新たな任務3
高橋の言葉にアーヴァインは、ふむ、と呟くとその場で返答してきた。
「よかろう、護衛が一人着くくらいなら我々の判断に変更は不要だ」
その有難い申し出に高橋は頭を下げると北野を呼び出した。
呼び出された北野は、この短いやり取りから小細工は出来ないと考えた。
「私が交渉役の北野です。提案を受けてくださり感謝します」
そう言ったがアーヴァインは頭を振る。
「実際に話し合いとやらをしてみないことには結果は分からんぞ?」
現実的な考えにこれならまだ話し合う余地はあると北野は思った。
旧王国に比べれば話が出来るだけ遥かにましだ。
「そうですね。ですが一度の間違いで手を取り合えない、と言われるよりは遥かにマシでしょう」
アーヴァインは慎重に北野と言う人物を見定める。
そのアーヴァインの目に北野は油断ならない人物として映るが害意を持った人物ではないとも判断できた。
「それは此方もだ。ただ一度の誤ちが未来永劫付きまとうのではこの世は何と救いの無いことか」
まるで役者の様に言うアーヴァインに北野も同様に役者の様に返す。
「救いの無い世の中なら我々の間だけでも救いのある世にしたいものです」
互いに真意を隠したやりとりだが、同時に互いに争いを求めてではなく、本当に話し合いで解決、そして互いの友好を願っているのは理解できていた。
「では着いて来なさい。しばらく歩き通しになるが良いかね?」
エルフの青年、アーヴァインはそう言って運動の苦手そうな北野を気遣う。
「大丈夫。その程度で立ち止まらねばならないくらいなら初めからこうして来ませんよ」
確固たる意思を持って北野もアーヴァインの問いかけに答えた。
「よろしい、では案内しよう」
そう言って右手を上げたアーヴァインは背を向けると大森林に向かって歩き出す。
高橋はアーヴァインの手の動きが何かの合図に思い周辺を見渡した。
なるほど、すでに包囲されてたか。
高橋の目に暗い周辺に溶け込んだエルフが数人ではなく数十人隠れていたのが見えた。
レンジャーでもこうは行かない。
それをまざまざと見せ付けられた様にも思えた。
エルフの集落まで歩き通したものの、正直言って北野はへとへとだった。
(いずれ道を切り開くぐらいはしたいですね)
集落を見た限りでは文明レベルは中世より低い感じはしたが、それは彼等の生活が森での暮らしに合わせているのだろう。
その証拠に彼等の持つ弓矢等の武器、革鎧は優れた技術で作られていた。
弓は単純な木製ではなく、複数の材質を織り混ぜて作られた強化弓であり、革鎧も軽さの割にかなり強度がある。
これだけの装備なら下手な兵隊よりもお金がかかっていそうだ。
高橋と北野は比較的大きな木造の家に案内される。
アーヴァインは代表を呼んでくるまで待て、と言うと毛皮を床に敷いた。
アーヴァインが出ていった後、二人が地面に敷かれた毛皮の上に座ってエルフの代表を待っているとにわかに外が騒がしくなった。
「どうやら来たみたいですね」
高橋が人の気配を感じとり北野に教える。
「では、これからは私の役目ですね」
そう言って北野は姿勢を正した。
その時にドアが開き複数のエルフが入ってくる。
エルフたちは皆、高橋たちと同じように床に座るとそれぞれがそれぞれの氏族の代表であると言った。
つまりこの場に全エルフの氏族の代表13人が揃っているのだ。
ちなみにアーヴァインは第7氏族の長として話し合いに参加すると言う。
「さて、ワシがエルフ13氏族のまとめ役であり第1氏族「管理者」の長バーテックじゃ」
一番年長の老人が改めて自己紹介をする。
北野も自己紹介を済ませると早速交渉に入った。
しばらくお互いの主張が続いた。
その上でやはり先日の偶発的衝突が問題視された。
「我々としてはその件につきましては謝罪申し上げるとしか言えません。また、もしも補償を求めるをならば別に話し合いの場を持ちたいと思っています」
北野は敢えて日本の非を認めた上で、再発防止に務め補償もすると言った。
「別に死んだ訳ではないから補償は要らぬ。それとそちらの死者についてだが・・・」
バーテックはそう言って北野の反応を見る。
北野はここでエルフ側に責任云々を議論するつもりもない。
非は此方にあるので何ら求める気がない、と伝えた。
