訪問者と日本人
ついにきました20話です。
アルトリア基地にきたアーヴァインは基地の人々から歓迎を受ける。
それは種族の違うもの同士の本格的な交流の始まりだった・・・。
第20話「訪問者と日本人」お楽しみください。
大森林前で高橋と北野を待つ二人は二日目の日が沈む様子を見ていた。
二人は高橋から「4日経っても戻らなければ基地に戻って指示を仰げ」と言われていた。
「二日経ちましたね」
多田が呟く。
そんな多田を横目に四宮は大森林を見つめていた。
本当なら着いて行きたかった。
しかし、高橋の退路を確保しろ、と言う事に反論出来なかった。
そんなに自分たちは信用出来ないのだろうか?
頼りないのだろうか?
そんな疑問が頭に浮かんでは消えていく。
「四宮さん、取りあえず食事にしましょう」
色々考えこむ四宮に多田が声をかけた。
何時までも、ぼー、としてられない。
四宮は意識を切り替えると荷物を漁る多田に近付いた。
その時、無線機から声が聞こえてきた。
「・・ら・・・答せよ・・・此方ネゴシエーター、ハウス応答せよ・・・」
高橋の声に二人は顔を見合わせると無線機に走り出す。
「こちらハウスキーパー2、ネゴシエーターどうぞ?」
少し出遅れた四宮は地団駄を踏んでいる。
「おう、これより帰還する。何時でも動ける様にしといてくれ」
切迫した様子もなくのんびりした感じの声に交渉がうまくいったのだと思った。
「了解、家出息子の帰還を待ちます」
多田が無線機にそういうと高橋は愉快そうに言った。
「お前井上と気が合いそうだな」
恐らく今頃は日本にいる井上がくしゃみでもしてるに違いない。
その光景が高橋には浮かんだ。
「では、お待ちしています」
多田がそう言って無線を切った。
「高橋隊長は上手く行ったみたいですね」
多田はそう言って振り返った。
そして後悔する。
そこには憤怒の炎を纏った般若がいたからだ。
「多田く~ん?何で代わってくれないばかりか切っちゃうのかな?」
四宮の言葉に多田は後退りするしかない。
「多田く~ん?」
その言葉を聞いた後、多田は四宮の胸の膨らみを顔で感じつつ暗闇へと意識を手放した。
高橋と北野が帰ってきた時、四宮が運転席、多田が助手席で伸びていた。
何があったかは知らないが、聞いてはならないように感じた高橋は聞かない様にしていた。
その時、四宮は見慣れない人が高橋と北野に着いてきているのに気付いた。
警戒しながらも高橋に誰か?と聞く。
「エルフの代表としてアルトリア基地に視察に来られたアーヴァイン殿です。失礼の無いようにね」
高橋の代わりに北野が教える。
慌てて多田を叩き起こすと敬礼した。
そして互いに自己紹介し、高機動車に乗り込んだ。
動き出した車内でアーヴァインは馬も使わずに動く高機動車に興味を持ったのか、終始その話になった。
「単純な移動手段とするならかなり効率が良さそうだな」
アーヴァインは感心しながら感想を言った。
「そうとも言えませんよ」
そんなアーヴァインに高橋は以外にも反対の事を言い出した。
「馬はそこらの草を食べれば維持には困らないでしょうが、コイツは燃料が無くなったら動かせません。しかも、きちんと整備してやらないと直ぐに動かなくなります。そして整備するには高い技術力が必要です」
たしかに車と言う代物は燃料が無ければただの置物だ。
そして整備する技術力が無ければ整備できず、壊れても修理が出来ない。
ましてや、技術力は教えたから、与えたからと言って身に付く物ではない。
今度は技術力を発揮するための工業力が必要になる。
それらはかなりの投資と積み重ねてきた基礎工業力があって初めて発揮されるのだ。
現に元いた世界では基礎工業力が全くなく、ただ与えられた技術力を自らの実力と勘違いした国があった。
結果、日本に儲けを渡すだけの鵜飼の鵜になっていた現実がある。
