エルフの里2
だが、それでもこう言える。
「それでもどんなに酷くても何時かは分かり合えると思う。それを、平和な世界になると信じて俺はこの世界に生きている」
建前でも何でもない。
これが高橋の本音だ。
幾ら酷い世の中でも決して明けない夜が無いように、酷い世が続くわけではない。
高橋はその先駆けにエルフたちがなって欲しいと切に願った。
その時、エルフの少年が呟いた。
「でも、外の人間たちは神の教えとかでエルフを・・・」
一瞬、高橋は耳を疑った。
神の教え?何処で聞いた?たしか・・・。
直ぐに思い当たる。
ファマティー教だ。
「ちょっと詳しく教えてくれないか?」
高橋の言葉に少年は少しづつ語り出す。
それは高橋に新たに別の決意をもたらすことになる。
北野は後日の話し合いの場をアルトリア基地で行う事に多少なりとも安堵していた。
エルフの人々と語り合うのは苦にならないが、流石に大森林を抜けてエルフの集落に来るのは大変だからだ。
そのため、大森林との境に人間とエルフが共存出来る施設が必要と考えていた。
その時、高橋が北野の下にやってきた。
「おや?高橋さん、お待た・・・」
高橋の様子に北野は二の句を繋げられなかった。
今までどんな相手、状況でも圧倒されることなどない。
だが、高橋の放つ雰囲気は歴戦の北野でさえ息を飲むほどだ。
「北野さん、話があります」
有無を言わさぬ高橋の雰囲気に北野は頷いた。
エルフと会談した部屋を借りて高橋は北野と向き合う。
側にはアーヴァインもいる。
その中で高橋はエルフの少年たちから聞いた話を北野にした。
エルフは有史以来その存在は大陸中で知られていたらしい。
だが、今から約1200年ほど前に誕生したファマティー教が全てを一変させる。
教団が出来てから500年ほどは平和だった。
しかし、その時の教皇が人間以外は神に従わぬ異端者として弾圧を開始した。
その結果大陸に数多くいたエルフの大半は姿を消した。
大森林には元からエルフの聖地だったらしく、エルフは数多くいたが、その他の地に住まうエルフは軒並み殺戮の対象とされたのだ。
今でもエルフはいるが限られた地域にいるだけで、大半は正体を隠しながららしい。
その話をした時、北野はアーヴァインに確認を取った。
何事も話には尾ひれが付き易い。
だが、アーヴァインは全て真実と保証した。
「我等エルフが大森林から出ず、先の衝突を産み出す要因もそこにある」
そう言われた北野は宗教とは何か?と考えざる得なかった。
「・・・高橋さん、貴方に取って宗教とは何ですか?」
聞かれた高橋は即答した。
「人が生きる為の方便です」
簡潔かつ的確な表現だ。
だから高橋は無神論者を自認している。
「そうですね、全然全く同意しますよ」
肩をすくめながら北野はそう言って続ける。
「宗教とは人に許しを与え、その心を救う方便であればいいのです」
自身は宗教なぞ考えもしなかったが、この時ばかりは真剣に考えていた。
「しかし、その方便や建前が他者に害を与えるならそれは詐欺師と変わりません」
高橋は北野の言葉に頷く。
その上でファマティー教のやり方はこの世界では正義なのかもしれない。
だが、到底受け入れられないし認められなかった。
「北野さん、一宗教が宗教の都合でこうもろくでもない真似をするのを放置できますか?俺は嫌だ。例え偽善でもこんな酷いのは放置したくない」
まだ若く、人生と言う経験の浅い高橋らしい答えだ。
青いとも言えるだろう。
「気持ちは分かりますが、今の日本にそんな余裕はありませんよ?」
冷静に状況を分析し導きだした答えに高橋は頭では理解できた。
だが、感情が納得できない。
「今はまだ日本は存続出来るかどうかの瀬戸際です。正直、ファマティー教を私たちはよく知らない。それなのに冷静な判断が出来ますか?」
そう言われては高橋は感情に走りすぎかもしれない。
ただ話に聞いて腹を立てるだけなら子供でもできる。
だが、そうは言っても実際北野自身苛立っていた。
自分たちの元いた世界でも歴史が証明しているが、宗教が権力を持てば悲劇しか生まれない。
そして、それよりずっと後の時代の生まれであり当時に接した人間ではない。
だから易々と結論は出せない。
しかし、それらを踏まえても宗教とは何か?と考えるとファマティー教のやり方は何かおかしい。
そこまで弾圧、迫害せねばならない理由があるのか?
ただ人ではない、そして、ただ別の宗教を信仰していたり、ファマティー教を信仰してないだけで弾圧、迫害されて良いのか?
自分たちの価値観が全てではないが、彼等の価値観が全てでもない。
「今はその気持ちは底に閉まってください。ただ、いずれは何とかしなければならないでしょう。それまでは堪えてください」
北野はそう言って高橋を宥める。
高橋も話に聞いただけで腹を立てた事に恥ずかしくなっていた。
だが、そこにアーヴァインから発言があった。
「君たちは神を何だと思っているのだね?」
その問いに二人はこう答えた。
高橋は「偶像で幻想」、北野は「不幸を神のせいにする責任転嫁で妄想」と・・・。
その似た様な二人の答えにアーヴァインは笑い出す。
「くっ・・・はっはっはっ!君達日本人とやらはかなり辛辣だな」
そう言われても困ってしまう高橋は苦笑いするしかない。
「なに、あらゆる多様性を認めてるだけです。それが生きる者に害を与えない限りはね」
北野に取って辛辣と言われれば誉め言葉の様な物だ。
だからそれほど気にもならない。
「よろしい、実はアルトリアに向かうのは数日後になっていたのだが、君達と共に私が行こう」
突然のアーヴァインの提案に驚いたのは北野だった。
「よろしいのですか?」
思いがけない提案に北野は戸惑いがあった。
しかし、アーヴァインは構わん、と答える。
「何よりも君達を見ていると日本とそこに住む人々に興味が沸いた」
アーヴァインは最大限の好意を示すと同時に、臆面もなく本音で神など要らん、と言う二人に敬意と親しみを持った。
「なに、早いか遅いかでしかない。この目で見させてもらうよ。君達の国と民をね?」
ある意味、かなり大変な事であると同時に感謝すべきことだろう。
「分かりました。では本日中にでもアルトリアに向かいます」
北野の言葉に高橋とアーヴァインは同時に頷いた。
エルフと日本人、人種どころか種族さえ違う両者が互いを認めた瞬間だった。
短いですが第19話は終了です。
正直宗教を絡ませると終わらないと思いましたが、物語に一つの目的を明確に示すのには適当と思い宗教を絡ませました。
異論反論あるとは思いますが、実際私も大体おんなじ意見なんですよね。
まあ、考え方は人それぞれありますけどね。
さて、次で20話目です。
あっと言う間に着ちゃいましたね。
でも、ここで止まりませんよ?
まだまだ書き足りないのでこれからも書き続けます。
では今回はココまでです。
次回でお会いしましょう。
追伸:感想の書き込みが元気の源ですw