「ふむ、しかし、そうもいかぬ。如何なる理由であれ死人を出した以上はそれなりの行為をしなければ我々の誇りが許さぬ」
北野が初めから非を認め、率先して頭を下げる事で互いの不信感を早期に解決できた瞬間だった。
これだけでも北野の外交的手腕の勝利となり得るが、北野はそんなものが欲しい訳ではない。
北野はこの機会にエルフとの交友を持ちたいと思っていたのだ。
「ならば、こうしてはどうでしょうか?」
北野はそう言って一つの解決策を提案する。
それは、エルフは先に手を出した此方の非を許し、逆に日本はエルフにより出た死者の事を許す。
と言うものだった。端から聞けば死者の田淵を蔑ろにしているが、田淵の命より日本がエルフと交友を持つ方が万倍も大事だ。
この際、田淵の死はその足掛かりになってもらおう、と言う辛辣な考えがあった。
エルフたちは少し話し合った後、それで良いと合意した様だった。
それを聞いた上で北野は交友を持つための交渉に移る。
「我々としましては今後の事もありますので国境の制定、並びに国交を持ちたいと思うのですが如何でしょうか?」
この提案にエルフたちは怪訝な表情になる。
「国交?我々は国家ではないが?」
バーテックは長い髭をなでながら北野の話に答えた。
「我々の常識から言えば国が領有を主張しなければ先に主張した側の物になります。大森林が貴殿方の国であり領土、とならない場合は開発しようと言う動きがあるのです」
半分でまかせだが、半分は本当だ。
日本本土では大森林を開発しようとする動きがある。
北野はそれを言っているのだ。
「それはそちらの都合ではないか?」
秩序の名を持つ第3氏族の長が北野に反論する。
「そうです。此方の都合です。ですが、国であるなら対等に付き合えますし、お互いに様々なことで手を取り合えると思います」
北野としてはこの領域がエルフの国であるならば、その方が都合がいい。
何故ならばこの広大な大森林を開発出来ないのは惜しいが、下手に管理する必要がないからだ。
また、旧王国とは違い話が通じるならば交易も可能になる。
今の日本はアルトリアとホードラーと言う2つの地区を持つものの、交易すべき対象が居なければまともに付き合える国もない。
そう言う意味では日本はまだ孤独だったのだ。
戦後から孤立と言う状態に拒否的反応を持つ日本人が多くなった。
そのストレス解消の的にしたいのだ。
「我々の国と言われましても、我々の何処の氏族から誰を王にせよと申すのですかな?我々はそれぞれの役割を担い、それぞれの氏族に上下を作らなかったから今までやってこれたのですよ?」
アーヴァインは今更、国家と言う形は無理だと断じた。
それを聞いた時、北野はこれだ!と思った。
「王など要りませんよ」
北野の話にエルフたちは不思議そうな表情をする。
人間は王とか神とかで上下を着けたがるのではなかったのか?
人間はそうやって支配する側とされる側に別れるのを求めていたのでは?
と言う感じだろう。
「現に我が国日本にも天皇陛下と呼ばれる象徴は居りますが王はいません。政治は議会による話し合いで決まります」
予想外と言える北野が語る日本の政治体制にはエルフたちも目を見張った。
「ふむ、詳しい話を聞きたいな。が、少々夜も更けた。後日改めて話し合いたいが宜しいか?」
まとめやくであるバーテックはまず日本と言う国が如何なる国かを知る必要もある。
その為に国交云々の話はこの場で深くやらずにいた。
北野としては勢いのまま決めたいところだったが、拙速に事を進めて台無しにするよりは、とこの場での話を切り上げる事にした。
な、長くなりすぎました。
ま、まあ、その分読めると思ってくださいw
これにて第18話終了です。
次回以降話が短く(気分で長くなりますがw)なります。
また、20~24話辺りで一端終わりにして新章として新たに小説を作ります。
理由?
そんなの「新しき世界へ」だけで60話以上書いたから読みやすくするために決まってますがなw
いえ、管理が面倒なだけですw
と、言うわけでもうちょっとお付き合いください。
気が向く方は新章も引き続き読んでくださると幸いです。
ま、気が早いですけどねw
では今回はこの辺で次回でお会いしましょう。




