エルフの里
途中ですけど書き込んでおきます。
エルフとの話し合いで誤解を解消した日本。
その中でエルフの人々とありのままに接する高橋。
その胸に去来するは一体何なのか?
第19話「エルフの里」お楽しみください。
会談が一つの終息を見た時、その場はそのまま宴会の場となった。
エルフたちは料理と酒を最大限に振る舞い、高橋や北野はそんな彼等に親しみを感じる。
何処にでもある気の会う仲間との酒をのむ間柄の様だった。
それは彼等エルフの考え方が日本人と合うことを示した最初の事例だ。
昔から日本人は自然と共に生きてきた。
時代が変わり自然そのものを軽視した様に思えるが、その根幹にある日本人の性質は変わらない。
そして、他者を尊重し、その思想、宗教、文化に関わらずお互いを認め会えるなら如何なる相手であろうと友人となり得る事も・・・。
普段は気にしなくなっていても、何より相手を歓待するその精神は建前や形だけのものではない。
日本人は悪い形でそれを為してしまうが、それはやはりお人好しであるからかも知れない。
そしてそれはエルフたちも同じだった。
だからこそ、互いの利益を越えたこの場だけのものであっても相手を尊重できた。
それは日本が求めて止まなかった本当の意味での友人との出会いだったかも知れない。
夜は更ける。
だが、今の彼等に時間は関係ない。
ただ、共に手を取り合える相手と初めて出会えたのだから・・・。
翌朝。
彼等は普通に接してきた。
古くからの友人であるように。
まだ、詳しい話もまだだったが、やはり北野の真摯な対応が実を結んだ結果と言える。
そんな北野に高橋は敬意を持った。
彼は下手したら自らの命が失われるかもしれない状況でも決して臆することなく向かって行ったからだ。
この世界の常識からすれば北野の行動と発言は必ずしも好意的には受け止められなかったはずだ。
だが、エルフたちは理解してくれた。
そう言う意味では北野は打算的ではあったにしろ、日本の将来にあるべき何かを残したと言える。
「北野さん、お加減は如何ですかな?」
気持ち良いくらいの朝にアーヴァインが北野に挨拶を交わす。
「ええ、お陰様で気持ちいい朝を迎えれました」
世辞抜きでそう言えたのは北野に取っても以外だった。
「何より後に残らないお酒の作り方を学びたいくらいです」
正直言って酒に弱い北野はあれだけ飲んでも悪酔いせず、二日酔いもせずに済んだ事は非常に有り難かった。
「ははは、我々が口にする酒の作り方を教えては将来交易するときに我々が損しますよ」
その言葉は少なくとも交易を視野に入れた話が今後期待できるものだ。
しかし、それもこれからの北野の手腕にかかっている。
「お酒が苦手な私としてはエルフの皆さんと仲良くして行きたいですね。何せこんなに気持ちよく飲めるのですから」
朗らかな笑みで答える北野にアーヴァインも笑う。
まるで何年も付き合いがある友人の様だ。
「一応、我々は貴殿方日本との交易は視野に入れてます。ただ、細かい事はやはり後日になりそうですね」
隠すべき事柄をアーヴァインはあっさり言ってしまう。
自分たちの利益と言うものを考えない訳ではない。
言ってしまってもお互いに損がない上に信頼を寄せてるからだろう。
本来、騙し合いとも言うべき国同士の付き合いである外交をすべき立場にある北野にすれば新鮮な気持ちだった。
彼が甘くなった。感化されたと言うなら易しいだろう。
だが、それを非難するのは間違いだ。
元の世界なら間違いだが、この世界は元の世界とは違う。
如何に相手との信頼関係を築けるか?
