗末なものですが私の意見を話させて頂きます」

ロシュアンのこの一言で場は静まり返っていた。

「私と致しましては、如何に強大な軍事力を持つ国であろうと恐れるべきでは無いと考えます」

そう言ったロシュアンは如何にファマティー教がこの世界で偉大で、そして強大かを語る。

日本と言う未知の国が如何に軍事力を持ち、王国を打倒したとしても所詮は遥か東方の極地の出来事、世界にさしたる影響はないと言った。

「また日本がファマティー教を信仰していないなら教化も出来ましょう。まずは国の中枢から布教し、彼等自身の過ちを自らに自覚させればそれだけで済みます」

ホードラー王国滅亡は確かに悲しいですが、と付け加える。

「それではファマティー教信徒たちに神聖なるいくさを指示なさらないのですか?」

司教の一人の意見にロシュアンは頷いた。

「如何に異教徒であろうと最初から力で叩く様では神の教えに反しますよ?」

こう言われて発言した司教も己の未熟に赤くなる。

端から見れば、平和的に解決を図ろうとする立派な聖職者に見える。

だが、その内心には聖職者とは思えない程のどす黒いものが渦巻いているのを知るものはいない。

「とにかく、まずは使節を送り、ファマティー教布教を認めて頂きましょう」

ロシュアンのこの一言で場の方針は決まった様なものと言えた。

何より、議論と言うよりロシュアンただ一人の意志を聞く場でしかなかったのだ。

「では、使節の選出は我等が行います」

司教たちがそう言いながら席を立つと、ロシュアンは満足げに頷いた。


一人場に残ったロシュアンは、日本と言う国が如何なる国かを理解する時間が必要だと感じていた。

「日本か・・・我等がファマティー教に殉ずればよし、さもなくば・・・」

ロシュアンはまだ見ぬ話にしか聞いた事の無い日本がこの世界に与える影響と言うものをまだ知らなかった。





数日の滞在の後、アーヴァインはアルトリア基地の面々の見送りの中、多用途ヘリコプターUH-1Jに乗り大森林へと帰って行った。

始めは車を使おうと思ったが、アーヴァイン自身の空を飛ぶ機械に乗ってみたい、と言う意志もありこうしたのだ。

北野も同乗し、再度話し合う場を持つ予定だ。

アーヴァインの乗るUH-1Jが遠ざかると自衛官たちは本来の持ち場へと帰っていく。

アーヴァインとの交流で得るものが多かった高橋は翌日から行われるホードラー地域巡回の引き継ぎの準備のため自室へと足を向けた。

「慌ただしかったが楽しかったな」

独り言を口にしながら満足な表情を浮かべた高橋はそのままそこを後にした。



自室で書類を整理して数時間した時、にわかにドア前が騒がしくなった。

疑問符を頭に浮かべながらドアの前に来ると突然、ドアが開け放たれた。

「いよぉ!隊長さん!」

見慣れた井上の顔がそこにはあった。

ただし、額には青筋が浮かんでいる。

「お、おお、もう戻りか?」

何か分からないが気圧された高橋は一瞬後退りした。

そんな事に構わず井上は室内に入ってくる。

その後ろから佐藤や高橋の部下たちも入ってきた。

流石に30人が入れる様な作りになっていないため、かなり狭い。

「おいおい、一体・・・」

高橋が皆を押し留めようとするが、誰もが高橋を囲む様にして集まってきている。

「さて、何で俺が怒ってるか分かってるよな?」

井上の言葉に高橋は素で首を傾げた。


全く見に覚えがない。


それが高橋の考えだった。

「俺、何か怒られる様な事したか?」

全く何も理解してない高橋に井上は一言言った。

「・・・・・・やれ」

直後一斉に拳を持って向かってくる隊の仲間に高橋は思わず悲鳴を上げた。

後に基地警務隊が鎮圧するまでこの騒ぎは続くことになる。



日本では鈴木総理の下、民間アルトリア渡航の法案が本格的に議論されていた。

無制限に向かわせれば現地で要らぬトラブルを起こしかねないので制限付にせざる得ない。

しかし、野党やマスコミは現実を知らない為か、やたらと制限を撤廃すべきだ、と主張していた。

幾ら鈴木が現地の風習や慣習が日本とはかけ離れており危険と言っても聞き入れやしない。

これも自分の蒔いた種、と思うが、だからと言って認める訳には行かない。

「なんなら奴等を現地に送り込んでやったらどうだ?少しは分かるんじゃないか?」

伊達はうんざりした様子だ。

それもそのはず、ここ数日間ずっとマスコミに付きまとわれている。

「それで何かあったら政府が悪い、と言い出すのですね?連中のやり口なんかわかりきってますよ」

伊達の提案に伊庭が首を振る。

如何に現地の治安の為に自衛隊を展開させていても限度がある。

ホードラーの確保している地域は日本の倍ぐらいの広さだ。

そしてアルトリアは昔の満州ほどの広さがある。

そんな広大な領域を自衛隊の一部だけで治安を守るなど不可能だ。

未だに無法を働く輩が多く、そんな中に現代の日本人を送り出せば獣の群れに羊を投げ込む様なものだ。

アルトリア地域はまだ安定している方だが、未調査の地域がありすぎる。

どんな危険な生物や植物があるか分からない。

「それにマスコミのことだ。絶対無許可で侵入禁止の地域に入り込みかねない」

鈴木も疲れた目で言った。

現に何度か漁船などを使って無許可渡航を実行しようとさえしていた。

「在日外国人の移住計画の問題もあるしな。ここでエルフと事を構えたくないよ」

そう言って鈴木は北野から送られた資料を見た。

最初はエルフと言われて何の話だ?と思ったが、本当にそう言った種族がいた事に驚きを隠せない。

一応発表はしたが、まだ正式な会談も交渉もしていない、と言ったにも関わらずマスコミが騒ぐ騒ぐ。

おかげで外務省前や官邸前にはマスコミが待ち構えており業務に支障が出ている程だ。

「まさか大森林沿いに壁を作る訳にも行きませんしね」

苦笑しながら言うが伊庭とて内心その方がまだ楽だと思っている。

「まあ、そこはエルフの人たちとの交渉次第だな」

お茶を飲みながら伊達は束の間の休息を取る。

「荷は重く道は遠きけり、だな」

鈴木はそろそろ国会の再開や、食料、供給の目処が付次第燃料などの統制も緩和しなければならないと思っていた。

「されど荷を捨てるも死、歩みを止めても死、ならば逝くしかあるまいな」

伊達は鈴木にあわせてそう言った。

だが、彼等が抱える問題は極めて大きく、それは彼等の手に余る。

それでも進まなければならないのは責務だからか?

「どちらにせよ、国民にはまだ我慢を強いらねばなりますまい」

二人の苦労を思えば自身の抱える問題が些末に感じられる。

だから伊庭はアルトリアやホードラーにおける自衛隊の活動は重大だと思っていた。



日本がこの世界に転移してより3ヶ月が経とうとしていたが、まだ多くの問題を抱えながらも日本と言う船はこの世界と言う海をいくことになる。


時に西暦201X年7月29日。

日本は未だ暗雲の中をさ迷いながらも着実に明日を目指して進み続けていた。


最終話ながら短くてすいません。


これにて新しき世界へは一応の終わりを迎えます。

ですが、まだまだ日本の異世界での物語りは終わりません。


なので、次回作に続きますw


ここまで読んでくださった皆様には感謝の言葉もありません。

次回作も引き続き読んでくださると幸いです。


それでは次回作でお会いしましょう。

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