新たな任務2
―――同日 アルトリア基地
アルトリアに到着してから二人には休息を指示した高橋はその足で司令室に向かった。
正式な基地司令がまだ決まってない為に森が司令代行だった。
「やあ、よく来たね」
北野が先に司令室に来ていた。
白々しい挨拶だが北野とて致し方ないと判断しての事だろう。
だから、高橋はお気遣いなく、と答えるだけにした。
「すみませんね、休暇中でしたでしょうに」
そう言われた物の高橋は外出取消しを受けてたので気にならない。
「早速、状況をお伝えしますね」
北野はそう言って高橋に資料を渡す。
田淵の独断専行、それにより現地人に死傷者がおり、また現地人の反撃に田淵の戦死。
あまり好きになれない人物だったが、一度は上司だった人だ。
その冥福を祈った。
「つまり、我々は北野さんを護衛しながら大森林に行けば良いのですね」
高橋の話に北野は満足そうに頷いた。
「その通りです。しかも軽武装で」
内心楽しくは無いが、北野はさも楽しそうに演じた。
ある意味、高橋の反応を見てみたかったのだ。
「・・・なるほど、中々に愉快な状況ですね」
北野の言葉に高橋は小銃は持って行かずに9mm機関拳銃を持って行ければまだマシか?
と考えた。
問題は9mm機関拳銃を高橋は扱った事がない。
なので、射撃時の反動などがどの程度か分からない。
「軽武装となりますと護衛は極めて困難です。ほとんど形ばかりの護衛になりますが?」
少し悩んだ様子の高橋に北野は、下手な人物よりは安心出来そうだった。
これが頭から無理と考える様では話にならない。
そして簡単に可能と言うなら論外だ。
出来るとも言わず、不可能とも言わない高橋は状況判断が的確と言えるのだ。
そう言う意味でなら任せていい人物と言えた。
「遺書ぐらいは用意する時間をあげますよ?」
北野は半分厚意で言ったが高橋は首を横に振った。
「読ませる相手がいませんし、何より遺書を残す様な仕事をする気はありませんよ」
自棄にならずに生きて帰る事を前提にしている点は評価に値すると北野は思った。
「よろしい、本日これからでは時間的に夜になりそうですが善は急げです。直ぐに向かいましょう」
北野は立ち上がると即座に動く旨を伝えた。
「夜間に向かうのは構いませんが、大森林に入るのは私と北野さんだけですよ」
北野の背中に投げ掛けられた高橋の声は一瞬、北野を驚かせた。
「当然でしょう?万が一にも退路は確保してもらわねばなりません」
そこは専門の高橋、北野の足りない想定を補足するのに十分だった。
「なるほど、わかりました。あんまりゾロゾロ連れて行っても逆に警戒させてしまいますからね」
北野は高橋の提案を了承すると部屋から出ていった。
二人のやりとりをじっと見ていた森は正直賛成しかねる思いだ。
だが、二人がそのつもりなら口は挟めない。
「高橋少尉、少しいいかね?」
森に声をかけられた高橋は森の前に歩みでる。
「正直言って心配なんだ。勝算はあるのかね?」
しかしその問いに高橋は無い、としか言えない。
高橋としては北野次第と言えたからだ。
「北野さんの手腕に期待しますよ」
それがダメなら恐らく無事では済まない。
何せ相手は森を常日頃から生活の場にしているはず。
ならばレンジャー隊員でもかなり難しいはずだ。
レンジャー訓練も受けてない高橋自身、実際に北野を守りながら森から脱出など不可能だと思うからだ。
「・・・北野さん任せか、やるせないな」
森も高橋の考えと同じだ。
これが一個師団のバックアップを受けるならともかく、実際にバックアップは無い。
ならば北野の交渉に全てを託すしかないのだ。
「よろしい、万全を尽くして臨んでくれ。それしか言えん」
森は半場諦めた様に言った。
それに対し高橋は敬礼で答えた。
大森林に向け高機動車を運転する高橋は油断なく周囲に気を配る。
万が一大森林前で攻撃を受けても言い様にだ。
「大分暗くなりましたね」
四宮は周辺が暗くなる様子にやや戸惑いがあった。
それは仕方ない事かもしれない。
訓練や演習で山奥に行った時ならともかけ、普段は小松基地と言う周辺が街で一定の明るさがあるなかで暮らして来たのだ。
この飲み込まれる様な暗さには圧倒される。
今のこの一向にある光源は高機動車のヘッドライトだけだ。
ちなみにこの高機動車はトヨタが開発した陸上自衛隊向けの軽人員輸送用車両だ。
以前は三菱ジープと呼ばれた車両を使っていたが、装甲が脆弱で歩兵からの銃撃で搭乗する兵員の死傷から守る形で全面的に対小銃レベルでの装甲を施した車両だ。
その分、車重が増した為に悪路走破能力の低下や調達コストの高騰などの運用面の問題が起きた。
しかし、それを補ってあまりある多様性(多数の派生型がある)は今や自衛隊において三菱ジープより遥かに高い。
もっとも、未だ三菱ジープが多数使用されてる現実は如何に自衛隊が少ない予算に苦しんでいるかの左証でもある。
その高機動車は大森林目前に到着する。
周囲は静けさに包まれ、不気味と言える様相であったが、高橋には確かな敵意を感じとる事ができた。
幸か不幸か今までの戦いで培われた能力と言える。
「総員このまま待て」
高機動車を停めた高橋は一人車両を降りた。
四宮と多田は何が起きるのかと言う感じだったが、高橋は高機動車から離れると大声をあげた。
「自分は日本国陸上自衛隊所属の高橋少尉です!我々に敵意はありません!話し合いをしたいのですが!」
突然の高橋の行動に北野も含めた三人は驚いた。
こんな何も無い平原でいきなり大声をあげるのだ。
普通なら正気を疑いたくもなる。
しかし、その高橋の行動は間違いではなかったのが証明される。
何時から居たのか、数人が草むらに隠れていたのだ。
それぞれが弓矢とおぼしき武器を構えている。
それは間違いなく高橋を照準している様に見えた。
「話し合い?」
人影の一人から高橋に確認を込めてだろう。
そう問いかけがあった。
「話し合いです。不幸にも行き違いがあり、此方の人間が貴殿方の仲間に危害を加えてしまった事は謝罪してもしきれません。ですがその事だけで手を取り合う機会を失うのは双方に取って損失だと思います」
高橋の冷静かつ、そして真摯な言葉が通じるかは神にしかわからないだろう。
だが、これが証拠とばかりに高橋は銃を捨てた。
「話し合いを持って事態の収束を我々は臨んでいます。話し合いが不可能であるなら我々は即座に立ち去ります。如何ですか?」
そこまで言われて問答無用で攻撃を仕掛けては完全に自分たちが野蛮であるとの証明だ。
だから人影の一人は高橋に敢えて歩みよった。
「私はエルフ13氏族が一つ、守りの氏族であり第7氏族のアーヴァインだ。話し合いと言ったが、場所は此方で指定しても良いのだな?」
アーヴァインと言った見た目には若いエルフが高橋に告げる。
高橋はその要求に従うと伝えた。
「よろしい。我々も力で事態の解決は望まない。故に貴君の申し出を受けさせてもらう」
アーヴァインと名乗ったエルフはそういうと高橋に着いてこいと指示した。
「すみませんが、私は護衛役であり交渉役の人はあの中です。その交渉役の人と共に行くのが私の役割ですがよろしいですか?」
相手を刺激しないように高橋は慎重に言葉を選んだ。
書き足し完了。
続きはまた今度です。