それは杓子定規な考えでは出来ないのだ。
一瞬で相手の心理を読み、その上でどうするか?を瞬時に編み出せる北野だから出来た事だ。
「さて、続きは後日、とは言いましたが具体的な日取りを決めたいのですが?」
先程までの友人の顔から真面目で油断してはならない表情をみせる。
それに伴い北野も気持ちを切り替えた。
「分かりました。直ぐに伺います。それと貴殿方を見る限り護衛は不要と思いますので彼は好きにさせたいのですが?」
北野は真面目にそう言った。
単に信頼ではない。
それに信用があったからだ。
アーヴァインも、集落から出なければ構わないと答える。
「では、高橋君、集落の中でしばらく休んでください」
そう言われては高橋も拒否すべき理由がない。
初めて見るエルフの集落に興味もあったので北野の言う通りにしようと思った。
「了解しました」
それだけ答えると高橋はヘルメットを脱ぎ辺りを散策しだした。
自分が来た意味があったかはかなり疑問だったが、高橋は集落を見て歩いていた。
集落のエルフが高橋に視線を興味の向けるが、高橋はただのどかな集落の様子を何気なく見ていた。
「あのう・・・」
そんな高橋に背後から声がかけられる。
なにかと思い後ろを見ると少年や少女といった感じの男女がいた。
「え、えっと何かな?」
高橋の返答に一斉に逃げ出す。
何が起きたのか分からない高橋はただ呆然とその有り様を見ていた。
「なんだ?」
訳が分からず高橋は首をかしげる。
しばらくそのまま待っているとまた集まり出す。
(もしかして、怖いのかな?)
高橋は自分がそんなに怖いかを考える。
しかし、思い当たりがありすぎた。
(生死を賭けた場にいた時の雰囲気を感じ取ったのかな?)
結構、暢気にそんな事を考えてたが、また集まった少年少女たちは高橋に声をかける。
「あの・・・外の人ですよね?」
外の人と言う表現に違和感を感じたが、大森林の外と考えると分かる気がした。
「ああ、そうだけど?」
そう言った高橋に表情を輝かせた少年少女たちから一斉に質問が投げ掛けられた。
外の世界はどんなものか?
貴方みたいな人はどれだけいるのか?
外の世界の文化はどんなのか?
様々な質問を一斉に向けられても高橋は聖徳太子ではない。
一つづつ聞かねば答え様がない。
「待て待て、質問は一つづつにしてくれないか?」
高橋の言葉に子供たちはひそひそ話をし、順番を決めた様だ。
「あの、貴方は何処から来たのですか?」
最初の質問がこれだった事は高橋には救いだったかもしれない。
「ここからもう少し南にアルトリアと呼ばれる地域がある。そこから海を越えた先の日本と言う国からだ」
簡単にそう答えると彼等(彼女等)は互いに手を取り合う様に歓声をあげる。
よっぽど高橋の様に外から来る人は珍しいのだろう。
そんな印象を高橋は受けた。
「外の世界、てどんな感じですか?」
続けざまに来た質問には高橋は簡単に答えられない。
何せ日本と言う国とアルトリア、そしてホードラーしか知らないからだ。
「俺も簡単に言えないが、酷い世界さ」
そう言いながら高橋はホードラーにあった旧王国、その王国に巣くう諸侯と言う魑魅魍魎。
そして宗教と言う底の見えない存在を分かる範囲で答える。
それと同時に自分たちがそう言った物とは違うこと、そして、そう言った存在とは別に新しい、いや、別の考え方が、生き方があることを高橋は出来る限り答える。
それは自身にも向けられた言葉かもしれない。
如何に元の世界、そして日本で生まれ育ったとは言え、比較的長くこの世界の標準的思想や常識に接してきたのだ。
自分たちが絶対の正義とは言えない上、それ以外の価値観が間違えとは思えない。
故に高橋自身、揺らぐ物があった。
だが、自分たちがやってきた事で特権階級者から恨み、妬みを買うことはそれほどの苦痛ではない。
ただ、本当に自分はこれで良いのか?
そう言った意味での再確認が出来た気がした。