つまり、長い目でみた投資と積み重ねがあって初めて基礎工業力となるのだ。
でなければ経済的植民地になるより他は無くなってしまう。
もちろん、日本の立場からすればそれでも良いのだが、競争相手がいなければ技術と言うのは発展し難い。
そう言う意味では基礎工業力を養う力を持ち、日本に追い付き追い越せと切磋琢磨できる国が一つはあった方が良いのだ。
「ですから、それほど簡単な話ではないのです」
技術力の話をされてもアーヴァインには分からない。
しかし、話の内容からある程度の予測はたつ。
「なるほど、使うとしてもしばらくは日本に依存になるか」
二人の会話を聞きながら北野は中々に感心していた。
特別物事に詳しい訳ではないが、それでも表面だけではない高橋の知識とその説明の仕方は教師向きとも言える。
何より瞬時に話す内容の筋道を見いだせるのは外交向きだ。
対するアーヴァインは理解の範疇外であっても、積極的に知識に接して理解出来るよう務める。
ある意味で出来は良くなくても良い生徒だ。
その上で本質を直感的に捉え、相手の言わんとする事を理解する能力は中々に侮れない。
「まあまあ、アルトリアに着いたらもっと色々な物を見れますよ」
北野はそう言って一旦話を打ち切った。
でないと後で色々話す事が無くなるかもしれないからだ。
それほど二人は馬が合っている様に見えた。
アルトリア基地ではエルフの突然の来訪にも関わらず、出来る限りの歓迎が行われた。
とは言っても式典と言うより、お客様のお出迎え程度だ。
それでも多くの自衛官が立ち並ぶ様子はアーヴァインを圧倒していた。
規律正しく、そして良く訓練されているらしい振る舞いには感嘆すらある。
しかし、逆に争いにならなくて良かったとも思えた。
戦いになっても負けない自信はある。
しかし、こちらも無事では済むまい。
アーヴァインは自衛官を見ながらそう感じていた。
とは言え、幸いにも話し合いで決着が着き、そして新たな関係を築く為の視察であるので自衛官たちの様子は頼もしくも見える。
「ようこそ日本国アルトリア地域、自衛隊アルトリア基地へ」
森が自らアーヴァインを歓迎する。
「大森林のエルフ代表として来ました。アーヴァインです」
二人は互いに握手を交わすと基地内へと歩みだした。
食堂ではささやかながら宴会の準備が整っていた。
これは北野たちが歓待を受けたのだからこちらも、と言う外務省官僚の意見があったのだ。
そう言う意味ではお花畑な思考しか出来ない官僚でも使いようはあると言える。
北野は、いっそ宴会省歓迎委員会でも作ったら良いかもな、と心の中で皮肉を言った。
「お口に合うか分かりませんが、どうぞ心行くまでお楽しみください」
官僚の言い回しにまるで接待だ、と高橋は思うが口にはしない。
「有りがたく頂きます」
アーヴァインはそう言って席に着くと、手近料理に手を伸ばした。
そばに箸があったが、スプーンやフォークならともかく、箸を知らない上に普段は手掴みで食べる事が多いのでそのまま普段通りにしてしまったのだ。
外務省官僚は「え?」と言う表情をしたが、すかさず北野や高橋、森らが手掴みで料理を口にした。
これはかつて、元の世界の英国女王がやった逸話の再現だ。
だが、少なくとも彼等にそんな考えは無かった。
ただ、それが彼等の風習ならば、と思い同じようにしたのだ。
食堂に揃った自衛官や職員、派遣役人もそれに習う。
面食らった外務省官僚も、北野らの真意に気付くと周りに合わせた。
実はこの時、アーヴァインは間違いに気付いていた。
何故ならば横の方にフォークやスプーンが用意してあったからだ。
だが、彼等はアーヴァインに恥をかかせまいとしたのだと感じ、アーヴァインは感激していた。
違う風習や習慣であるにも関わらず、それに合わせようとするのは並大抵の事ではない。
と・・・。
奇しくも宴会は交流の場となり、楽しい一時を作り出していった。